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第1106号(平成19年10月5日) |
福田康夫新首相にお願いする
格差社会を生んだ小泉政権への反動は,「美しい国日本」を願った安倍政権下の参議院選挙で自民党を惨敗させた.そして,安倍政権は対応のつたなさとストレスで崩壊し,福田・麻生の両氏が次期自由民主党総裁選を競い,九月二十三日,小泉内閣で官房長官を務めた,福田康夫氏が新総裁に選出された.
私は,小泉元首相の効率を重んじる構造改革には賛成するが,人の健康や生命に,この理論を導入した元首相に大きな過ちを認める.グローバルスタンダード,市場経済における厳しい戦いには,勝者と敗者が存在する.そして,敗者にも再挑戦ができ,復活も可能である.しかし,人の生命は一度限りの代え難いもので,貧富・人種・宗教・思想の差なく尊重されなければならない.お金がないからと言って,その人の命が軽々に取り扱われてはならない.すなわち,人の命や健康に関する問題に市場原理を持ち込むことは,大きな過ちである.
われわれが誇る国民皆保険制度(いつでも,だれでも,どこでも)の素晴らしさは,WHOを始め世界が認める事実である.しかし,この素晴らしさを,わが国民が認識していないのは残念である.それはわれわれが,空気や水のありがたさに気付かないのと同じで,一億二千万人の国民は,「国民皆保険丸(総医療費がGDPの八%)」に乗船し,荒海のなかを安全・安心が当然のように航海しているのである.しかし,度重なる医療費の削減が続き,「国民皆保険丸」の船底には多くの亀裂が発生,浸水が始まり,船員は必死に超過勤務,サービス残業で頑張り続けている.そして,船底のエンジンは加熱し,シリンダーは焼け切れそうで,あちこちから油漏れ,ガス漏れが起こり,船員は必死で,その修理と調整に当たっている.なかには疲労困憊し,下船する船員も続出しているが,乗船客はそれに気付かず,サービスが悪いとか,電話しても客室係が来てくれないなど……,苦情どころか,裁判にして訴えると息巻いている.
しかしながら,昨今,産婦人科医や小児科医がいない…….乗客は昨年ごろから,やっと,医療サービス環境の異変に気付き始め,マスコミもこの問題に目を向けるようになった.日本の「国民皆保険丸」とは対照的に,二倍の医療費(GDPの一五%)を使い,立派に建造された「アメリカ丸」は,特等船室から船底船室まであり,乗船料金でサービスは分かれている.しかし,この立派な「アメリカ丸」に,キップが購入できず乗船できない人々が,アメリカ国民の一五%(四千七百万人)に達しているのである.
われわれは,「希望と安心」を理念とする福田康夫新首相に,ぜひこの事実を理解していただき,わが国が世界に誇る医療・介護の健全な継続にご尽力いただくことを,切にお願いする.
(副会長・岩砂和雄)
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