日医ニュース
日医ニュース目次 第1121号(平成20年5月20日)

「厚生労働省第三次試案」に関する都道府県医師会担当理事連絡協議会
約8割の都道府県医師会が本試案に基づく死因究明制度創設に賛意

 「厚生労働省第三次試案」に関する都道府県医師会担当理事連絡協議会が,四月二十四日,日医会館小講堂で開催された.日医では,医療死亡事故の原因究明制度創設に関する厚労省の第三次試案を受け,各都道府県医師会にアンケートを行っていたが,約八割が制度創設に賛意を示したことが報告された.

「厚生労働省第三次試案」に関する都道府県医師会担当理事連絡協議会/約8割の都道府県医師会が本試案に基づく死因究明制度創設に賛意(写真) 冒頭,唐澤人会長があいさつに立ち,「現在は,医師法第二十一条の下で,刑事訴追という誤った方向にある.日医は警察による犯罪の有無を捜査する仕組みを,第三者機関である医療安全調査委員会に届け出て原因究明を行い,再発予防策を立てるという,医療安全に資する制度に変えることを目指して議論・検討を行ってきた」と強調.
 第二次試案に対するさまざまな指摘を受け,さらなる検討が重ねられた第三次試案であるが,「日医としては,皆様の意見を拝聴し,第三次試案に関する共通の認識に向け議論を尽くしていただき,制度化について一層理解を深め,統一見解が図られることを期待している」と述べた.
 日医では,四月三日に厚労省が公表した「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案─第三次試案─」を受けて,各都道府県医師会に対して意見を求めていたが,議事に先立ち,このアンケート結果(回収率一〇〇%)が報告された.
 それによると,「第三次試案に基づき制度を創設すべき」が三十六医師会(七六・六%),「第三次試案に基づき制度を創設すべきでない」が七医師会(一四・九%),「その他」が四医師会(八・五%)で,約八割の都道府県医師会が制度創設に肯定的な姿勢を示している.
 「創設すべき」と回答した医師会からは,「届出範囲がより明らかになった」「届出を行った場合は医師法第二十一条に基づく届出は不要となっており,大きな前進」「届出違反には,直接刑事罰が適応されるのではなく,『届出できる体制を整備することを命令する行政処分』を科するとしたことは非常に評価できる」などの意見が寄せられる一方,解剖医の確保や,制度の実現にかかる多額の費用についての懸念もみられた.
 「創設すべきでない」と回答した医師会からは,「故意や明らかな過失による死亡事例は,従来どおり司法の手に委ねられるべき.明らかに違法性のあるものまで調査委員会で扱うと,事故隠し,犯罪者擁護と取られかねない」「重大な過失の定義を明確にすべき」「捜査機関への通知は,『死亡事故が故意に起こされた場合のみにする』というほうが誤解を招かない」など,さまざまな提案がみられた.
 刑事手続きに関しては,賛成反対の双方から,司法当局の謙抑的対応を担保すべく,委員会と捜査機関との関係を明文化すべきだとの意見が寄せられている.

■木下常任理事が第三次試案までの経緯を説明

 続いて,木下勝之常任理事が,平成十八年二月の「福島県立大野病院事件」を契機として,日医や厚労省で診療関連死に関する死因究明について議論が進められてきた経緯を説明.同常任理事は,「医師法第二十一条の異状死には診療関連死が含まれ,警察に届け出ると,捜査,書類送検という刑事司法の流れに入ってしまう.医療界が原因を究明して再発を予防するという仕組みをつくるためには,二十一条を改正し,医療界を中心とした委員で構成される第三者機関としての調査委員会を作るべきであると提言した」と述べ,法改正に向け,厚労省の検討会で討議し,法務省・警察庁とも折衝を進めてきたことを説明した.
 第三次試案については,「本文とQ&Aで出来ているが,すべてのことを法文には出来ない.Q&Aは厚労省が希望的観測で書いたものではなく,法務省・警察庁と一言一句協議して,合意した」として,三者の合意を得た最終案であることを強調した.

■医療安全調査委員会のあり方をめぐり活発な意見交換

 質疑応答では,刑事手続きについて,警察の謙抑的な姿勢を担保することを明文化する必要性が指摘された.これに対して,木下常任理事は,「この問題は,厚労省がどんなに求めても,法務省・警察庁が了解しなければ前に進まない話であり,検討会で話されたことは試案のとおりである.覚書がなくとも互いに了解したものだ」と回答.
 また,「医療安全調査委員会から捜査機関に通知せず,報告書を公表するだけの形にできないか」との発言に対しては,「そのようにすれば,警察は必ず全部見せてくれ,ということになる.今回の意図したところは,医療界が見て本当に重大な過失であるということ.医療の現場を知らない人が過失の軽重だけで判断するなら,今までどおりの仕組みとなってしまう.医療事故について,医師が判断できるようになるのは大きな進歩だ」と理解を求めた.
 捜査機関への通知対象となる「故意や重大な過失・悪質な事例」についての質問には,医療機関における医療安全体制など,背景も含めて判断するため,極めて限定的なものに過ぎないとし,小さな過失は再教育などの行政処分で対応することを強調した.
 医療安全調査委員会に遺族が入ることへの懸念に対しては,本試案において「有識者」と言い換えられ,遺族の代表に限らないことを説明したうえで,「現在の状況では透明性の確保が必要.医学的な原因究明の議論に関しては,専門家でない人の入る余地はなく,遺族が入っても結果が揺らぐことはない」とした.
 一方,制度創設に賛成する医師会からは,「今までは一人の医師や法医学者の一方的な意見が検察側で大きな力を持つなどの問題があった.医療の専門家で構成される医療安全調査委員会の設置は,県警も歓迎している」「刑事訴訟法がある以上,刑事免責はあり得ないが,この制度が機能すると警察の介入する余地が小さくなる」などの発言や,早急な実現を求める意見が出された.
 最後に,竹嶋康弘副会長があいさつし,活発な協議に謝意を述べるとともに,「大変難しい問題で,文字に出来るところ,出来ないところがあり,一部に不信があることもわきまえている.今日の議論をもう一度練って,そのうえで方向をご報告申し上げたい」と述べ,最終的な日医の見解の取りまとめに意欲を示した.

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