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第1116号(平成20年3月5日) |
会員の皆さまの強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けました.意見・提案などをご応募ください.
機内ドクターコール もう一つの空の安全
平林邦昭(大阪府・堺市医師会)
先日,とある国際線で機内ドクターコールに遭遇した.直ちに駆け付けると,通路に中年の男性が倒れていた.心筋梗塞と診断し,専門外ではあるが対応に当たった.乗員にAED(自動体外式除細動器)を用意するように指示したが,「機内には装備されていない」と言われ,慌てた.
さらに,ウズベキスタン上空だったが,乗員から「緊急着陸が必要かどうかの指示が欲しい」と言われ,あまりの責任の重大さに愕然とした.幸い何とか持ち直し,四席確保して臥床させ,頭側に私が座り,常備薬と酸素マスクで無事帰国することができた.
『Nikkei Medical』(二〇〇七年五月号)のアンケート調査では,「ドクターコールに応じる」と答えた医師は三四%で,応じた経験のある医師(二六%)のうち二四%は「次回は応じない」と答えている.医師がためらう一番の理由は,「責任問題への不安」だ.わが国では民法上,機内での善意の対応で法的責任が問われることはない.
しかし,外国の国際線で,他国の上空ともなるとどうなるのか,曖昧模糊(あいまいもこ)としている.また,ことの重大さが乗員,乗客に十分伝わっているとは言えず,善意の医師が傷付くこともある.幸い,わが国の航空会社は医療機器の装備に関しては良好である.しかし,海外ではその常識は通用しない.一方,若い医師たちはBLS(一次救命処置),ACLS(二次救命処置)に熱心で,悪しき障壁さえ取り除いてやれば,現場で十分な実力を発揮するだろう.
高齢化社会を迎え,この問題は確実に増加する.まだ問題山積だが,決して目をつぶるのではなく,各方面の建設的な議論を期待したい.
医療を守れ
山本弘史(山形県・北村山地区医師会)
医療費の増大への対処法としては,主に診療報酬や薬価,自己負担,増税の面から議論されている.しかし,高齢社会では,医療費の自然増をカバーすることが,国のあり方として必要であると思う.医療費の削減は,国民の生活を直撃する.また,この問題には,税の使い道全体の議論が必要である.
平成十八年十二月に「道路特定財源の見直しに関する具体策」が閣議決定されたことは,一歩前進だと思う.医療費が,すでに聖域でなくなった今でも,「道路」が聖域であることには,成熟した高齢社会に生きる国民として,多くの人が疑問を抱くのではないだろうか.道路には,自動車重量税や揮発油税から,毎年ほぼ同じ税額が見込め,補助金で補修等ができるため,コスト意識はきわめて働きにくい.
高齢社会に求められるのは,だれでも安心して命を任せられる社会であるはずである.国民が真に望んでいる国のとるべき進路がどのようなものかを,国は,自営業者や,主婦層,若者など,多くの人の意見を聞いて判断すべきである.
すでに,多くの国民の生活はぎりぎりで,これ以上の増税や負担増は無理である.北九州市で,生活保護の打ち切りによって餓死者が出たように,命の分野のコスト意識は強力に働いている.無保険の人も多くなっている.
だれもが道路を必要とするが,命や生活も危機にひんしている今,税の使い道のバランスを考え,増税や負担増は避けるべきである.
がん検診に思う
宮崎幸雄(大分県・別府市医師会)
新聞に,「集団検診推奨せず」の見出しで,今後「PSA検査を集団検診として実施することは勧められない」とする指針案をまとめたとあった.その理由は,「検診での早期発見による死亡率の減少効果が不明なうえ,精密検査などによる合併症等のマイナス面が無視できないため」とのことであった.当然,日本泌尿器科学会は大反対であり,私も猛反対である.
がんの集団検診の最大の目的は,早期発見,早期治療につながり,死亡率を下げることである.しかし,前立腺がんは進行が遅く,早期に発見しても死亡率の低下が不明で,かつ,国内外の多数の論文を検証しても,死亡率の減少が証明されず,減少したとする研究も信頼性が低いと評価したとのことである.
私の場合も,検診でPSA値が五・〇ng/mlで,立派ながんが見つかり,早期に治療ができた.もし検診を受けていなければ,がんは進行し,重症(骨転移など)になって死期を早めたり,医療費も高額になったかもしれない.
平成十九年九月,大分市で「平成十九年度がん征圧全国大会」が開催され,「がん対策基本法施行後のがん検診」がテーマのシンポジウムを聴いた.そのなかで,韓国は「がん管理法」により国や自治体,国民保険公団が受検費用を全額負担し,受診率の向上と,がん検診の普及啓発に資しているという.
一方,日本は医療費や社会保障費をどんどん削り,国民の健康と安心を守る義務をないがしろにしているように思う.政府は検診事業にもっと金を使うべきだ.例えば,すべてを一律に行うのではなく,年齢に応じて適切な検査項目を設定するなど,知恵を働かせるべきだ.“予防こそ健康のもと”元気な老後を目指す「健康日本21」は,一体どうなっているのか?皆で考えてみなければ!
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