|
第1134号(平成20年12月5日) |
座り心地
お母さんに抱かれ,気持ちよく寝ている赤ちゃんは,周囲の人を心地よくさせる.何とも言えぬ気持ちよさを与えてくれるのである.ところが,お母さんから逃れようと,あがいている赤ちゃんを見ると,落ち着かないものである.気持ちよさは,安心感とか座りのよさから来るのであって,そこには信頼が基本にある.
日本人の好きな「水戸黄門」「遠山の金さん」「暴れん坊将軍」などの時代劇は,見る者を安心させる要素が共通にある.絶対に「悪い者は成敗される」という勧善懲悪の世界だからである.結果が初めから分かっているのに,ついつい終わりまで見てしまう.終わった後の心地よさを求めているのであろう.
力道山のプロレスも同じであった.外国人レスラーに痛めつけられ,はらはらするが,最後は勝つ.多くの日本人は,ストレスのはけ口を力道山のプロレスに求め,安心感を得ていたのではないか.
力道山亡き後は,「巨人,大鵬,卵焼き」である.子どもたちの好きなものとして,一九六〇年代にはやった言葉である.子どもたちだけでなく,時代を作った言葉でもある.大人たちも,この言葉を聞いてうなずき,心が落ち着いた.
世の中は,心地よさと居心地の悪いこととが入り交じっている.居心地の悪いことがあっても,居心地のよさを感じることでバランスを取り,自分を見失わないでいる.
最近は,あまりにも座り心地がよくないことが多すぎる.巨人ではなく,ジャイアンツが優勝しても落ち着かない.浅田真央ちゃん,石川遼君に期待するしかないのか,この国は.
(象) |