日医ニュース
日医ニュース目次 第1105号(平成19年9月20日)

勤務医のひろば

ヤング・ソルジャーたち

 対人口比,GDP比で,発展途上国並みの少ない医師数と低予算で,高度な医療内容が要求され,全力を尽くしても,結果が悪ければ訴訟になる病院医療.疲弊してやりがいを失った勤務医が,次々に病院を去るようになり,ようやく勤務医の劣悪な労働環境がマスコミでも取り上げられ始めた.
 一方で,勤務医の多忙さを疑問視する議論もあるが,大多数の勤務医が置かれている状況は,多忙そのものだ.
 勤務時間を過ぎても病院にいるのは,仕事の絶対量が過剰だからだ.漫然とした仕事のせいでもなければ,上司に気遣っているからでもない.いくら頑張っても,仕事が終わらないのである.
 精神的余裕を持って患者に対応したいが,時間外労働,夜間救急,当直,相次ぐ会議,クレーマーへの対応などで,自身のメンタルヘルスも怪しくなってきている.
 先日逝去した城山三郎氏は,『粗にして野だが卑ではない 石田禮助の生涯』で,七十七歳の禮助が自ら“ヤング・ソルジャー”と称し,「公職は奉仕すべきもの」として,パブリックサービスの信念を貫く姿を描いた.
 従来,公的病院の勤務医は,高い職業倫理のもと,ソルジャーとして日本の医療を支えてきた.しかし,病院経営の悪化,医療安全への高まる要求,新医師臨床研修制度による医師の減少などで,勤務医の労働環境は悪化の一途だ.劣悪な環境から上質な医療は生まれない.
 パブリックサービスという気風など,みじんも感じられない医師が増えてきてはいないだろうか.医師の士気の低下が懸念される.立ち去るか,踏みとどまるか,勤務医は岐路に立たされている.
 国民の関心を好機ととらえ,勤務医の労働環境を改善し,多くの“ヤング・ソルジャー”を踏みとどまらせ,日本の医療を支えていく必要がある.

(和泉市立病院小児科部長 村上城子)

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