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第1116号(平成20年3月5日) |
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内視鏡外科学の進歩
〈日本内視鏡外科学会〉
内視鏡外科手術は,腹腔鏡下胆嚢摘出術が一九九〇年五月にわが国で初めて臨床応用が行われ,さらにその後,一九九二年四月からは保険適用となって以来,急速に普及してきた.現在では,胃全摘や肝切除なども腹腔鏡下に行うことが可能となり,この分野のさらなる発展が期待される.
従来の内視鏡外科では,体表に五〜十五ミリメートルのポートを造設し,そこから種々の器具などを挿入することで手術を行ってきた.低侵襲ではあるが,若干の創を残すことは避けられなかった.
しかしながら最近,NOTES(Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery)という新たな低侵襲手術の分野が誕生した.胃,大腸,膣などから腹腔内にアクセスして行う手術で,体壁に一切創を残さずに手術を行う技術である.初めてNOTESを臨床応用したのは,経胃的に虫垂切除術を施行したインドのRaoとReddyであるとされる.その後,Swanstromらにより経胃的胆嚢摘出術の臨床例が報告された.
NOTESに関する最新の情報はWeBSurg(http://www.websurg.com/)で無料で入手可能である.NOTESの研究は,米国ではNOSCAR(Natural Orifice Surgery Consortium for Assessment and Research, http://www.noscar.org/),わが国ではNOTES研究会を中心に進められており,医工連携により,さらなる進歩が期待される.
肥満は,糖尿病,高血圧,脂質代謝異常などの生活習慣病や,関節痛などの誘因ともなり,多くの先進国で社会問題となっている.このような病的肥満に対する外科的治療が欧米を中心に普及しつつある.現在,欧米では取り外しや調節の可能な「腹腔鏡下調節性胃バンディング術」の治療成績が良好で,主流となりつつあるが,わが国では製品が薬事未承認であり,限られた施設で試験的に行われているのみである.
一方,より簡便な術式として経口的に着脱式のバルーンを胃内に留置する「内視鏡的胃内バルーン留置術」がある.物理的な胃内容量の減少と機能的な胃内容の排泄遅延によって摂食量の減少がみられるが,バルーンの耐性等により留置の限界が六カ月とされる.病的肥満のように,従来,内科医によって治療されていた難治性の代謝性疾患の一部が,外科的アプローチにより良好な成績が得られるようになった.しかし,外科単独で治療できないことは言うまでもなく,内科・精神科等と連携することでMetabolic Surgeryという新たな分野が開けるものと考えられる.
NOTES,肥満外科ともに,学際性が重要な意味を持つ新たな領域と言える.
図一 NOTESの概念図(大分大学・北野正剛教授) |
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図二 腹腔鏡下調節性胃バンディング術と内視鏡的胃内バルーン留置術(大分大学・北野正剛教授) |
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(日本内視鏡外科学会理事長・慶應義塾大学名誉教授・国際医療福祉大学副学長・同三田病院院長 北島政樹)
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