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第1115号(平成20年2月20日) |
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漢方薬にも意外とエビデンスがある
〈日本東洋医学会EBM特別委員会〉
日本東洋医学会は,一九五〇年に設立され,二〇〇九年に六十周年を迎える.会員数は〇八年一月末で約八千五百名,そのうち医師約七千名(八二%),他は薬剤師や鍼灸師である.一九九一年に日本医学会に加盟し,会員数では全百二分科会中,二十八位である.
エビデンスは,それを「つくる」「つたえる」「つかう」というステージに分けると理解しやすい.EBM(Evidence-Based Medicine)はその定義上,エビデンスを「つかう」立場のものである.
エビデンスは漢方薬などについても必要と認識され,二〇〇一年六月に前会長・石橋晃(現会長・石野尚吾)のもとにEBM特別委員会(http://www.jsom.or.jp/html/ebm.htm)が設立された.第一期の委員長・秋葉哲生を中心として「よい臨床研究」が各種データベースを用いて検索され,二〇〇五年七月に『漢方治療におけるエビデンスレポート』が発行された.同年からの第二期では「つたえる」の領域で,よりシステマティック・レビューに近いアプローチが取られ,一九九九〜二〇〇五年のランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)に限って収集し,八十五件について世界的標準である八項目の構造化抄録を作成した.「漢方医学的考察」,「論文中の安全性評価」,署名つきの「アブストラクターのコメント」も付してある.『漢方治療エビデンスレポート第二版 中間報告二〇〇七』として学会のwebサイト(http://www.jsom.or.jp/html/)で公開している.現在,他の期間についても作業中である.
漢方医学は長い歴史をもつが,すべてのエビデンスがRCTによって「つくられ」たわけではない.そこで,ノルウェーや米国NCI(国立がん研究所)の例を基に,「劇的に効いた」一例報告である「ベストケース」を集めるプロジェクトを開始した.探索型の研究と位置づけ,またこれをwebサイトに収載することによる処方行動への影響を見ることも目的である.日本で年間百万人以上が服用する「葛根湯プロジェクト」としてシステムを構築中である.
二〇〇四年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局が伝統医学の診療ガイドラインを作成するプロジェクトを開始し,これにも対応している.伝統医学システムそのものや薬事行政の各国間での違いがあるため,困難なプロジェクトであり,ユーザーを明確にする立場で臨んでいる.また,日本の診療ガイドラインの中で漢方薬を含むものをレビューした.ここで,漢方薬のエビデンスがあるにもかかわらず,診療ガイドラインで取り上げられていないことも明らかになった.ガイドライン作成者は,ぜひwebサイトをご覧になっていただきたい.日本の医療システムのなかでの漢方薬の合理的使用が,本委員会の希望である.
(日本東洋医学会EBM特別委員会委員長・東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学客員教授 津谷喜一郎)
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