日医ニュース
日医ニュース目次 第1119号(平成20年4月20日)

第118回定例代議員会
唐澤会長再選 普遍平等な医療提供体制の確立へ

 第百十八回日本医師会定例代議員会が,四月一,二の両日,日医会館大講堂で開催された.第一日目には役員および裁定委員の選挙が行われ,唐澤人現会長が再選された.(別記事 定例総会所信表明事業計画就任会見職務分担予算委員会執行部発足 参照)

第118回定例代議員会/唐澤会長再選 普遍平等な医療提供体制の確立へ(写真)役員選挙

 四月一日午前九時三十分,滝澤秀次郎事務局長の司会で,遠藤俊一氏(東京都)を仮議長に選出.遠藤仮議長の開会宣言の後,氏名点呼,定数三百五十四人のうち三百五十二人の出席を確認.議事録署名人に稲倉正孝(宮崎県),鈴木勝彦(静岡県)の両氏が指名され,代議員会議長・副議長選挙に入った.
 議長の立候補者は一人であったため,無投票で,議長に石川育成氏(岩手県)の当選が確定した.
 副議長の立候補者は二名であったため,投票が行われた.
 石川議長から選挙立会人に魚谷純(鳥取県),福田稠(熊本県),金直樹(秋田県)の三氏,開票管理人に柏井洋臣(和歌山県),土橋正彦(千葉県),岩城勝英(富山県)の三氏が指名され,投票を開始.
 投票総数三百五十二票〔無効票二票,有効票三百五十票(白票一票含む)〕.結果は,米盛學氏(鹿児島県)二百六票,有山雄基氏(奈良県)百四十三票で,米盛氏が副議長に当選した.
 つづいて,石川議長より,八人の議事運営委員会委員の指名があり,会長選挙(定数一人)に入った.投票総数三百五十二票〔無効票一票,有効票三百五十一票(白票二十票含む)〕で,開票の結果,唐澤人氏(東京都)三百四票,下間秀晃氏(兵庫県)二十七票で,唐澤氏が再選を果たした.
 午後は,役員選挙(副会長・理事・常任理事・監事)および裁定委員選挙が予定されていたが,副会長,理事,監事,裁定委員は定数内のため,立候補者全員の当選が確定.常任理事については定数を超える立候補者があったために投票による選挙となった.
 その結果,投票総数三千五百票〔代議員三百五十人,無効票百十票,有効票三千三百九十票(白票四百四十七票含む)〕で,開票結果は,三上裕司氏(大阪府)三百八票,中川俊男氏(北海道)三百七票,今村聡氏(東京都)二百九十七票,藤原淳氏(山口県)二百八十四票,石井正三氏(福島県)二百八十二票,木下勝之氏(東京都)二百八十票,内田健夫氏(神奈川県)二百七十九票,羽生田俊氏(群馬県)二百七十三票,今村定臣氏(長崎県)二百四十六票,飯沼雅朗氏(愛知県)二百四十二票,保坂シゲリ氏(神奈川県)百四十五票で,上位十人の当選が確定した.
 選挙後,裁定委員を除く当選者全員が登壇.唐澤会長が当選者を代表してあいさつに立ち,会員への感謝と今後の協力を要請して,第一日目の日程を終了した.

第118回定例代議員会/唐澤会長再選 普遍平等な医療提供体制の確立へ(写真)議案審議

 第二日目,午前九時三十分,石川議長の開会宣言,あいさつの後,唐澤会長が所信を表明別記事参照,今後の日医の運営方針を明らかにした.また,四月一日から再び日本医学会長に就任した久史麿氏のあいさつが行われた.つづいて,竹嶋康弘副会長が登壇,昨年度中に物故された千五百八人の会員の霊に,全員で黙とうを捧げた後,会務報告を行い,議事に入った.
 まず,第一号議案「平成十九年度日本医師会会費減免申請の件」を上程,提案理由説明の後,可決.次いで,第二号議案「平成二十年度日本医師会事業計画の件」,第三号議案「平成二十年度日本医師会一般会計予算の件」,第四号議案「平成二十年度医賠責特約保険事業特別会計予算の件」,第五号議案「平成二十年度治験促進センター事業特別会計予算の件」,第六号議案「平成二十年度医師再就業支援事業特別会計予算の件」,第七号議案「日本医師会会費賦課徴収の件」を一括上程,執行部の提案理由説明の後,予算委員会(各ブロックから選出された二十五名の委員で構成)に審議を付託別記事参照.追加議案として,第八号議案「日本医師会役員功労金支給の件」(退任者は鈴木満・天本宏両前常任理事)を上程し,賛成多数で可決.その後,代表質問と個人質問に入った.

代表質問

 午前十時五十分から,恒例に従い,執行部に対する代議員の質問を開始した.
 (一)森藤忠夫代議員(中国四国ブロック)の診療報酬改定についての質問には,竹嶋副会長が,中医協で答申取りまとめに至るまでの経緯を説明.最後まで合意の得られなかった,「診療所の再診料の引き下げ」「外来管理加算の時間制限の導入」など五項目について,再診料の引き下げは見送りとしたものの,外来管理加算の時間制限の導入については,公益側の提案を受け入れたことに関して,病院対策への財源確保のための苦渋の決断だったと述べ,改めて理解を求めた.
 また,答申の附帯決議として掲げられた八項目については,中医協で今後検討することとなっているが,日医では,その影響および現場の実態を把握するため,四月からレセプト調査を実施すると説明.「調査結果を踏まえ,直ちに改めるべき問題については,次回改定を待たずに修正するよう迅速に働き掛ける」と回答した.
 (二)松田峻一良代議員(九州ブロック)の医療環境の「危機打開の方策は」との質問には,竹嶋副会長が,国の医療費抑制策によって,「国民への安心・安全な医療提供の確保」は,危機的な状況にあると指摘.「このような状況を打破するために,すべての医師が医師会の下に集結するよう,昨年度に引き続き『二十五万会員プロジェクト』を具体的に実行していく」と述べた.また,「われわれの声を政治に反映させるべく,ロビー活動にも力を入れる」とし,理解と協力を求めた.
 (三)泉良平代議員(中部ブロック)の日医に勤務医部会の設立を求める提案には,宝住与一副会長が,組織力を強化し,「国民が安心できる最善の医療」を目指していくためにも,勤務医の参画は非常に重要な課題であると強調.医療政策等の提言が,勤務医から日医に届くような仕組みづくりを検討していきたいと述べた.
 また,「『二十五万会員プロジェクト会議』では,勤務医や医師会にかかる諸問題の解決や,未加入医師の医師会加入促進等について,議論を開始している.さらに,勤務医の過重労働の緩和に寄与する具体的な対策と日医がとるべき行動を検討することを目的としたプロジェクト委員会を早急に立ち上げ,本年度中に提言をまとめたい」とした.
 (四)酒井英雄代議員(近畿ブロック)は,(1)特定健診・特定保健指導(2)診療関連死問題(3)医療法改正による新医療法人制度─に関する日医の対応を質問.(1)には岩砂和雄副会長が,(2)(3)には宝住副会長が回答した.
 (1)では,a.「みなし指定」には弊害がある.支払基金で登録をして欲しい b.集合契約は,保険者が相互に委任状を交わせば全国どこでも健診を受診できる c.電子化対応は,日医ホームページからフリーソフトにリンクでき,また,代行入力用に統一の帳票案を作成.なお,「日医特定健康診査システム(仮称)」は開発中─と答弁.
 (2)では,新たな死因究明制度は,医療安全,再発予防に資するものだと強調.医療安全・医事紛争・勤務医各担当理事等からも種々意見を受けている.日医の考えを入れた厚労省第三次試案が一両日中に公表される予定とした.
 (3)では,平成二十年度税制改正要望の重点項目として,関係各方面に働き掛けてきたが,移行税制や社会医療法人返上の場合の剰余金課税問題の解決に向け,引き続き努力していくとした.
 (五)上埜光紀代議員(北海道ブロック)は,医療崩壊の危機回避のため,新医師臨床研修制度を見直し,卒前・卒後教育を含む一貫性ある教育システムの再構築と臨床研修期間の短縮を提案.
 岩砂副会長は,一貫した教育システムにするには,卒前臨床実習における法的・人的・社会的支援体制の構築等の課題があると指摘.日医では,医師の臨床研修についての検討委員会(プロジェクト)での議論等も踏まえ,マッチング方式の見直しや臨床研修病院の募集定員の絞り込み等を提言していると説明.また,全国の大学医学部と臨床系教室を対象に,現在,「新医師臨床研修制度と医師偏在・不足に関する調査」を実施中.今後,アンケート結果を基に発言していきたいと述べた.
 (六)佐藤和宏代議員(東北ブロック)からの対外広報費の倍増を求める質問には,宝住副会長が,限られた予算のなかで,テレビCM等による日医のイメージアップ戦略は,一定の効果をあげていると回答.対外広報予算を,医賠責保険を除く事業費全体で見ると,平成十八年度四・七%,十九年度五・〇%,二十年度六・〇%であり,今後も,有効性を検証しつつ予算を執行していきたいと述べた.
 (七)原中勝征代議員(関東甲信越ブロック)は,(1)医療費削減と五分間診療(2)医療訴訟に対する厚労省案(3)後期高齢者医療制度─に対する日医の見解を質した.
 竹嶋副会長は,(1)について,二千二百億円のマイナスシーリングを「基本方針二〇〇八」から削除させる.時間の概念の導入に対しては四月以降の中医協で,検証のうえ,再度議論に付すとした.(2)については,あくまでも原因究明と再発防止に資するためのものであるとし,第三者機関である「医療安全調査委員会(仮称)」の設置に理解を求めた.(3)については,一般医療保険制度は公費の投入をやめて保険原理で運営し,後期高齢者医療制度は公費を重点的に投入して保障色の強い制度設計とすることを提案した『グランドデザイン二〇〇七』の考え方を改めて示し,実現に向けた活動展開へ意欲を示した.

個人質問

 昼食後,個人質問を開始した.なお,役員会議室において予算委員会が並行して開かれた.
 (一)佐々木治夫代議員(長野県)からは,看護師国家試験の恒常的な合格ラインの設定についての質問があり,羽生田俊常任理事が回答.
 相対評価の問題点については,厚生労働省医道審議会の保健師助産師看護師国家試験制度改善部会でも指摘しているものの,合格率の安定を図るために相対評価が導入された経緯から,同委員会では当面変更しないとされていることを説明した.また,試験問題自体の精度の低さが正解率にばらつきをもたらしているとして,レベルアップを図るために問題のプール制を導入したことを紹介.医師会立看護学校において,卒業試験に使用した問題等を提出するよう協力を呼び掛けた.
 (二)首藤貴代議員(愛媛県)からは,勤務医の職場定着を推進する観点から必要経費に対する税制改善の要望があり,今村聡常任理事が回答.
 給与所得控除を超える部分について必要経費を認める「特定支出」は,通勤費・研修費・転任に伴う支出等に範囲が限定されていることから,「医師賠償責任保険の保険料や個人持ち医療機器についても認められるよう,特定支出の範囲拡大を,平成二十一年度の税制要望に入れていくことを検討する」と強調.さらに,勤務医の職場定着の推進に向けては,所得税だけでなく,院内保育所の設置等,職場環境の改善に取り組む病院への税制上の支援も検討していくとした.
 (三)江頭啓介代議員(福岡県)からの,准看護師養成に関する質問には,羽生田常任理事が回答.
 同常任理事は,「准看護師制度は,勤務しながら二年で資格取得が可能など,社会人でも学びやすい制度であり,社会人の入学をさらに増やすことを推進して欲しい.また,准看護師課程のカリキュラムは,看護学校に合わせ,単位制を導入すべきとの考えから,昨年十一月に厚労大臣宛に要望書を提出した.看護職の資格は,看護師・准看護師・看護補助者による,三層構造の堅持こそが要であり,各地域には,准看護学校が存続できるよう努力をお願いしたい.日医としても,各学校に対し補助を行いながら,マスコミ等を使い,准看護師の必要性を訴えたい」との考えを示した.
 (四)山中弘光代議員(兵庫県)の,公益法人制度改革への対応に関する質問に,羽生田常任理事は,「公益事業費比率認定に係る共同利用施設運営事業の取扱いは,看護学校については明らかになりつつあるが,医師会立病院,共同利用施設,共済会などは,引き続き検討課題となっている.制度として認められない代議員会は,内閣府公益認定委員会にて,実態を踏まえ,形を代えることで認める方向で検討されている.医師会は性格上,公益認定法人に移行すべきと考えているが,各種事業を抱えている地域医師会は,認定要件のハードルが高い.現在,各種事業の線引きについて,同委員会に,問い合わせ中であり,五〜六月ごろに,担当者会議を開き,進展具合などを説明したい」と回答した.
 (五)小森貴代議員(石川県)は,勤務医の組織率向上に関して質問.
 内田健夫常任理事は,勤務医・開業医の立場を超えて協働することが重要と認識しており,日医では,「二十五万会員プロジェクト会議」を立ち上げ,医師会の組織強化について検討を重ねていると答弁.また,(1)会長選挙は,「定款・諸規程検討委員会」等の意見を踏まえ,会員の意見を反映できる制度を設計したい(2)役員・代議員の勤務医枠の創設は,新公益法人制度化において,特定の資格者に権利を優遇することが可能かという法的解釈が必要(3)勤務医会費の減額は,会務運営の根幹にかかわる問題として,会員間の格差対応など,多方面からの検討が必要(4)会費納入や異動の事務手続きの簡素化等は,都道府県・郡市区医師会に検討をお願いしたい─と回答した.
 (六)齋藤浩代議員(茨城県)からは,崩壊寸前の介護に関する日医の対応策について質問が出された.三上裕司常任理事は,短中期的な対応策としては,「介護労働環境の整備」「介護保険料の適正な運用への見直し」「医療保険から介護保険への拙速な移行誘導の阻止」などがあると指摘.
 また,超高齢社会を迎える二〇三〇年に向けて,個別ニーズに沿ったサービスが,在宅でも施設でも同じように給付される制度改革を目指すと回答した.
 さらに,日医総研もかかわった「療養病床の再編に関する緊急調査」の結果を基に,中医協で療養病床削減の見直しを強く求めたことに言及.今後は,次期介護報酬改定に向けて,在宅についても調査分析を行っていきたいとした.
 (七)宮本慎一代議員(北海道)からの,地域医療の確保に関する質問には,内田常任理事が,まず,「現在,わが国の医師は偏在し,不足している状況にある」とする日医の見解を説明.
 そのうえで,医師数をOECD諸国並みにするためには,医療費もOECD諸国並みに増やす必要があるとし,「基本方針二〇〇八」の策定に向けて,社会保障費の国庫負担分年二千二百億円の削減見直しを,政府・与党に強く働き掛けていくとの考えを示した.
 また,国の緊急臨時的医師派遣事業については,その強化を求めるとともに,派遣医師の確保,派遣元の医療機関の選定や派遣後の検証を行っていくとした.
 (八)北川靖代議員(京都府)からの在宅医療に取り組みやすい環境整備を求める要望に対しては,藤原淳常任理事が回答.
 同常任理事は,在宅医療は医療費抑制を目的とするものではなく,国民の生活を支えるものでなければならないと指摘.在宅医療推進のためには,基盤整備はもちろんのこと,在宅医療に従事している人たちへのインセンティブが必要だとして,中医協等で,地域の診療所が積極的に在宅医療に取り組める診療報酬体系を構築できるよう,積極的に主張していく意向を明らかにした.
 (九)山光進代議員(北海道)が,患者負担を軽減し,受診抑制を改善する方策として,(1)患者一部負担の引き下げ(2)低所得者の最高自己負担額の軽減(3)経済的に苦しい世帯の医療費負担額軽減─を提案したのに対して,中川俊男常任理事は,経済的に困窮している人たちが安心して医療を受けられるようにする必要があり,そのためには,あるべき社会保障費を確保していかなければならないと主張.その実現のために,今後,日本で起きている医療崩壊,受診抑制の実態を政府与党などに説明していくとしたほか,公的医療保険制度の再構築,財政問題に対する日医の分析力・発言力を高める必要があるとの考えを示した.
 (十)實藤政理代議員(長崎県)からの「医療安全調査委員会(仮称)」,(十一)高杉敬久代議員(広島県)からの「新たな死因究明制度等」,(十二)伊藤宣夫代議員(愛知県)からの「医療訴訟に対するルール作りと医療過誤に対する医師の行政処分」─についての質問には,木下勝之常任理事が一括答弁を行った.
 同常任理事は,まず,「刑事訴追という誤った方向から医療者の不安を取り除く」ことを目的に,これまで議論を重ねてきたことを強調.そのうえで,一両日中に,厚労省から第三次試案が公表される予定なので,それ以後,改めて意見の統一を図っていきたいと述べた.
 「医療安全調査委員会(仮称)」については,調査の目的が,責任追及ではなく,将来の医療安全のためのものであり,医師法第二十一条に基づく警察への届出に代わる届出機関となることを説明.調査報告書については,故意や隠蔽(いんぺい),医療事故の繰り返し,故意または重大な過失に限って,通知を行った事例のみを捜査機関が使用することになるが,それ以外は,原則,使用しないことになると説明した.
 また,当該委員会を厚労省から独立した組織にすべきとの指摘には,内容の検討については医療の専門家を中心に行うことになっており,厚労省は単なる事務局でしかない.最終的にどこに置くのかという点については,今後も議論を重ねるとした.さらに,民事賠償については,新たな死因究明制度とは別の次元の対応になるとし,委員会の調査報告書が使われる場合も,あくまで医学的観点からの調査であることから,単純に損害賠償における責任有無という判断とは違うとの考えを示した.
 訴訟の多さを理由に,産科から撤退する医師が増加していることなどから,「医療訴訟に対するルール作り」が必要との指摘については,産科領域における無過失補償制度が今年度中に発足する見通しであることを報告.また,現在,政府で検討中の「新たな死因究明制度等」も,刑事訴追の誤った流れを変えるための取り組みであるとして理解を求めた.
 「医療過誤に対する医師の行政処分」については,「新たな死因究明制度等」の検討のなかで,再教育を原則に,従来のように制裁型ではなく支援型とする方向で議論を行っていることを紹介.また,医道審議会の下に,医療の専門家が中心になり,「処分を検討する場」の設置を提案していると報告した.

 午後三時十五分,審議を再開し,浅野定弘予算委員長(滋賀県)が,「付託された議案を審議した結果,承認することに決定した」旨報告.議長が第二〜七号議案の採択を行い,賛成多数で可決した.

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