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第1104号(平成19年9月5日) |
政治の原点は何か―参議院選挙が終わって思う―
今回の参議院選挙の結果は,国民の,政治に寄せる関心がどんなところにあるのか,また,政治が国民にどう向き合っているかが垣間見えた選挙であった.
日本の政治のなかで,かつて重要な舵取りをしてこられ,その鋭い洞察力と歯に衣を着せぬ発言から「かみそり」の異名をとった故後藤田正晴氏が二〇〇四年の参議院選挙で敗北した際,小泉純一郎総理に対して,「そこのけそこのけ,お馬が通るという言葉がありますでしょう? そういうやり方はね,お考え願いたいと,そういう意味でお灸をすえられた選挙だったと思いますね」「国民はね,賢いよ.すべてお見通しだよ.ということを言いたいな」(二〇〇四年四月七日放送,TBS系『時事放談』より)の語録を遺しておられる.小泉構造改革路線を継承し,そのうえに安倍政権カラーを出さんがために,対話よりも一連の法案を強権的に通した手法への批判が,必ずしも野党支持ではない国民のなかにもあったことは否定できないと思う.
しかし,それ以上に,小泉政権下の長い間の歳出削減策による構造改革のなかで,あらゆるところで疲弊し,立ち上がれない状況にまで追い込まれている国民の生活への配慮が足りなかったと言える.労働市場の二極化による格差がもたらした世帯間の所得格差,あるいは地域格差に対して,真剣にその中身を問いただし,わずかでも改善を行うメッセージを送っただろうか.苦しい国民の声を汲み上げきれなかったことが,与党自民党に信頼を置いてきた選挙民も離れていったことにつながったと考える.
私たち医療の世界でもそうであった.度重なる医療制度改革および診療報酬のマイナス改定により,医療現場も崩壊しつつあり,地域医療もこのままの状態では良質で安全な医療を提供できる状況ではなくなってきた.二〇〇六年四月時点での医療機関の損益分岐点比率が悪化し,収入が五%を超えて減少すれば,赤字に転落するところまで来ている.また,本年一月から六月までの半年間の病院の倒産は三十一件となり,この七年間で最も多かった二〇〇四年の年間三十二件と並び,このままでは年間六十を超える倒産を生む危機的状況にある.
この現実を私どもは訴え続け,国の社会保障整備・充実への視点を求めてきたが,医師確保には緊急対応が図られたものの,なお社会保障費二千二百億円の削減を図るなど,医療現場からの期待に遠いことが,医療人の自民党への票が離れていった原因と言える.
社会保障の原点は,一人ひとりの人間の価値,生活の理想を担保するものであり,医療はその根源となる生命を救済し,健康な暮らしを支える万民共有の公器である.国は相応の財を投じるよう,迷いなく政策を実施しなければならない.
(副会長・竹嶋康弘)
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