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第1128号(平成20年9月5日) |
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お産の同意書
板野 聡(三重県・名賀医師会)
『日医ニュース』平成十九年十一月二十日号(第一一〇九号)の「勤務医のページ」に,「『お産の同意書』も要るのではないか」との記述があったが,お産でのトラブルが原因で訴訟問題が多発し,ひいては産科医が激減していると言われて久しいのにと,外科医の私としては驚かされることになった.
それでも,その施設だけのことかも知れないと,親しい産婦人科医に聞いてみたところ,「そんなことは,言われて初めて考えた」との答えであり,「先達からの教育のためか,そういう発想や考えそのものがなかった」「妊娠・分娩は生理現象で,病気ではないということで,『同意書』の必要性を感じていなかった」との返事だった.経過のなかで「異常」が起こってくると,初めて「病気」と判断し,手術となれば,そこで同意書を取っている.事後承諾となることも多く,トラブルになる素地があるとのことであった.
そのうえで,同意書の「あり方」の議論もありはするものの,わがまま放題の患者や家族,マスコミの無責任な一方的報道,司法や行政の無策などから,結局「お産の同意書」も必要になるとの結論をみた.
診療科が違えば,歴史や文化が違い,ひいては考え方も違うということだが,案外,こうした診療科ごとの考え方の違いを認識し,その垣根を取り払うことが,現在,直面している医療崩壊を阻止する一助になるのではないだろうか.
変転する時代背景を点描し 今,日医年金を思う─若い世代の医師へのメッセージ─
北嶋俊之(東京都・北区医師会)
日本人は働き過ぎなどとよく言われる.私ども高齢の医師は,敗戦後の貧しい時代を知っているから,働き蜂のようによく働いた.やがて年老いることなど考えもせずに.
「日本医師会年金制度」の発足は昭和四十三年とある.中国文化大革命,フランス五月革命,ベトナム反戦運動.日本では全共闘の高揚期である.また,一億総中流意識,『ジャパン・アズ・ナンバーワン』等を経て,今経済格差の時代を迎えている.移ろいゆく世の変転を,この眼で見てきた.
昭和三十六年来,国民のセーフティーネットである皆保険制度の現場で献身してきた医師群に,国家的最低老後保障は皆無であるのに,今気付く.いつしか星霜を重ね,体力が衰え,心の萎えを感じてから気付いたのでは遅い.頭では分かっていても,その自然の摂理を肌で実感出来ない.
臨床の第一線を退きつつある現在,何となく加入していた日医年金が,生活の大きな資となっている.開業医は,いつまでも心身充実して働けるものではなく,勤務医は過重劣悪な労働環境が指摘されてきたが,果たして現状の公的年金のみに依存して,すべての医師が最低生活保障の老後を迎えることが出来るのであろうか.
自分が若いと思っているうちにこそ,自己責任として将来の生活設計を描き,日医年金に加入することを勧める.
同年輩の友人が,「はっと気付いたら,六十五歳を超えていた」と言っていた.
「青壮の時 何ぞ速く過ぎ行くことか,老化の齢 何ぞ早く訪れることか」
平凡な市井の年配医師の一人として,老後の自助・生活防衛の一方法として,若い世代の人々へメッセージを送る次第.
実は過日,私にも「後期高齢者医療被保険者証」が送られてきたことを,最後に記しておく.
過疎地の医療をどう守るか
小渕欽哉(三重県・久居一志地区医師会)
日本は,国土の三分の二を緑で覆われた美しい国である.山林には水を蓄え浄化するという働きがあり,この働きによっておいしい水道水の恩恵が得られる.
もう一つの働きは光合成.木々は大気中の二酸化炭素を吸収して酸素を放出し,そのお陰で私たちは新鮮な空気を吸うことが出来る.
このように,人間にとって大切な水と空気を提供してくれているのは,山の木々である.そして,山を荒れさせないためには,人々が愛情を持って木々を管理し,山で生活することが必要である.
しかし今,山間部の各地で,過疎化や超高齢化のために林業に従事する人が減ってきている.山の管理が出来なくなると,山林の勢いが弱まって水源が荒れ,山崩れや土石流が起こり,下流では水害の被害が拡がる.また,二酸化炭素の増加により,地球の温暖化も加速する.
人々が山から離れていく理由はさまざまだろうが,なかでも大きな問題は,「医療に対する不安」であると考えられる.医師不足による医師の集約化や県立病院の統廃合等は,経済的な理由のみで判断すべきではない.いかなることがあっても,「山を守る人たち」を見捨て,生命にかかわる『医療』を取り上げてはならない.
このように,医師会でも,自然環境を守るという視野も持ち,広く国民に理解と支援を求めて医師不足問題に取り組んでいくことが重要であると考える.
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