日医ニュース
日医ニュース目次 第1108号(平成19年11月5日)

No.45
オピニオン

後発医薬品の使用促進上の問題点について
中西敏夫(日本薬剤師会会長)

中西敏夫(なかにしとしお)
 日本薬剤師会会長.昭和11年生まれ.昭和35年近畿大学薬学部卒.平成4年に日本薬剤師会常務理事に就任後,副会長を経て,平成14年4月から現職.健康日本21推進国民会議委員,厚生労働省「薬剤師需給の将来動向に関する検討会」構成員などを務める.

 国は,後発医薬品の使用を進めようとしているが,品質に対する不安などから,期待どおりの成果は得られていない.そこで,今号では,日本薬剤師会会長の中西敏夫氏に,その使用を促進するために解決すべき問題点について指摘してもらった.
(なお,感想などは広報課までお寄せください)

 平成十八年診療報酬等の改定の際に,処方せん様式の変更が行われた.処方医が後発品への変更調剤を可と判断し,その旨が記載された処方せんを薬剤師が受け取った場合には,処方医の意図に最も対応できる後発医薬品を選択し,患者の同意を得た後に,調剤をすることとされている.
 国では,数年前から,諸外国の事例等を参考にして,後発医薬品の使用環境を整備する施策を講じてきたが,期待どおりに結果が現れないため,今回の様式変更によってさらに環境整備を図り,使用促進につなげたいと考えているようである.

医薬品としての品質に対する不安

 しかし,その一方で,処方せんの様式変更が行われた後,医師・薬剤師ばかりでなく,患者・国民までの広い範囲で,さまざまな議論が起こってきた.その大部分は,後発品の「品質」に関するもので,処方をする医師,調剤をする薬剤師,服用する患者・国民,それぞれから指摘がされている.
 例えば,医師の場合にはどうだろうか.中医協で報告された資料によれば,「品質や流通に不安」を感じている医師の方々が多いようである.一方,薬剤師はというと,医師同様に「品質に不安」を挙げる者が多いが,薬に携わる者だけに「情報の不十分さ」を挙げ,その不十分さの中身については,情報そのものが不足しているというケースと伝達の速度が不十分という二つのケースがあるようだ.
 前者の場合には,その医薬品の良否を判断するための参考になる大切な情報であるから,重要な部分で不十分さがあれば問題である.反面,後者については,先発品と比べると,販売体制も販売にかかわる人材も潤沢に持っていない後発医薬品企業にとっては,物理的にも厳しい指摘と言えそうである.
 患者・国民はどのように感じているかというと,「値段が安いのだから,品質も良くないんでしょう」といった,いくぶん感情的否定論の方々が多いようである.その反面で「品質や効能効果に差がないのならば,医師や薬剤師に薦められれば,後発医薬品でもよい」とする患者がかなりの割合でいることも事実である.いずれの場合も論点は,「医薬品としての品質」という点では一致している.厚生労働省を始め,国では,積極的な後発医薬品推進策を進め,患者・国民の負担を減らす一方で,医療費全体の伸びも抑制できると考えている.しかし,国民からすれば,費用や負担の軽減も重要な問題だが,それと同様に「品質,物の良し悪し」もはっきりさせて欲しいということのようである.

整備が進む後発医薬品の使用環境

 私は薬剤師であるから,先発・後発にかかわらず,殊の外「医薬品の品質」については気になる.確かに,十数年前までの後発医薬品のなかには,首をかしげたくなるような性状の医薬品があったと聞いているが,諸外国での後発医薬品使用実態などの影響もあって,国が後発医薬品の製造を承認する際には,その品質を担保するために多くのデータの提出を求めるなど,相当に厳格な承認基準を運用している.
 元来,後発医薬品とは,すでに医療現場で十分に使用されてきた成分を含む医薬品であるので,効果はもちろんのこと,副作用等についても,それまでの使用経験でおおかた判明している医薬品である.したがって,含まれる成分の安全性や有効性については,医療現場で実証済みということに外ならない.また,その承認申請に当たっては,ヒトでの生物学的同等性試験に関する結果の提出を求めており,また,平成十年以降は,後発医薬品の使用環境を整備する目的もあって,「生物学的同等性試験ガイドライン」を示し,厳格化が図られている.
 製薬企業では先発医薬品との同等性を証明するため,症例数については先発品と比べると決して多くはないが,きちんとした治験データの提出が不可欠となっている.したがって,後発医薬品は,すべからく「品質に疑問がある」とする指摘は,今日では少々的外れな意見と言えそうである.もちろん,医薬品の持つ特性として,患者の状態によって効果発現に差が生じることは避けられない問題である.
 しかし,その発現する「差」だけをとらえて,「後発品」と「先発品」の品質を「良・不良」として比べることは,あまり適切な比較方法とは言えないと思う.錠剤・カプセルといった剤形の違いや,徐放錠や腸溶錠といった製剤の特性,服用後の体内挙動を推測する溶出速度や時間,さらには製剤化する際に必須な賦形剤の特徴等も参考に,医薬品を相互に比較し,評価・選択する.あるいは,これらの情報を整理して医師に提供し,分かりやすく患者に説明し,理解してもらうことが,薬剤師の仕事と考えている.

求められる世界レベルの供給体制

 品質の問題から少し外れるが,これまで販売戦略上の観点から,後発医薬品は先発医薬品と比べると,比較的製品のラインナップも狭い範囲であったと思う.しかし,より広く後発医薬品の使用を進めようとすると,製品の幅が狭いことや標榜する効能効果の違いが障害となっていた.こうした医療現場での使い勝手も考慮して,最近では,先発医薬品と変わらない製品群を持ち,効能も同じ後発医薬品が作られるようになってきている.
 長い間,わが国では脚光を浴びることの少なかった後発医薬品であるが,およそ先進国と言われている国々では,保険制度の違いはあるものの,治療効果は変わらずに経済的効果を発揮する後発医薬品が医療現場で果たす役割は重要で,かつ期待も大きいと聞いている.安物の代名詞のように使われた「ゾロ」と言う呼称から「後発医薬品」へ,そして最近では「ジェネリック医薬品」へと,世界中で通用する呼び名に変わってきた.しかも,国を挙げて後発医薬品を使うための強力な施策が講じられようとしている.しかしながら,「名称が変わった」ことと「質の担保ができた」こととは別の問題である.「質」とは何か.「その物の品質」は言うまでもないが,医薬品は医療現場で使われて初めて効果を発揮し,優劣が評価される.制度で担保された「質」とその恩恵を患者・国民に広く提供するためには,名称だけでなく,供給体制も世界レベルにする努力が必要ではないだろうか.

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