日医ニュース
日医ニュース目次 第1126号(平成20年8月5日)

平成20年度第1回都道府県医師会長協議会
医療費抑制政策の方向転換への対応など喫緊の問題を協議

 平成二十年度第一回都道府県医師会長協議会が,七月十五日,日医会館小講堂で開催された.
 各都道府県医師会からは,「医療費抑制政策の方向転換への対応」「“総合診療医(仮)”日医認定制度」「緊急医師確保対策」など,多岐にわたる質問が出され,それぞれの担当役員が回答し,都道府県医師会の理解を求めた.

平成20年度第1回都道府県医師会長協議会/医療費抑制政策の方向転換への対応など喫緊の問題を協議(写真) 羽生田俊常任理事の司会で開会.
 冒頭,あいさつした唐澤人会長は,六月十四日に発生した岩手・宮城内陸地震について触れ,被災地の方々へお見舞いを述べた.
 その後,石川育成岩手県医師会長ならびに伊東潤造宮城県医師会長より,それぞれの地域における医療機関の被災状況等の報告が行われ,全国からの励ましへの謝辞が述べられた.

協  議

 (一)徳島県医師会からは,厚生労働省調査に対する日医の同意について質問が出され,木下勝之常任理事が同意に至る経緯を説明した.
 微量採血用穿刺器具の使用状況調査について,事前に厚労省より日医に説明があり,調査の是非も含め議論を行った.また,調査結果を公表することについては,医療現場ならびに国民へ無用な不安を招くと強く反対したが,厚労省は,感染の可能性がゼロでない以上,国民に情報提供せざるを得ないとの回答であった.
 そのため,日医としては公表に際し,「使用様式を区分」「消毒して使用していた場合はその旨を付記」「国民に向け感染に関する日本感染症学会の見解を提示し,感染の心配がないことを明らかにする」「調査回答の有無で医療機関にペナルティ等の処分を行わない」「再調査は行わない」「公表内容を事前に日医に相談する」等の確約を厚労省から取ったことにより,現状においては公表せざるを得ないと判断した.
 (二)三重県医師会からの,微量採血用穿刺器具と真空採血管ホルダーの取り扱いに関する日医の見解と今後の対応についての質問に,木下常任理事が回答した.
 (1)真空採血管ホルダーについては,国内では感染等の事例報告はなく,厚労省のQ&Aでも,単回使用を行っていないことが感染に結び付くものではないと示されており,感染リスクがないに等しいほど低いこと(2)日本感染症学会等から出されている「真空採血管を用いた採血業務に関する安全管理指針」には,同指針で示された正しい採血方法を実施した場合,血液の逆流は起きず,ホルダーによる感染は起こらないと明記されていること─等を説明.
 そのうえで,現在,日本感染症学会に見解を求めているところであるとし,今後の対応としては,添付文書への対応および製造販売業者に対する適切な指導等を厚労省に求めていくとの考えを示した.
 (三)新潟県医師会からは,保険免責制の導入を断固阻止すべきとの要望が出された.
 これに対して,中川俊男常任理事は,社会保障国民会議サービス保障(医療・介護・福祉)分科会の中間取りまとめで,保険免責制の導入や混合診療にも言及しているが,保険免責制や混合診療の導入は,家計負担を確実に増大させ,医療格差を拡大させるとその問題点を改めて指摘.
 今後も,日医としては保険免責制の導入や混合診療の解禁に強く反対していくとともに,政府の審議会などから出されるものに,このような言葉が明記されることのないよう,しっかりと理論武装していきたいと述べた.
 (四)地域産業保健センターの委託事業を,所轄税務署に申請しなくても,公益法人等の収益事業としないようにすることを求める秋田県医師会からの要望には,今村聡常任理事が回答した.
 同常任理事は,煩雑な事務作業の軽減は重要な課題であり,税理士等の専門家も交えて法令順守の観点から,今回の要望について改めて検討を行ったことを報告.その結果,地域産業保健センター事業は,法人税法施行令第五条一項十号の請負業に該当するため,公益法人の行う収益事業の範囲に該当し,所管税務署への届出と税務申告の必要があることから,要望にあるような対応を取ることは極めて困難であるとの結論に達したことを説明.検討結果に対する理解を求めた.
 (五)兵庫県医師会からは,(1)高齢者医療制度に係る医療費の九割を公費負担にすることで,国の関与が強まることへの懸念が示されたほか,(2)今年五月に創設された「先端医療開発特区」に対する日医の対応を問う質問が出された.
 (1)に対して,中川常任理事は,現状でも保険種別による公費投入割合の多寡に関係なく,医療費の抑制は行われており,公費を医療費の九割という形で集中的に投入したとしても,国の関与は強まることはないと説明した.そして,消費税が引き上げられた際の受け皿として,高齢者医療制度における公費負担割合を拡大しておく必要があるとの考えを示した.
 また,日医が今やるべきことは,医療費の抑制政策の根本的な見直しを求めていくことだとして,各医師会に対して,さらなる協力を求めた.
 (2)に関しては,内田健夫常任理事が,「先端医療開発特区」の問題点として,「高度医療評価制度」の活用が認められている点などが挙げられると指摘.そのうえで,経済界などから,特区の結果を見て,混合診療の解禁や営利企業による病院の直接経営の容認などを求める動きが強まることに懸念を表明し,今後もその成り行きを監視していくとともに,必要な時にはしかるべき見解を示すとの考えを示した.
 (六)日医に「社会保障立国論」の策定を求める京都府医師会からの質問には,竹嶋康弘副会長が回答した.
 同副会長は,社会保障は,時代の要請により進化していくべきものだと考えるが,社会保障の中核をなす医療においては,医師不足や偏在,療養病床の削減,患者負担増などによって,国民の医療へのアクセスポイントは確実に減っており,進化するどころか,むしろ後退してしまっていると批判.このような時こそ,日医が国の政策の方向転換を迫る提言をすべきだとして,今後は医療を越えた社会保障全体の充実に向けて,この国のあり方,目指すべき方向性について提言し,新たな国づくりに全力で取り組んでいくとした.
 (七)愛媛県医師会からは,タバコ対策委員会の設置を求める要望があった.
 内田常任理事は,会内の公衆衛生委員会に従来の禁煙推進委員会の委員三名に参画してもらい,たばこの問題についても検討していることを説明.たばこが健康を害することは,すでに国民に浸透しているとの認識を示したうえで,「委員会の設置ということではなく,日医としてどのように施策を進めていくかが重要.特に子どもの喫煙防止に力を入れたい」と述べ,禁煙対策推進活動への理解とさらなる協力を求めた.
 (八)岡山県医師会からは,レセプトオンライン化を進めていくことに関して,さまざまな懸念が示された.
 これに対して,藤原淳常任理事は,日医が実施した『レセプトオンライン請求義務化に関するアンケート調査』の結果では,オンライン化に対応出来ないため,廃院を考えている医療機関が三千六百十一施設(八・六%)あったことなどを示して,改めて,オンライン請求の義務化に反対の意向を表明.今後は,引き続き緩和策を講じるよう強く働き掛けていくとともに,平成二十一年度の予算編成に向けて,医療機関に対する財政的な支援を要求していく考え等を示した.
 (九)大阪府医師会からは,特定健診・特定保健指導についての質問があり,内田常任理事が回答した.
 同常任理事は,標準的な契約書例(ひな型)の「第十一条(事故及び損害の責任)」は,保険者・実施機関のいずれかに負担が偏ることは適当でないとの観点で,また,受託する実施機関や医師会等,取りまとめ団体が独占禁止法に抵触しないように公正取引委員会に確認し,関係者の調整のうえ,まとめられたものであると説明し,理解を求めた.
 また,現在,都道府県医師会・郡市区医師会に契約状況等の調査を依頼しており,これを基に,日医総研で,特定健診・特定保健指導の実施における標準的委託業務契約の法的問題点に関する調査研究を行うと説明.ひな型の早急な改訂は難しいが,調査結果を踏まえて対応したいとした.
 さらに,具体的な実施方針についても,引き続き,厚労省,支払基金,国保中央会との連携を密にしながら対応していきたいと述べた.
 (十)福岡県医師会からの女性医師登用推進についての質問には,今村定臣常任理事が回答し,日医では,本年度の事業計画に,「会内委員会の女性医師の積極的な登用」を盛り込み,ブロック推薦委員に女性医師登用の協力依頼をし,さらに,平成二十年四月に全地域医師会の女性役員を対象に「会内委員会への女性会員登用のための調査」を実施した結果,女性医師の在籍する委員会の割合が五六・五%と半数以上を占め,全委員数に占める女性医師の割合も八・二%に増加していることなどを報告.
 これらの取り組みを地域医師会にも広げることが重要であり,さらに実効ある策を検討していきたいと述べた.
 (十一)山口県医師会からの,医療費抑制政策の方向転換への対応についての質問に対して,中川常任理事は,来年度予算のシーリングで二千二百億円を削減させないために,ロビー活動に加え,七月十五日,全国紙二紙に意見広告を掲載したと説明.
 また,七月二十四日開催予定の「地域医療崩壊阻止のための総決起大会」にも言及し,「政府は医療崩壊の現実を認識はしている.政府に医療費抑制の方針転換をさせるべく,粘り強く戦っていく」と主張した.
 さらに,「“医療費亡国論”の呪縛から脱却すべきという指摘については,まったく同感である.今後は,グランドデザインを進化させ,あるべき医療,必要な医療費を国民に明示して世論形成に努め,国が方針転換せざるを得ない状況をつくることが重要である」との見解を示し,理解と協力を求めた.
 (十二)埼玉県医師会からの“総合診療医(仮)”日医認定制度についての質問に,飯沼雅朗常任理事が回答した.
 同常任理事は,「本制度の創設の目的は,国民の目から見える形での医療の質の担保である.そのためにも,学術専門団体としての日医が,認定制度を実施することが求められている」との考えを示した.また,国に先駆けて認定制度を主導的に創設することこそが,「フリーアクセスの制限,人頭割り,定額払い,総枠規制」に結び付かない唯一の方策であると述べた.
 さらに,認定制度の創設については,現在,鋭意検討中であるが,日医の方針を示したうえで,都道府県医師会に対し,再度アンケート調査を実施することも検討していると説明した.
 (十三)緊急医師確保対策について鹿児島県医師会から質問があった.
 これに対して,内田常任理事は,鹿児島県医師会の積極的な対策を高く評価したうえで,本会でも,医師確保対策のため,女性医師バンクの運営,臨床研修制度の見直し提言,総合医・総合診療医(仮称)の検討,死因究明制度や無過失補償制度の創設への積極的な関与,診療報酬改定,国庫補助要望活動,そして,医師偏在・不足の根本要因である国の医療費抑制政策の撤回のため,積極的な活動を展開していることなどを説明した.
 また,今年度中に,医師の偏在や不足の現状,および必要医師数,地域での取り組みなどについてのアンケート調査を検討していることにも触れ,実施の際の理解と協力を求めた.
 (十四)集団的個別指導に関して,厚労省の「指導大綱」の見直しを求める北海道医師会からの要望には,藤原常任理事が回答した.
 同常任理事は,指導大綱が,本来,保険診療の質的向上および適正化を図ることを目的としたものでありながら,“高点数=悪”という形で指導本来の目的から逸脱してしまったため,平成十年の医療課長通知により,都道府県個別指導が集団的個別指導に優先して実施されるようになった一連の経過を説明.
 このため,集団的個別指導は都道府県での運用に委ねられ,現在,取り扱いは地域ごとに差異があるが,今年十月の社会保険庁解体によるブロック単位の地方厚生(支)局への業務移行に伴い,「厚労省に対して,平成十年の課長通知を改めて確認し,指導のあり方について従来どおりであることを強く念押ししている」と強調.
 そのうえで,指導大綱見直しについて一定の理解を示しつつも,「極めて危険な要素を含んでいる.今回の移管では,厚労省は社会保険庁解体を講じずに指導監査体制の強化を図りたいと思っていることが明白で,現在より厳しい内容の見直しになってしまうのではないか」と回答した.
 (十五)五分間ルールの廃止について,長崎県医師会からの要望には,藤原常任理事が回答.
 同常任理事は,同ルールについては,会員からの声を踏まえ,検証以前の問題と認識し,中医協で見直しを要望していることを説明.また,時間要件の根拠として厚労省が実施した別の調査結果が流用されたとの指摘があり,これについても中医協で主張した.さらに,「中医協では,早期見直しというところまで議論が進んでいないが,日医として引き続き,五分要件の早期撤廃を求めていく」と述べた.
 (十六)地方厚生(支)局に設置する地方社会保険医療協議会(地医協)に関する千葉県医師会からの質問には,藤原常任理事が回答.
 同常任理事は,厚労省が六月二十日に説明に来て,七月上旬までに委員を選出というスケジュールは承諾出来るものではなく,強く抗議したことを強調するとともに,厚労省から説明させる機会を設けるべく,急きょ,都道府県社会保険担当理事連絡協議会を開催したことを説明した.
 しかし,地医協が平成二十年十月から厚生局単位に設置されることは,平成十九年七月に成立した日本年金機構法の附則に厚生労働省設置法等の改正が盛り込まれたことから,直ちに変更出来るものではないとして,委員の選出について,出来るだけ早急に対応するよう理解を求め,各ブロックで窓口となる医師会を七月二十日までに日医に連絡することを要請した.
 (十七)「地域医療崩壊阻止のための国民運動」に関して,羽生田常任理事が,七月二十四日に笹川記念会館国際ホールで開催する「地域医療崩壊阻止のための総決起大会」への参加協力を要請した.
 (十八)公益法人制度改革について,羽生田常任理事が説明.
 日医の対応としては,平成十九年五月十五日の第二回理事会で,「公益社団法人を目指す」との方針を決定.「しかし,その後に内閣府公益認定等委員会から公表された,公益認定等ガイドラインなどの新たな資料を見ると,公益認定を受けるハードルは高い」と述べた.
 そのうえで,平成二十年十二月一日から五年間の移行期間中に一般社団法人に移行すれば,その後公益社団法人に移行するための年限の制約がなくなること,公益社団法人に移行した後に,一般社団法人に移行する場合,公益目的事業財産残額を国等に贈与しなければならないことなどを示した.
平成20年度第1回都道府県医師会長協議会/医療費抑制政策の方向転換への対応など喫緊の問題を協議(写真) そして,一旦,一般社団法人に移行し,事業内容等について十分に検討後,必要があれば公益社団法人に移行するという二段階の方法もあり得るのではないかとの考えを示し,「現段階では,日医が公益社団法人を目指す方針に変更はないが,まず一般社団法人に移行することも視野に入れ,慎重に検討したい.さらに,会内の“定款・諸規程改定検討委員会”での検討結果を踏まえ,執行部で十分に検討し,今後の方針や定款変更案等を出来るだけ早く示したい」との考えを示し,第一回都道府県医師会長協議会は終了した.

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