|
第1114号(平成20年2月5日) |
医師・患者関係
医療において,医師と患者の信頼関係が不可欠なことは言うまでもない.
患者は医師に自分の症状や悩みを打ち明け,医師は十分な説明と的確なアドバイスをする.そのやりとりを納得がいくまで繰り返す─これまでごく当然に見られた,このような医師と患者の関係が,近時,さまざまな要因により,次第に変質してきているとの危惧は,医療に身をおく多くの人々が抱く実感であろう.
本来あるべき医療の姿を取り戻すために,医師および医師会がなすべきことはたくさんある.まず,医療提供者一人ひとりが,毎日の診療のあり方や患者に接する態度を再点検することは,その第一歩となる.また,こうした十分なコミュニケーションを可能とする医療提供体制を確保するための政策を提言していく必要もあろう.さらに,医療分野に存する多くの規制のなかには,その妥当性や法的効力について,再検討が必要なものも少なくない.
一方で,医療を受ける患者に対しても,受診や療養のあり方について,改めて確認していただきたいこともある.例えば,理由もなく診療代金の不払いを繰り返したり,医療提供者に対して暴言を吐き,暴力に訴える悪質な事例も現実に発生している.そこまで極端でなくとも,医療提供者に,過大な要求や理不尽な主張を突きつける患者およびその家族の存在は,社会問題にもなっている.このような,一部の患者による心ない行動は,「医師・患者関係」全体にも暗い影を落としている.
もちろん,患者が自身の医療に主体的にかかわり,意見や要望を医療提供者に表明することは,円滑な治療を進めるうえで,必要かつ重要である.しかし,そこには医師と患者,あるいは人と人との関係として,適切な自制が働くべきことは当然であろう.さらに言えば,医療が適切に行われるために,患者も果たすべき責務があるはずである.このような考え方は,日医が昨年公表した『グランドデザイン二〇〇七(総論)』においても紹介されており,外国では,例えば米国医師会の倫理綱領に一項目が設けられている.
今後,医師・患者関係をいかに信頼に満ちたものに再構築していくか,医療提供者ばかりでなく,患者,国民,行政府を巻き込んだ幅広い議論を喚起することも,医師会の重要な役割と言えよう.その議論の前提として,医療提供者一人ひとりが,自らの責務を十分に果たしておくべきことは言うまでもない.
(常任理事・今村定臣)
|