|
第1106号(平成19年10月5日) |
平成19年度第2回都道府県医師会長協議会
医療界の分断策には一枚岩で対峙
平成十九年度第二回都道府県医師会長協議会が,九月十八日,日医会館小講堂で開催された.各都道府県医師会からは,来年四月から実施される特定健診・特定保健指導を中心に,多岐にわたる質問が出され,担当役員が,それぞれ回答した.
羽生田俊常任理事の司会で開会.冒頭のあいさつに立った唐澤人会長は,初めに,東北地方での集中豪雨被害に対するお見舞いの言葉を述べるとともに,先の参議院選挙における各都道府県医師会の協力に対して感謝の意を表した.
そのうえで,日医が八月二十九日に発表した『グランドデザイン二〇〇七』の「各論」に触れ,「この『総論』『各論』をもって,日医の明確な医療政策を各関係団体や国民に対して広く説明し,理解を求めていきたい」との意向を示し,各都道府県医師会にも,関係各位への周知徹底に協力を求めた.
協議に先立って,新潟県医師会から,新潟中越沖地震の被災に対するお見舞いや協力への謝辞が,京都府医師会からは,故横田耕三元京都府医師会長の医師会葬(合同葬)に対する謝辞が,それぞれ述べられた.
協 議
(一)徳島県医師会からの特定健診の料金についての質問に対し,内田健夫常任理事が回答を行った.
健康保険組合連合会(健保連)は特定健診の費用として五千円を提示しているが,これは検査料のなかの医師の判断料が除かれたものであり,日医としては到底納得できる額ではないことを指摘した.
また,特定健診の単価は,診療報酬の点数を積み上げて各地域で実施されていた従来の老人保健事業の実績をベースとして決定されることから,それを基本として各地で交渉して欲しいと説明した.
一方,各地域の状況を知るために情報交換の場を作って欲しいとの要望に対しては,今後,日医としてのメーリングリスト作成を検討することとなった.
(二)三重県医師会からは,特定保健指導の実施者について,(1)「一定の保健指導の実務経験を有する看護師」とは具体的に何を意味するのかとの質問と,(2)病院や診療所の看護師が保健指導補助者として従事可能となるよう厚生労働省に折衝を求める要望が出された.
これらに対し,今村聡常任理事は,(1)について,厚労省では,産業保健の現場ですでに働いている看護師を想定しており,病院・診療所に勤務している看護師は含まれていないことを説明.(2)については,現段階で,すでに医療現場に従事している糖尿病療養指導士の資格を持つ看護師や糖尿病認定看護師に,保健指導の資格が認められていないという,極めて現実離れした内容になっていることを問題視.保健指導の実施対象者を今後五年間で計画的に増やしていくことになっていることから,実施状況も踏まえて,引き続き,見直しを要望していくと述べた.
(三)大阪府医師会からの特定健診・特定保健指導に関する日医の対応についての質問には,内田常任理事が回答した.
日医で集合契約を締結して欲しいとの要望に対しては,特定健診の料金が,従来の老人保健事業の実績から,各郡市区医師会でさまざまな価格で実施されている現状があり,独占禁止法との関係からも,統一価格で日医が契約を締結することは難しいとした.
また,IT化に対応できない医療機関については,特定健診に限定したうえで,統一の標準様式の下,代行入力機関を設置できないか,現在,関係者等と協議中である.「みなし指定」に関しては,辞退届が必要となり,弊害も多い.したがって,支払基金でいつでも登録ができるので届出をして欲しいと説明した.
(四)埼玉県医師会は,特定健診・特定保健指導に関して,(1)各自治体での対応の遅れ(2)健診を実施するための補助金(3)集合契約─に対する日医の見解を質した.
内田常任理事は,(1)について,準備が遅れていることは遺憾であるとし,日医としても,今後の省令,通知に向けて,厚労省と協議を重ねていると説明した.(2)については,自己負担分(三割)は対象になっておらず,自己負担分を除いた金額の約三分の一が国からの補助額になることを説明.また,特定健診に含まれていない項目については,各地域で上乗せするなどの対応をして欲しいと要望した.
(3)については,埼玉県医師会からの指摘を受けて,「特定健診・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き」のなかの契約に関する部分の記載がすでに修正されていることを説明し,理解を求めた.
(五)埼玉県医師会からの新型インフルエンザ対策についての質問には,飯沼雅朗常任理事が以下のように回答した.
タミフルの備蓄については,製薬会社との契約上,行政備蓄用として一般流通分と区別して管理されている.五年とされている使用期限の再検討等,廃棄による無駄を少しでも減らせるよう,今後も厚労省と協議していく.
また,パンデミック時の具体的な医療体制の整備については,関係各所と十分な協議のうえ,地域の実情に応じて都道府県行動計画を策定し,対応して欲しい.なお,パンデミック時の感染症対策費用については,厚労省に対して予算の要求をしており,引き続き協議していく.
(六)厳しい財政状況のなかで,医療政策実現に向けてどのような行動をとるのか,また,次期診療報酬改定に向けた日医の対応を問う福岡県医師会からの質問には,まず,中川俊男常任理事が,日医の主張を理解してもらうために,厚労大臣始め関係議員に対するロビー活動を続けていることを説明.今後も,ロビー活動や国民への啓発活動を通じて,日医の考える医療政策の実現を目指していくとした.加えて,各都道府県医師会に対しては,行政主導の医療費適正化計画が策定されないよう,行政との徹底的な議論を求めた.
次期診療報酬改定については,会内の社会保険診療報酬検討委員会が提示した重点項目を優先して検討することになるが,医療崩壊を防ぐという視点を第一に考え,議論に臨んでいくとした.
唐澤会長は,先ごろ取りまとめた『グランドデザイン二○○七総論・各論』のなかで,日医の考えを明確に示したとし,今後はそれらに対する理解を深めるための広報活動に力を入れていきたいと述べた.
(七)改革という名を借りて医療界を分断しようとする政策に対して,日医はどのように対応していくのかという滋賀県医師会からの質問には,竹嶋康弘副会長が回答.
総合科や総合科医構想,勤務医師と開業医師,オンライン請求の義務化などを例に挙げて,国民皆保険,患者のフリーアクセス,および現物給付の堅持のため,これらを阻害しかねない,あらゆる政策に対して,日医は断固反対していく考えを表明.また,このような政策が示される状況においては,医師会全体が一枚岩となって対峙していくことが重要であると強調した.
(八)新潟県医師会からは,厚労省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」での意見の方向性(特に届出,届出機関,調査報告書が刑事処分に利用される場合があるかなど)について,質問が出された.これに対して,木下勝之常任理事は,次のように回答した.
診療関連死の場合,所轄の警察ではなく,第三者機関に届出ることで議論がまとまりつつある.届出をすべき死亡例については,思いがけない死亡で,死亡診断書が書けない場合を想定しており,今後,届出が義務化された場合には,それを怠った者にはペナルティが科されることになる.しかし,そのペナルティは刑事罰ではなく,行政処分とすることが考えられている.
患者・家族が警察へ届けることも考えられるが,その場合も,警察は直接動かず,第三者機関が捜査と原因究明を行う方向で議論が進んでいる.
診療関連死については,第三者機関は警察に代わって捜査,原因究明を行う機関であることから,法的な整備が必要と思われる.委員構成については,患者の代表は入らない方向で議論が行われている.
調査報告書に関しては,今までのように刑事訴追の判断材料にされることがあってはならないと考えている.
(九)岐阜県医師会からは,レセプトのオンライン請求に関して,(1)医療機関の救済策(2)費用負担の問題(3)セキュリティの問題─に対する日医の考えを問う質問が出された.
鈴木満常任理事は,(1)について,何らかの救済策が必要と考えており,厚労省と交渉中であると説明.加えて,支払基金等が代行請求を行うことができないか,働き掛けを行っていることも明らかにした.
(2)に関しては,個々の医療機関に負担がかからないよう,今後,国に対して予算措置を求めていくとした.
さらに,(3)については,情報漏えいの責任の範囲を明確化するとともに,情報漏えい者本人に対する罪の訴求まで含めた個別法の制定が必要になるのではないかと述べた.
(十)京都府医師会からは,レセプトオンライン化と社会保障カードの強制導入に対する日医の見解を問う質問と医師不足対策に関する提案が示された.
レセプトのオンライン化に関しては,中川常任理事が,拙速な義務化は地域医療(特に小規模医療機関)の崩壊につながると指摘.今後もロビー活動を続けて,要件緩和や救済措置を求めていくとした.また,保険者や国がレセプト情報を収集・管理することは,基本的人権の侵害に当たるのではないかとの懸念に対しては,国家が,強制的に収集するのは違憲の恐れがあるとし,引き続き,厚労省の動きを注視していくとした.
社会保障カードの強制導入については,慎重な議論が必要だと述べるとともに,患者さんに安心して医療を受けてもらうためにも個別法の制定が必要なのではないかとの考えを示した.
内田常任理事は,医師不足対策としての勤務医の定年延長や再雇用などの提案について,ベテラン勤務医に経験を活かしてもらうことができる良策だとし,その実現に向けた検討を日医でも行っていきたいと述べた.
また,ドクターバンク事業については,地方から都市部への医師偏在を助長しかねないなどの問題点も指摘されており,まずは必要性がある県で,事業を立ち上げてもらい,そのうえで連携を進めていくべきとの考えを示した.
最後に羽生田常任理事から,「野口英世アフリカ賞」基金への寄付のお願いがあり,会は終了となった.
|