日医ニュース
日医ニュース目次 第1111号(平成19年12月20日)

平成19年度家族計画・母体保護法指導者講習会
「健やかな妊娠・出産を考える」をテーマに

平成19年度家族計画・母体保護法指導者講習会/「健やかな妊娠・出産を考える」をテーマに(写真) 平成十九年度家族計画・母体保護法指導者講習会が,十二月一日,日医会館大講堂で開催された.
 担当の今村定臣常任理事の司会で開会.唐澤人会長(宝住与一副会長代読)は,「現在,産婦人科医療では,医療訴訟や過重労働により,年々産科医が減少し,医療機関における,お産のできる体制が危機的状況にある.そのようななか,奈良県で未受診妊婦の問題が起こり,妊婦健診の重要性の普及・啓発が求められている.本講習会の成果を現場で活用し,引き続きご尽力いただきたい」とあいさつした.
 つづいてあいさつした舛添要一厚生労働大臣(千村浩厚労省雇用均等・児童家庭局母子保健課長代読)は,今後も医師確保対策をはじめ,地域における医療提供体制の整備に取り組んでいくと述べ,積極的な姿勢を示した.来賓あいさつに引き続き,寺尾俊彦日本産婦人科医会長が,講演「地方病院の医療崩壊と産科の崩壊」を行い,地方自治体病院が,財政の困窮化や産科医不足により,分娩を取りやめざるを得ない状況にあることを説明.その要因として,(1)新医師臨床研修制度による地方自治体病院の医師不足(2)三位一体の構造改革による地方財政の困窮化─等を挙げた.
 改善策としては,自治体病院の合併・集約化を図ることが考えられると指摘.今後は,身近に一次医療を行う診療所があり,遠くても救急や高次医療を受けることができる三次医療(自治体病院の統合・合併などによる新病院)が一つでもあれば,双方が緊密に連携することで,理想的な医療を提供できるのではないかと述べた.
 シンポジウム「健やかな妊娠・出産について考える」では,千村氏が,「妊婦健診の充実について」と題し,妊婦健診の受診勧奨に向けた経緯を報告.妊娠期から出産・子育て期における,保健サービス,産科医療,小児科医療等の提供体制の整備の重要性を指摘した.また,妊婦健診費用の公費負担については,平成十九年度予算では五回を基準として公費負担を拡充するよう自治体に促していると説明した.
 未受診妊婦への対応については,前田津紀夫前田産婦人科医院長が,未受診妊婦に関する独自調査の結果を報告.未受診妊婦は,頻産婦,若年層では初産婦に多いこと,また,反復者も見られるが,その理由としては,経済的,教育的,倫理的な問題が挙げられると発言.さらに,未受診妊婦の安易な救急車利用による社会資源の浪費,診療の割り込みによる地域の周産期システムの混乱を問題視.疲弊している産科医にとって,未受診妊婦はリスクが高く,国や自治体も現場への支援をするべきであるとした.さらに,何よりも,まじめに受診している妊婦への安全保障なくして,未受診妊婦に対するセーフティーネット構築はあり得ないと強調した.
 つづいて,池ノ上克宮崎大学医学部産婦人科教授は,周産期医療体制の整備について,大学医学部の視点から宮崎大学での取り組みを紹介.地方の現状を考慮した体制確立に向けた対策として,(1)医学部学生に対する卒前教育(2)地域のニーズに応じた卒後教育(3)周産期医療の地域化(4)定期的な症例検討会(5)コメディカルスタッフへの情報伝達─を行っていることを説明.それぞれの施設の医療体制の任務分担を明確化し,システム化することが重要だと述べた.
 木下勝之常任理事は,「産婦人科医師全員で盛り立てていこう─無過失補償制度─」と題し,平成二十年十月の運用開始を目標に,現在検討を続けている無過失補償制度の仕組みや,その補償対象について説明した.
 そのなかでは,医療訴訟による医師の精神的・時間的負担を除き,安心して医療を行える体制の構築を目指しているとしたうえで,本制度が産婦人科医に有意義に働くためには,すべての分娩担当医療機関が本制度に参加することが重要だと指摘した.

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