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第1112号(平成20年1月5日) |
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動脈硬化巣を診る
〈日本動脈硬化学会〉
心筋梗塞や脳梗塞などの,いわゆる動脈硬化性疾患の発症頻度は,従来,欧米に比較して,心筋梗塞では四分の一あるいは五分の一程度と,低いとされてきたが,近年の研究ではそれほどの差はなく,特に糖尿病症例では,もうすぐ肩を並べるのではないかという予想もある.脳梗塞は,従来から言われているように日本では頻度が高く,そのなかでも動脈硬化に由来するものの割合が増加している.このような変化について,食事や生活習慣の変化による危険因子など原因はいくつかあるが,その詳細は不明の点も多くある.
そのようななかで,動脈硬化巣の解析の進歩は,これらに多くの情報を与えている.動脈硬化から心筋梗塞に至るプロセスは,動脈硬化による動脈壁の肥厚を基盤として血管腔を狭め,それが進展して閉塞に至ることによって引き起こされるとされていた.このような機序は否定できないが,血管撮影によって,狭窄の度合いと心筋梗塞の発症との関係を見ると,閉塞の度合いが五〇%ぐらいでも心筋梗塞の発症率は高いことが分かり,閉塞の度合い以外の要素が存在することが考えられた.
基礎実験的な観察,人体病理学的アプローチ,生検材料による病理組織学的アプローチなどにより,動脈硬化巣の詳細な解析がなされ,多くの情報が集積された.なかでも動脈硬化巣(プラーク)は大きく分けて,繊維成分,平滑筋細胞などで覆われた“安定したプラーク”と,繊維や細胞の成分は少なく“脂質コア”と言われる大量の脂質(コレステロールエステル)で占められた“不安定プラーク”に分けられるのである.閉塞率が少なくても心筋梗塞をもたらすのは,この不安定プラークが裂け,血栓が生じ,それが閉塞をもたらし,心筋梗塞に至らしめるとされている.このような機序が高い頻度を占めているということも示された.
したがって,この病巣をいかにとらえるかが重要になっている.幸いなことに,臨床的にも超音波診断,血管内超音波診断,さらにCT,そしてPET(陽電子放射断層撮影)とCTの組み合わせによる診断によって,これらの病巣をとらえることが出来るようになっている.
治療では,危険因子であるコレステロールの低下療法は,“不安定”を“安定”化させることが明らかにされている.さらに多くの治療法が試みられているが,局所のコレステロールエステル合成阻害剤で“脂質コア”の縮小を検討した海外の臨床治験では,効果は見られていない.今後の進展が期待される.
(日本動脈硬化学会副理事長・千葉大学大学院医学研究院細胞治療学教授 齋藤 康)
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