日医ニュース
日医ニュース目次 第1130号(平成20年10月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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心臓移植の代替治療としての次世代型補助人工心臓
〈日本人工臓器学会〉


従来型補助人工心臓,心臓移植との生存率の比較

 内科的治療に抵抗性の末期重症心不全症は心臓移植の適応となるが,世界的にもドナー不足は深刻であり,わが国では年間十例以下と極端に少ない.そこで,心臓移植の代替治療として次世代型補助人工心臓が注目されている.心臓移植までのブリッジ治療において,補助期間は欧米では平均四〜六カ月であるが,わが国では二年を優に超えており,実質的な心臓移植の代替治療となっているのが現状である.
 わが国初の植込み型補助人工心臓EVAHEARTは小型の遠心ポンプで,二〇〇五年五月にわが国での臨床治験を開始,現在(二〇〇八年七月)までに全十八症例の植込みを完了した.適応は,年齢十八〜六十五歳,強心剤依存のNYHA(ニューヨーク心臓協会による心機能分類)IV度の移植適応のある末期重症心不全症である.拡張型心筋症十三名,虚血性心筋症四名,心サルコイドーシス一名に植込まれた.全例において拍動流補助による心係数の著明な改善を得た.心臓移植はまだなく,生存症例は全例補助継続中で,平均補助期間四百八十五日(六十一〜千百六十四日),累積補助日数は八千七百三十四日(二十三・九年)に達している.十四名(七八%)がNYHAI度に改善した.Kaplan-Meier生存率は,一年:八一%,二年:七二%,三年:七二%と良好で,従来型の一年生存率五〇%と比較し,生命予後を大幅に改善した(図).十三名は退院・自宅療養へ移行,二名は装置装着状態で一般企業に就労復帰を果たし,結婚した方もあり,高いQOLも実現されている.また,重大な装置故障はゼロで,優れた長期信頼性も実証した.現在,製造承認申請と米国での治験申請の準備中である.
 一方,世界初の磁気浮上型遠心ポンプDuraHeartは,二〇〇四年一月欧州で治験を開始,三十三症例に使用し三カ月の生存率七九%の成績を得,CE mark を取得し欧州での販売を開始した.間もなく,わが国での治験も開始される予定である.
 近い将来,わが国の高度産業技術を応用した次世代型補助人工心臓が,末期重症心不全治療の新たな治療手段として確立されるものと期待される.

【参考文献】
一,Deng MC, Edwards LB, Hertz MI, et.al. Mechanical circulatory support device database of the International Society for Heart and Lung Transplantation: third annual report-2005. J heart Lung Transplant 24: 1182-1187, 2005.
二,Yamazaki K, Saito S, Kihara S, Tagusari O, Kurosawa H. Completely pulsatile high flow circulatory support with a constant speed centrifugal blood pump: mechanisms and early clinical observation. Gen Thorac Cardiovasc Surg 55: 158-162, 2007.
三,山嵜健二,本邦発の次世代型補助人工心臓EVAHEART,循環制御 29: 50-55, 2008.

(東京女子医科大学大学院心臓血管外科循環制御学教授 山嵜健二)

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