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第1124号(平成20年7月5日) |
「日本医師会新医師臨床研修制度と医師偏在・医師不足に関する緊急アンケート調査」結果報告
新医師臨床研修制度が医師不足顕在化の引き金に
日医は,本年四月に実施した「日本医師会新医師臨床研修制度(以下,新制度という)と医師偏在・医師不足に関する緊急アンケート調査」の結果を公表した.それによれば,大学医局の四分の三で新制度導入後に医師派遣の中止・休止があり,このうちの約八割は新制度が主な原因と考えていることが明らかになった.
もともと,日本は医師不足の状況にあったが,近年,顕在化し,大きな社会問題となっている.平成十六(二〇〇四)年四月の新制度の導入によって,大学医学部の医師供給システムが崩壊し,その結果,医師配置の偏在化を通じて,医師不足が顕在化したのではないかと考えられる.そこで,日医では新制度の導入によって,医師配置がどのように変化し,その結果,どこでどの程度の深刻な医師不足という現象が起きているのかを明らかにするために,今回のアンケート調査を実施した.
調査は,全国の(一)大学医学部の医学部長(七十九名),および(二)臨床系の医学部教室(医局)の責任者(多くは主任教授,千八百二十一名)を対象として実施し,それぞれ八二・三%,五六・二%という高い有効回答率を得た.
(一)の調査結果からは,大学において,初期研修医の受け入れ数は減少傾向,後期研修医の受け入れ数は若干の増加傾向にあることが分かった.このことは,人材不足対応のために,即戦力となり得る後期研修医を確保する動きがあったことも一因と考えられる.
また,国家試験合格者数に対する初期研修医数の割合は,新制度の導入を受けて大きく落ち込み,制度が導入された平成十六年以降も減少傾向となっていた.
(二)の調査結果からは,有効回答のあった千二十四教室のうち,平成十六年四月以降,関連医療機関への医師派遣を中止・休止したことがある教室(医局)は,七百八十四教室(七六・六%)にも及んでいることが分かった(図1).このうち,新制度の導入が主な原因であると回答した教室は,六百九教室(七七・七%)となっており,新制度の導入を主因として,約六割の教室(医局)が医師派遣の中止・休止を実施したことが明らかになった(図2).
これらの結果からは,新制度が引き金となって医師不足が顕在化したことがうかがえ,新制度の導入によって,大学において初期・後期研修医が減少し,大学医学部の医師派遣機能が弱体化した可能性が高いと言える.
さらに,医師派遣の中止・休止があった医療機関のうち,診療の制限(診療時間の短縮,外来のみにした,分娩中止など)が起きた医療機関が四四・六%,診療科自体の閉鎖が起きた医療機関が一六・五%であった.
専門科別に派遣医師数が減少した関連医療機関の割合を見てみると,産婦人科で影響が一番大きく四〇・五%であった.これは新制度の影響だけではなく,産婦人科医の減少,訴訟リスクの問題もあると考えられる.
一方,地域別に派遣医師数の変化動向を見てみると,もともと一般病院従事医師数が手薄な地域で派遣医師数が最も減少しており,地域間格差が広がっていた.
六月十一日の定例記者会見のなかで,調査結果を説明した中川俊男常任理事は,「今回の調査は,全国一律に実施した日医として初めての試みであったが,本調査への回答率の高さは,医師不足に対する危機感が反映されたものであると言える.本調査結果が,新制度が引き金となって医師不足が顕在化している,という現実に,医療関係者が目を向けるきっかけになってくれればと考えている」と述べた.
なお,今回の調査結果の詳細については,日医のホームページ(定例記者会見)を参照されたい.
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