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第1102号(平成19年8月5日) |
平成20年度予算 概算要求へ向けての要望事項
(社)日本医師会
I 重点要望事項
1.良質かつ安全,安定した医療提供のための医師・看護師等確保対策の確立(緊急)
国際的に高い評価を得ているわが国の医療制度ではあるが,その経済力に比し,人口千人当たりの医師数は,OECD加盟国のなかでも低い水準にある.
未曾有の超高齢社会を迎えるわが国にあって,良質かつ安全で安定的な医療提供体制の確保は,喫緊かつ不可避の課題であり,以下の措置等によって,医師をはじめとした医療従事者の確保対策を図るべきである.
(1)「医師確保総合対策費」の創設(新規)
(2)女性医師の就業支援対策の充実
(3)地域医師会による医師確保事業(ドクターバンク等)の推進
(4)看護師・准看護師養成関連事業への支援
(5)医療安全の確保に資する死因究明のための第三者機関の設置(新規)
(6)助産師養成コース新設補助金の創設(新規)
2.国民が安心できる医療保険制度の確立とそのための財政措置
わが国の75歳以上人口は,平成17年の1,164万人から,平成42年には2,266万人とほぼ倍増すると予測されている.
疾病の発症や要介護状態となるリスクの高い後期高齢者が増加する一方,長年にわたる医療費抑制策の影響によって,いまや医業経営の継続すら困難な状況にある.
国民が安心できる安定した医療保険制度の確立には,医業経営基盤の安定は不可欠の対応である.社会保障の充実・発展を図るという視点からも,以下の事項の実施を求める.
(1)高齢者医療制度の適切な運営のための財源の確保(新規)
(2)継続的な医療提供,すなわち安定的な医業経営を可能とする診療報酬改定財源の確保
3.地域医療再生のための連携,ケア体制の確立
国民にとって,医療はおのおのが居住する地域で完結することが望ましいことは言うまでもない.
しかし,医師の偏在,あるいは不足などの要因によって,地域医療提供体制は崩壊の危機にある.
それぞれの地域で,住民の多様なニーズに対応し得る医療提供体制を確保するためには,医師等の確保対策と合わせて,地域における医療資源の確保と,医療機関等の有機的な連携が必要である.その実現のために,以下の事項の実施を求める.
(1)療養病床再編に伴う地域のケア体制の基盤整備の見直し
(2)療養病床転換支援策の拡充
・療養病床の転換に関する設備等の増改築に対する補助金,交付金等の充実と,その運用に関する柔軟かつ十分な支援
(3)「医療連携体制推進事業」および「在宅緩和ケア対策推進事業」の拡充
(4)地域支援事業・地域包括支援センター等の充実
・地域包括支援センターの整備促進と円滑な施行のための十分な人員確保対策
・地域支援事業の円滑な施行のため,基本チェックリスト等の活用や地域資源の活用と連携の支援
4.地域保健対策の充実・確立
産業構造や生活習慣の変化等によって国民の疾病構造が変化し,生活習慣病を中心とした予防医療の充実が強く求められている.
平成20年度の特定健診・特定保健指導の実施およびその結果としての効果をも視野に入れながら,小児から高齢者まで,生涯を通じた保健事業の確立が重要な課題となる.そのために,以下の事項の実現を求める.
(1)ペリネイタルビジット(周産期小児保健指導)の充実
(2)学校・地域保健連携推進事業の継続・拡充
(3)平成20年度から小規模事業場に対して義務化される長時間労働者への面接指導実施のための地域産業保健センター事業予算の増額
(4)生活習慣病,特に糖尿病対策に対する補助
(5)平成20年度から実施される特定健診・特定保健指導事業に向けての研修会費および電子化に当たっての補助
(6)労働安全衛生法に基づく定期健康診断実施後の特定保健指導に関する研修への補助(新規)
(7)マンモグラフィ緊急整備事業等の継続実施
(8)地域がん診療連携拠点病院の整備費の増額等,がん対策の推進
5.新型インフルエンザ等新興感染症・再興感染症対策の推進
新興感染症の脅威は,WHOを中心とした世界的規模の対応が迫られている.
わが国においても,常に新型インフルエンザを中心とした新興感染症の発生を視野に入れながら,予防,まん延の防止等の対策を万全にしておく必要がある.
特に,受け入れ先の医療機関の体制の整備が,大規模な流行を回避する有効な手段となることから,以下の事項の実現を求める.
(1)医療機関におけるマスク,消毒薬の備蓄
(2)流行拡大防止の措置に対する休業補償制度の創設
(3)感染症病床および感染症患者の搬送体制の整備
(4)医療従事者に対する予防接種の公費負担
(5)新型インフルエンザワクチンの製造・備蓄,抗インフルエンザウイルス薬の備蓄の拡充および定期予防接種ワクチンの備蓄
II 各論的要望事項
1.良質かつ安全,安定した医療提供のための医師等確保対策の確立
(1)女性医師バンク事業費の増額
(2)再就業講習会事業の運営
(3)病院事業者等への啓発(新規)
(4)若い女性医師への啓発・支援(新規)
(5)専門職養成事業(新規)
・女性医師の多様な就業を支援するための保育相談員(事務職)の養成事業(新規)
・コーディネーター(医師)の養成事業(新規)
(6)女性医師の現況調査(新規)
(7)慢性的な産婦人科診療関係医療従事者不足の改善
(8)若手産婦人科医師確保のためのサマースクールの支援(新規)
(9)医師養成についての支援体制の充実
(10)行政処分を受けた医師等に対する再教育における助言・実技指導者の養成(新規)
(11)新卒医師等に対する医療安全教育・研修の充実・強化
(12)医療事故に対する刑事司法介入の限定化を目指した法的環境整備(新規)
(13)介護サービスの質の向上のための,認定調査員等研修事業や,かかりつけ医対応向上研修,認知症サポート医養成研修事業等の拡充
(14)介護サービス事業従事者の人材育成および確保策の充実
2.国民が安心できる医療保険制度の確立とそのための財政措置
(1)レセプトオンライン請求実施に伴い発生する各医療機関の環境整備に対する補助,および支払基金等による代行入力業務の整備(新規)
3.地域医療再生のための連携,ケア体制の確立(含救急医療)
(1)離島巡回診療ヘリ運営事業の拡大(新規)
(2)ドクターカーおよびドクターヘリの全国整備に向けた普及拡大と弾力的運用
(3)遠隔医療設備整備事業の充実
(4)初期の小児救急医療体制(休日夜間急患センター等)の整備・充実
(5)小児救急電話相談事業の推進(特に地域医師会による受託の推進)
(6)小児救急医療支援事業(二次救急)の存続・充実(単価引き上げ)
(7)医師を対象としたACLS研修会費の補助制度創設
(8)ACLS研修会インストラクター養成のための研修会費の補助制度創設(新規)
(9)ACLS研修会設備整備(訓練用人形,AED等)
(10)医療機関へのAED配備促進のための支援
(11)へき地・離島の医師に対するACLS研修の推進(研修会運営費,機器導入費等)
(12)地域医療対策協議会の運営等に対する支援
4.地域保健対策の充実
(1)日医認定健康スポーツ医の資質向上研修への補助(新規)
(2)肝炎対策の充実
(3)精神保健対策の充実
・自殺総合対策の推進
・触法精神障害者対策の推進,充実
・応急入院と移送制度の拡充
・老人性認知症センターの充実,強化
・思春期精神医療拡充のため,専門スタッフの養成と専門病棟への補助金
・長期入院患者の退院促進に伴う地域における受け皿およびケア体制整備の支援
5.安心して子どもを産み育てるための環境整備
(1)児童手当支給要件緩和(現行12歳まで→15歳まで)
(2)医療費自己負担分の補助
(3)出産育児一時手当金の増額(現行35万)
(4)産後休業を12週に延長(現行8週→12週)
(5)保険財源によらない不妊治療費の増額(現行1年当たり10万円2回まで)
(6)小児デイケア・ショートステイ施設等の整備
(7)子どもの心の診療医を育成・確保するための研修会費の補助
(8)新生児聴覚スクリーニング検査の公費負担事業の予算化と聴覚障害児発見時の治療ならびに療育体制の整備・充実(新規)
(9)子育て中の母親が安心して勤労可能となるよう,子育て家庭への支援(新規)
6.臨床研修制度
(1)新医師臨床研修制度におけるさらなる指導医養成の強化
(2)地域保健・地域医療の研修医に対する相談窓口の整備と充実
(3)卒前学部教育における学外臨床実習の支援体制の構築
(4)臨床研修に関する四者協議会(地域医師会,大学病院,臨床研修病院,行政)の支援体制の充実
7.その他
(1)電子化された医療情報の交換および適切な活用を可能にする標準化の推進
(2)医療機関で被保険者資格を即座に確認できる仕組みの構築と情報を読み取る端末等の各医療機関への整備
(3)医療機関におけるICタグ導入に対する補助
(4)オーダリングシステムの改良化に対する補助
(5)医療機関等の耐震改修費補助
(6)アスベスト除去工事費補助対象の診療所への拡大
(7)地球温暖化対策に取り組む医療機関への補助(新規)
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