日医ニュース
日医ニュース目次 第1108号(平成19年11月5日)

第117回日本医師会臨時代議員会
最適な医療費とは国民に最良の医療を提供するための費用という視点を

 第117回日本医師会臨時代議員会が,10月28日,日医会館大講堂で開催された.全国から348名(定数350名)の代議員が出席し,一般会計決算の件,特別会計予算の件など5議案が審議され,可決成立した.

第117回日本医師会臨時代議員会/最適な医療費とは国民に最良の医療を提供するための費用という視点を(写真) 午前九時三十分,石川育成代議員会議長の開会宣言,あいさつの後,議席の指定,定足数の確認,議事録署名人二名の指名と議事運営委員会委員八名の紹介が行われた.
 次に,唐澤人会長が,別掲(別記事参照)のとおり所信を表明.つづいて,竹嶋康弘副会長が,平成十九年四月以降の会務報告を行い,議事に移った.
 まず,第一号議案「平成十八年度日本医師会一般会計決算の件」,第二号議案「平成十八年度医賠責特約保険事業特別会計決算の件」,第三号議案「平成十八年度治験促進センター事業特別会計決算の件」,第四号議案「平成十八年度医師再就業支援事業特別会計決算の件」を一括上程,宝住与一副会長による提案理由説明の後,決算委員会に審議を付託した.
 さらに,第五号議案「平成十九年度がん医療における緩和ケアの意識調査等事業特別会計予算の件」を上程,宝住副会長が提案理由を説明し,予算委員会に付託した.
 その後,代表質問と個人質問に入った(詳細は,『日医雑誌』十二月号の別冊参照).

代表質問

 (一)療養病床の再編についての山光進代議員(北海道ブロック)の質問に,竹嶋副会長は,まず,日医が,医療療養病床の必要数を二十六万床と試算していることを改めて説明したうえで,「厚生労働省が,経済誘導策によって再編を推し進めることが危惧される.基盤整備がなく,医療費の抑制を目的に,在宅復帰を最優先する政策につながることのないよう注視していきたい」と述べた.
 さらに,日医としては,入所者の難民化,地域の社会資源の損失回避のため,既存施設の有効活用を関係審議会で強く主張し,早期の解決に向け努力をしていくとした.
 (二)制度改正と今後の有床診療所のあり方についての佐々木義樓代議員(東北ブロック)の質問には,岩砂和雄副会長が,「多様な医療ニーズに柔軟に対応することのできる有床診療所の存在意義は,今後,さらに重要性を増す」と述べ,問題となっている極めて低い入院基本料の引き上げなど,有床診療所の安定した医療経営のために必要な診療報酬財源の確保に取り組む考えを示した.
 また,国民や患者に対しては,有床診療所が,地域にとって身近で頼りになる入院医療施設であることを知ってもらうために,啓発活動を継続していくと話した.
 (三)清水美津子代議員(東京ブロック)からの日医総研の活動状況についての質問に対して,竹嶋副会長は,日医総研が,独自に,または関係各課と協力し,さまざまな調査・分析を行っていることや,日医が政府の「基本方針二〇〇七」,あるいは来年度予算の概算要求などに対して,緊急提言や見解をまとめ,記者会見等で次々に発表しているが,それらの基礎資料は,日医総研で分析作成したものであり,ロビー活動にも積極的に活用していることなどを紹介した.
 さらに,今後の活動として,わが国の医療のあるべき姿について,しっかりした基礎的資料に基づく日医の提言づくりに資していきたいとして理解を求めた.
 (四)常任理事の選任について,キャビネット制を改善すべきとの小松満代議員(関東甲信越ブロック)からの提案に対して,宝住副会長は,まず,定款ならびに定款施行細則に,役員選挙についてキャビネット制を規定している条文はないとし,執行部がそれを禁じるような性質のものではないとの見解を示した.また,キャビネット制が有能な人材の活躍の機会を奪うとの指摘については,「当選した側から言えば,活躍する機会を与えられたことになるのでは」と述べた.さらに,現在,定款・諸規程検討委員会において,「役員選挙のあり方」について検討中であるとし,その報告を待ちたいと結んだ.
 (五)鈴木勝彦代議員(中部ブロック)は,(1)日医役員選挙におけるキャビネット制の見直し(2)組織率の向上策─について質問.
 宝住副会長は,(1)には,来年十二月から施行される新公益法人制度における役員選挙の方法に合致した,新たな選挙制度を検討する際に,組織力強化を図れるような制度設計を行いたいと答弁.(2)については,医学生・卒業生,研修医に対し行っている施策を説明.また,世界医師学生連盟日本支部の事務局の会内設置を検討中であることや,また,全都道府県医師会における「女子医学生,研修医等をサポートするための会」の実施など,女性医師の加入促進のための施策も続行していきたいとした.さらに,勤務医の加入による医師会組織率の向上を図れば,勤務医の役員登用は自然に進むとの考えを示した.
 (六)後期高齢者医療制度の問題点と日医の取り組みのあり方を問う足立光平代議員(近畿ブロック)の質問には,竹嶋副会長が次のように答えた.
 国民皆保険制度の堅持を基本として,年齢に関係なく,国民に等しく医療が提供されることを大前提に,日医は高齢者の負担・不安を解消すべく,後期高齢者医療制度を「保障」としてとらえ,公費措置とし,地域間格差を生じないよう原則国庫負担とすることを提案している.
 「かかりつけの医師」は,地域で,長期にわたり医療の提供を継続し,住民のライフステージにかかわる医師が自主的に担うものであり,国が押し付けるものではない.日医が主体となって,国民,患者の期待する「かかりつけの医師」像を提示し,養成していく意義は大きい.
 (七)日医は国民と,もっと対話すべしという井戸俊夫代議員(中国四国ブロック)の要望には,唐澤会長が,「医療現場の実情を知る者として,福田内閣の閣僚,与党政策担当者,関係省庁等に対する政策説明と,周産期医療をはじめ地域医療崩壊の危機的状況について,中医協や各種審議会で具体的な主張を,粘り強く続けていく」と回答.
 一方,国民に対しては,テレビCM等を通じて語りかける努力をし,定例記者会見やマスコミからの取材・会合等を通じて日医の主張への理解を求めてきたと説明.世間に伝わっていかないのは,隔靴掻痒の感もあるが,繰り返し行うことが重要との認識を示し,各地域医師会にも地域住民に対する積極的な広報活動や情報発信等への協力を求めた.
 (八)池田俊彦代議員(九州ブロック)からの医療のあるべき姿,実現のための戦略を問う質問には,唐澤会長が答えた.日医では,社会保障を「平時の国家安全保障」と位置付け,国が責任をもって維持・向上を図るべきと考えており,医療に関しては,従来の“決められた財源のなかで最良の医療を行う”方式から,“国民のために最良の医療を提供するにはどのような提供体制,どの程度の医療費が最適か”という視点へ,国が発想を転換しなければならないと強調.そのために,日医総研等を活用し,客観的なデータ検証,医療現場の実態把握に努め,関係閣僚等への説明と主張を重ねていると述べた.
 また,国政の場にいる国会議員が「行き過ぎた改革」を見直そうとしている今こそ,政治へのアプローチが必要だと指摘.国の政策決定者の理解が最も重要な柱になるとして,地元選出の国会議員への一層の働き掛けを要望した.

個人質問

 (一)西城英郎代議員(三重県)は,「国民の為の医療制度を考える議員の会(仮称)」の創設について,日医の考えを質した.
 羽生田俊常任理事は,日医は国民から自己利益を追求する一団体としてとらえられているのではないかとの指摘に対して,昨年からテレビCMや新聞意見広告により日医のイメージを変えようと努力しており,少しずつではあるがその成果が表れてきていると説明.
 議員連盟に関しては,議員自らの会費で運営され,日医が主体でつくれるものではない.また,政党ごとに政策が異なるため,超党派の医系議員の会をつくることは難しいが,議員連盟の研究会,勉強会に積極的に出席し,さらに,政府与党だけでなく野党にも日医の医療政策への理解を求めるとし,その活動への理解と協力を求めた.
 (二)山英昭代議員(北海道)の,公益法人制度改革についての質問には,今村聡常任理事が,まず,「公益社団法人」「一般社団法人」それぞれのメリット・デメリットについて説明したうえで,日医は「公益社団法人」となることを機関決定したと報告.また,現在認められている開放型病院等に対する法人税の特例措置と共同利用施設の公益認定上の取り扱い等に触れ,公益認定の有無に関係なく,従来同様,法人税の非課税措置の適用が受けられるよう要望しているとし,今後は,この特例措置を確保したうえで,開放型病院等を含む共同利用施設の公益性が認められるよう,関係各方面に働き掛けを行っていくとの考えを示した.
 (三)川端正義代議員(徳島県)は,徳島県医師会で医療における控除対象外消費税の負担に関する請願書を県議会に提出したことを報告し,このような働き掛けを全国展開すべきと主張した.今村(聡)常任理事は,「平成二十年度税制改正要望においても,最重点項目としてゼロ税率ないし軽減税率による課税制度に改めることを掲げている.また,すべての会員にこの問題を理解してもらうために,消費税に関する小冊子を作成し全会員に配布した」と説明.そのうえで,この問題の解決のためには,関係各方面の理解を求めることが必要であるとし,都道府県医師会でも議会への働き掛けを続けて欲しいと要望した.
 (四)医療費抑制政策への対応と医師会運営のあり方(会長選挙)に対する和田耕馬代議員(滋賀県)の質問には,羽生田常任理事が回答した.
 医療費抑制政策に関する日医の対応については,日医は経済に見合った国民医療費を確保する必要があると考えており,現在,政府与党の閣僚・国会議員を中心に,関係省庁等に対して,丁寧に説明し,理解を求める活動を続けていると説明.
 また,会長選挙を含めた役員選挙のあり方については,代議員からの提言も踏まえて,定款・諸規程検討委員会で議論を行ってきた経緯を報告.そのうえで,来年十二月に新しい公益法人制度がスタートすることから,それに合わせて,来年度も,定款・諸規程検討委員会において,日医の将来を考慮したうえでの検討を改めて行うことを明らかにした.
 (五)桑原正彦代議員(広島県)からは,小児救急医療に関連して,いつでも,どこでも電話相談が可能な体制づくり(全国センターの設置)を進めるために,日医の支援が求められた.
 これに対して,石井正三常任理事は,全国センターが設置され,小児救急電話相談事業が全国をカバーし,二十四時間・三百六十五日対応できるようになるのは大変意義のあることであると強調.今後は,日医としても,国および小児科医会はじめ関係各方面と協議しながら,その実現に向けた支援・協力を行っていきたいと述べた.
 (六)宮城信雄代議員(沖縄県)からは,「今後の日本脳炎対策をどのように実施していくのか」「いつまで新製品の開発を待てばよいのか」,日医から厚労省に照会して欲しいとの要望が出された.
 飯沼雅朗常任理事は,「日医と厚労省との間で,日本脳炎対策について頻回に情報交換している」と述べるとともに,(1)日本脳炎ワクチンは,現在,供給量に制限があるため,限られたワクチンを有効利用しなければならない状況にあること(2)開発中の組織培養法による新ワクチンも,副反応の発生率が既承認製品に比べて高い等の理由から,接種に適した用量等を再検討し,改めて臨床試験を行っていること─などの現状を説明.
 日医としては,今後も,厚労省に対して,日本脳炎の予防接種の状況や発生状況に関する情報提供と必要な地域に対するワクチンの安定供給を求めていくとともに,新ワクチンの供給が開始され,積極的勧奨が再開される際には,日本脳炎の予防接種を受けられなかった空白の世代の子どもたちに,予防接種法に基づく予防接種が行われるよう,強く働き掛けを行っていくとの考えを示した.
 (七)有坂實代議員(群馬県)からは,医療崩壊に歯止めを掛けるため,低医療費政策を改善する起死回生の手立てはあるのかという質問が出された.
 中川俊男常任理事は,医療費抑制政策を一気に改善する手立てはないが,国会議員を中心に,地道に理解を求める活動を続けていくことが大事になると強調.その際には,現場の実態を具体的に示すこと,対案を示すこと,財源についてもその道筋を提示すること─が必要になるとした.また,その財源の確保策については,(1)保険料率の公平化(2)標準報酬月額上限の引き上げもしくはその撤廃(3)国の特別会計の再検討─を考えていると説明.都道府県医師会に対しては,日医の活動に対する更なる支援を求めた.
 (八)今井三男代議員(神奈川県)の介護サービス事業所の公表制度についての質問に対し,天本宏常任理事は,「手数料の事業者負担が重いことなど,運用に関する問題点は,日医でも認識しており,事業所の対応や費用負担が過大にならないよう厚労省へ何度も申し入れをしている」と回答.
 厚労省もこれらの問題を認識しており,(1)同一所在地事業所の同日調査により,対応の負担を軽減する(2)事業運営の透明性を確保するとともに,介護事業者,利用者等関係者の理解を深める観点から,その運営状況について毎年度公表を行うよう指導(3)可能な限り調査事務等の実態を把握し,手数料の水準の妥当性等について検証し,必要な条例の見直し等に取り組むよう都道府県に対して指導─していると説明し,理解を求めた.また,「日医でも,今後,本制度の改善に向けて積極的にかかわっていく」と述べた.
 (九)星北斗代議員(福島県)からのオンライン請求の義務化についての質問には,中川常任理事が答弁した.
 まず,日医はオンライン請求完全義務化に対して容認した訳ではないことを明確に主張し,「“オンライン化に対応できないと診療ができなくなる”という状況には決してさせないよう対応している」とした.
 また,六月十九日に閣議決定した「基本方針二○○七」に明記された「環境整備」の財源については,平成二十三年度までの四年間の累計で七百五十七億円が必要になるとの日医の試算結果を示し,環境整備が進んでも対応できない小規模医療機関が排除されることがないよう,今後も強く主張していくと述べた.
 (十)塩見俊次代議員(奈良県)の医療関係者を守る方策についての質問には,今村定臣常任理事が,「日医では,異状死体の警察への届出義務を規定する医師法第二十一条の改正および第三者機関の設置,および,産科領域で不可避的に発生する事故に対する無過失補償制度の創設を要望してきた.現在,実現に向けて確実に進んでいる」と回答.今後も産科医療をはじめとする深刻な医師不足問題の解決に向けて,強く働き掛けると述べた.
 また,広報活動については,「テレビCMや新聞の意見広告など,幅広く国民に向けた広報を展開する一方,積極的な政策提言をするために,毎週定例記者会見を行うことで,少しずつ日医の主張が理解されるようになってきた」とし,今後もあらゆる機会を通じて国民に向けた広報活動を展開していくとした.
 (十一)江畑浩之代議員(鹿児島県)より,次期診療報酬改定への決意を問うたのに対し,鈴木満常任理事が回答した.
 次回の診療報酬改定に際しては,「日医による政府への働き掛けは必要不可欠と考えている.中医協において,十一月中旬に,厚生労働大臣に対して,改定要望書を提出する予定である.今後は日医の基本的な姿勢や日本の医療費の現状,財源の問題をよく踏まえ,中医協の議論で攻勢を掛けていきたい」と述べた.
 (十二)伊藤宣夫代議員(愛知県)より,(1)休日夜間救急への対応(2)患者の規制・教育方策─に関しての質問があり,内田健夫常任理事が回答した.
 (1)では,受け入れ病院の確保などの重要な課題もあるが,複数の郡市区医師会が協力し,体制を整備するべきである.日医も,情報の収集・提供や予算要望に取り組むとした.
 (2)では,「医療のフリーアクセスを堅持する立場から,患者に対する受診規制を設けることはできないが,患者がかかりつけの医師を持ち,各医師会が支援することが重要であると認識している.国に対しては,初期救急医療の充実を強く要求したい」と述べた.
 (十三)山形成代議員(宮城県)からは,保険者の再審査請求に関して,(1)審査への姿勢(2)後発医薬品の適応外投与─についての質問が出された.
 鈴木常任理事は,(1)について,もし事務方が診療内容まで調べ,再審請求しているとしたら問題であり,厳重に抗議したい.ただ,六カ月以上経過した後の再審査請求であれば,診療側医師も出席する審査委員会で「原審どおり」と審査するべきであると説明.(2)については厚労省の通知で,先発・後発医薬品の適応症の同一化を試みたが,新薬の特許等により申請できないものがある.後発医薬品メーカーや卸売業者等から,しっかり情報提供させることで,問題の発生を抑えたいとした.

 午後三時五十分,予算委員会,決算委員会の結果が報告され,質疑の後,いずれも賛成多数で可決した.
 最後に,唐澤会長・有山雄基代議員会副議長の閉会あいさつが行われ,午後四時二分に閉会した.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.