日医ニュース
日医ニュース目次 第1125号(平成20年7月20日)

私もひとこと

神奈川県医師会長 大久保吉修

 勤務医は,医療費抑制と市場原理の向かい風の中に立たされている.
 当県の,勤務医に対する平成二十年一月の調査がこれを示している.
 過労死の労災認定基準の週二十時間以上時間外が三一%,週一回以上の当直が二五%,当直明けの通常勤務が八九%である.長時間勤務による影響については,医療事故の誘因が五二%であった.しかも,三三%が勤務医を辞めたい理由として,医療過誤,医療訴訟の増加を挙げている.
 このような環境では,過重労働の増大,医療訴訟の不安の増大とモチベーションの低下を招き,医療過誤がさらに生ずる原因となる.
 医療費抑制政策の下での,取り繕いの時間稼ぎの医療施策は,何の根本的な解決にもならない.本来,医療は社会保障であるという原点に戻って,医療体制を考えるべきである.社会保障費の抑制は,すべての分野において,住民の安全を向上させることにならない.
 医療過誤に対する不安感を除くためには,再発防止を目的とした信頼のおける究明調査システムが必要である.
 診療関連死に刑事罰が法制化されている国は,アメリカとドイツの各二州のみである.萎縮医療の増大を防ぐためにも,わが国は法制化すべきではない.
 医療から市場競争原理を排除して,社会保障の充実を図り,医療は不確実なものであると認識することが,勤務医が安心して働ける環境には必要な条件と考える.

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