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第1107号(平成19年10月20日) |
ペスの梅
かつて,作家中野孝次氏は,飼い犬との思い出をつづった『ハラスのいた日々』で,一躍,愛犬家たちのアイドルとなった.中野氏は,ハラスを柘榴の傍らに埋葬したところ,翌年は大豊作で,その実を一つ残らず柘榴酒にしたという.
私どもも,柴犬「ペス」が六年の短い生涯を終えた時,庭の白梅の根方に埋めた.その梅は,毎年どの梅よりも早く,純白の薫り高い花をつける.小粒の実は梅酒にして,“ペスの梅”のエキスを頂く.
庭には,子どもたちが小さいころ飼っていた,チャボやウサギたちも葬られていて,盆や彼岸には花や線香を供える.
娘が飼っていたインコは,餌をやる時に逃げた.後日,スズメの群に混ざって最後尾を飛んでいる姿を見かけた.無事な姿を見てほっとしたが,ほかのスズメにつつかれながらも,必死に付いて行く様子は,とても子どもたちには話せなかった.
息子が中学に入った時に,新しい友達に誘われて,灌漑用の池で,小さな“フナ”を二匹釣ってきた.水槽で飼っているうちに,一方は巨大なキンギョになり,ひげのあった方はマゴイに成長して,水槽内で方向転換もままならなくなってしまった.息子の同意を得て,車で三十分ほどの川に放した.泳ぎを忘れてしまった二匹は,岸近くで,じっとしている.棒で追って,やっと本流の深みに姿を消してもらった.その後,自分で餌を獲っているだろうか.
子どもたちが家を離れてしまった今は,わが家では生き物は何も飼っていない.
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