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第1109号(平成19年11月20日) |
平成20年度診療報酬改定に向けて,唐澤会長ら役員が厚生労働大臣に要望
地域医療の崩壊を防ぐために診療報酬本体の5.7%引き上げを
唐澤人会長,竹嶋康弘副会長,羽生田俊・中川俊男両常任理事は,十月三十日,厚生労働省に舛添要一厚労大臣を訪ね,診療報酬本体の五・七%の引き上げを求める要望書「平成二十年度診療報酬改定に向けて」を提出した.
舛添厚労大臣(右)に要望書を
手交する唐澤会長ら役員 |
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舛添厚労大臣との会談の冒頭,唐澤会長は,「わが国の地域医療は崩壊の危機に瀕している.これらの原因には,数度にわたる診療報酬のマイナス改定など,医療費抑制政策がある.次回の改定では,地域医療の崩壊を防ぎ,国民の安心を守り,医療の質を確保するために,ぜひとも診療報酬の引き上げをお願いしたい」と要望した.
つづいて,中川常任理事が,要望書の内容を概説した.同常任理事は,はじめに,(一)民間医療機関は,「TKC(会員数約九千五百名からなる税理士,公認会計士のネットワーク)医業経営指標」を用いた分析によると,経営の安定性を示す損益分岐点比率が,病院で九五・二%,診療所で九四・三%と,危険水域と言われる九〇%台に突入していること,(二)同様に,病院,診療所とも,法人,個人それぞれのカテゴリーで,前年度(平成十七年度)に比べて減収,減益になっていること,(三)中医協の医療経済実態調査の結果から分析すると,国公立病院を含めた病院全体では一〇〇%を超え,赤字となっていること─など,具体的な数値を示して,医療経営が危機的状況に陥っていることを説明.
そのうえで,地域医療の崩壊を食い止めるためにも,診療報酬本体の五・七%(医療費ベース一兆四千五百億円)の引き上げが必要であることを訴えた.
五・七%の内訳については,(一)地域医療を支えるためのコストとして三・八%(医療費ベースで九千六百億円),(二)国民の安心を守るためのコスト(医療安全対策)として〇・九%(同二千二百億円),(三)医療の質を確保するためのコストとして一・一%(同二千七百億円)が,それぞれ必要になると主張(図).(一)に関しては,赤字を解消し,最低限の収入変動には耐えられるよう,国公立病院を含めた全体で損益分岐点比率を最低九八%にするための額であると説明した.また,(二)については,厚労省の「平成十八年度医療安全に関するコスト調査業務報告書」に示された,患者一人一日当たりのコストを基に,少なくとも,現在,入院患者にかかっている医療安全コストをカバーできること,(三)については賃金上昇率,物価上昇率─を考慮に入れて,それぞれ試算した数値であるとした(表).
なお,「医師不足対策,医師の就労環境改善対策」「レセプトオンライン請求に向けての環境整備」「医療事務軽減等のためのコ・メディカル要員増」「環境対策コスト」などの重要課題については,一般財源で措置するもののほかは,今後,引き続き精査し,次回以降の改定で要望するとの考えを示した.
日医からの要望に対して,舛添厚労大臣は,「医療が危機的な状況にあることは,私も十分認識している.特に勤務医が過重労働に苦しんでおり,待遇改善を図らなければならないと思っている.いずれにせよ,これ以上の医療費削減が無理なことは,日医だけでなく,多くの人が理解している.また,国民も経済原則だけでは,暮らしが立ち行かなくなることが分かってきたように思う.今後は,財務省にも働き掛け,社会保障全体の底上げを図り,医療提供体制が充実するよう努めたい」と語り,申し入れの趣旨について理解を示した.
最後に,唐澤会長が,「大臣にご理解いただき,感謝する.今後とも,医療現場の声をお伝えしていくので,ご協力をお願いしたい」と発言,会談は終了となった.
勤務医の待遇 改善が必要
要望書提出後,厚労省内の記者クラブで記者会見した唐澤会長は,「日本各地の医療機関は疲弊しており,医療崩壊寸前の状況にある.診療報酬の引き上げを要望することは,患者や保険者にも影響が出ることではあるが,医療崩壊を食い止めるためには,新たな財源が必要と考え,今回の要望を行った」と,要望書を提出するに至った経緯を説明した.
一方,要望書の内容を説明した中川常任理事は,五・七%という数値について,「小泉政権時代に合計八兆円の医療費が削減されている.次回の改定では,少なくとも損益分岐点比率を九八%に戻して欲しいと要望しているわけで,決して無理な要求であるとは思っていない」と主張.また,診療所医師の取り分を削って,病院勤務医に回すという考え方については,「診療所も減収・減益となっており,決して余裕があるわけではない.病院勤務医の待遇が悪すぎることが問題であり,それを解消するためにも,新たな財源が必要である」と反論した.
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