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第1117号(平成20年3月20日) |
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乳がん領域における最新治療の動向
〈日本乳癌学会〉
わが国における乳がんは,女性が最も多くかかるがんで,三十〜六十四歳までの年齢では死亡率が第一位となっており,若年から中年層では最も怖いがんになっている.本稿では,乳がん領域における最新治療の動向について述べる.
【乳房温存手術および術前化学療法】乳房温存手術が,わが国に導入されて二十年になる.この手術は,腫瘍径三センチ以下の乳がんにおける標準的手術となり,全体の五〇〜六〇%を占める最も多い術式となった(文献一).
一方,乳房温存率の向上と予後改善を目的とした術前化学療法が,多くの専門施設で行われつつある.術前アントラサイクリン(A)とタキサン(T)の同時あるいは逐次併用で,乳房温存率は七〇%以上に向上する(文献一).また,二〇〜三〇%の症例において,病理学的にがんが完全に消失し,このような症例では予後が良好である.
現在,Aに対するトポイソメラーゼIIα,Tに対するBRCA1などの治療効果予測因子が注目されている(文献二)が,遺伝子解析などによる,さらに有用な治療効果予測因子の確立と新しい治療薬の登場が待たれる.
【センチネルリンパ節生検】センチネルリンパ節は,がんが最初に入るリンパ節であり,これに転移がなければリンパ節郭清が省略できる.わが国では五〜六年前に導入され,腫瘍径三センチ以下の乳がんに行われている.センチネルリンパ節生検実施例の約八割で郭清を省略でき,治療が困難な上肢のリンパ浮腫を防ぐことができる利点がある(文献一).しかし,いまだ保険適用がなく,今後,日本乳癌学会が主導して先進医療を行い,保険適用申請を目指している.
【薬物療法の進歩】わが国の術後補助化学療法は,ここ十年間で標準化され,主としてSt. Gallen国際コンセンサス会議と日本乳癌学会の『乳癌診療ガイドライン』(文献三)に基づいて行われている.A系,T系薬剤が基本となるが,HER2(上皮増殖因子受容体2)陽性例には,HER2に対する抗体トラスツズマブの併用あるいは逐次投与(一年間)が用いられ,再発例が半減し,死亡率も四年の時点で三分の一減少した(文献一).
トラスツズマブは再発乳がんの治療薬として,汎用されてきたが,本年二月,補助療法としても保険適用となった.この薬剤の補助療法によって,わが国の多くの乳がん女性が救われることを期待している.
【参考文献】
一,園尾博司:乳癌 新しい診断と治療のABC.最新医学 別冊51: 9-19, 2007.
二,黒住昌史ほか:乳癌におけるtrastuzumabを上乗せした術前治療法と効果予測因子に関するIHC法とFISH法を用いた病理学的検討.乳癌の臨床 22: 365-370, 2007.
三,日本乳癌学会(編):乳癌診療ガイドライン─薬物療法─二〇〇七年版,金原出版,東京,2007.
(日本乳癌学会理事長・川崎医科大学乳腺甲状腺外科教授 園尾博司)
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