日医ニュース
日医ニュース目次 第1134号(平成20年12月5日)

裁判員制度の実施について─医師・医療従事者のためのQ&A─
法務省刑事局総務課 裁判員制度啓発推進室 室長 川原 隆司

1 はじめに

 裁判員制度が平成21年5月21日に始まります.
 この11月末には,来年の裁判員になる可能性のある約30万人の方に通知が発送されるなど,制度が現実に動き始めました.「日医ニュース」を御覧の方の中にも,ご自身や周囲の方に通知が届いた方もいらっしゃるかもしれません.

2 裁判員制度とは

 裁判員制度とは,国民の中から選ばれた裁判員が刑事裁判に参加する制度です.6人の裁判員と3人の裁判官が,一緒に刑事裁判に立ち会い,被告人が有罪か無罪か,有罪の場合はどのような刑にするかを話し合って決めます.
 裁判員裁判が行われるのは,地方裁判所で行われる刑事裁判のうち,殺人や危険運転致死等の一定の重大な犯罪です.

3 裁判員制度の意義

 国民の皆さんの視点,感覚が,裁判の内容に反映されることにより,裁判が身近で,分かりやすく,迅速になることが期待されています.
 法律の専門家である裁判官と,さまざまな経験や知識をお持ちの裁判員が協働することで,裁判がより多角的で深みのあるものになると期待されています.

4 裁判員が選ばれるまでの手続

 図1を参照下さい.
 なお,交通費のほか,裁判員候補者は1日8000円以内,裁判員は1日1万円以内の日当が支払われます.

図1

5 辞退について

 広く皆さんに参加いただく制度ですので,原則として辞退できないことになっています.しかし,その負担が重過ぎることのないよう,一定の場合には辞退ができます.例えば,70歳以上の方や学生等のほか,「やむを得ない理由」があって,裁判員の職務を行うことなどが困難な方です.「やむを得ない理由」とは,例えば(1)重い病気やけが(2)育児・介護(3)仕事に重大な支障が生じる場合(4)他の日に行えないとても重要な用事がある場合(5)妊娠中や出産直後(6)入通院等の付き添い(7)出産の立会い(8)引越し等により裁判所の管轄区域外の遠隔地に居住(9)身体上,精神上又は経済上の重大な不利益が生じる場合です.

6 裁判員の仕事

図2

 裁判員は,裁判官と裁判に出席し,証拠を見たり,証人や被告人の話を聞いたりします.そして,裁判官と一緒に有罪・無罪や刑の内容を話し合って決めます.裁判長が行う判決宣告に立会い,裁判員の仕事が終了します.
 約7割の事件が3日以内に終わる見込みです(図2参照)
 なお,裁判員が参加するのは,ある事実があったかなかったか,どのような刑にするかという判断ですが,こうした判断に法律知識は必要ありませんし,判断の前提として法律知識が必要な場合は,裁判官が分かりやすく説明します.
 また,裁判員が一人で結論を出すのではなく,裁判官や他の裁判員とじっくりと話し合って結論を導き出していくので,それほど負担に感じられることはないと思います.

7 裁判員の保護

 裁判員の名前等は公表されませんし,裁判員やその親族に危害が加えられるおそれがあるような例外的な事件は,これまで通り裁判官だけで行います.

8 医師・医療従事者の方々のためのQ&A

Q1 患者さんの診療や地域医療を担う医師,医療従事者にとっては,裁判員として参加したくても実際には難しいケースが想定され,その際に辞退が認められるか不安です.医師,医療従事者はどのような場合に辞退できますか.
A1 その方がいらっしゃらないと,重大な支障が生じるおそれがある場合には,辞退できます.辞退が認められるかどうかは,(1)裁判員の職務に従事する期間(2)医療施設等の規模(3)他の医師等に仕事を代わってもらえる可能性(4)仕事の予定を変更できる可能性などから総合的に判断されます.
 具体的にどのような場合に辞退が認められるかについては,個々のご事情により異なるので一概には言えませんが,例えば,大学病院等で他にも医師や看護師等がいる場合であっても,勤務態勢や患者さんとの関係等,具体的な事情の下で,他の方に代わってもらうことや予定の変更が困難と言える場合等は,辞退できます.
 また,診察や手術に限らず,学会や講習会等と重なった場合などにも,具体的な事情の下で,その学会等が重要で出席する必要性が高い場合等は,辞退できます.
 いずれにしても,裁判員制度は無理をお願いする制度ではありませんので,辞退を希望される場合には,率直に裁判所に事情をお伝え下さい.
Q2 どのような時期に辞退の申し出ができますか.
A2 まず,毎年12月ころに送られてくる候補者名簿記載通知に同封の調査票に,2カ月を上限として,参加が特に難しい時期があれば,その理由を記載して返送して下さい.その理由が認められれば,その時期に裁判所においでいただくことはありません.
 また,裁判所に来ていただく日の6週間前までに送られてくる「選任手続期日のお知らせ」に同封の質問票に,辞退を希望する理由を記載して返送して下さい.辞退が認められた場合には,呼出しが取り消され,裁判所においでいただくことはありません.
 選任手続期日当日に,辞退を申し出ることも可能です.
Q3 辞退を申し出る際,提出資料は必要ですか.
A3 必ずしも必要ありませんが,既にお手元にあるなど,提出にさほど負担のない範囲のものがあれば,提出していただくと,より的確に判断できます.
Q4 裁判員として参加している途中で患者の急変等があった場合,患者のもとに急行することなどは可能ですか.
A4 他の医師での対応が困難など,ご本人が対応せざるを得ないような場合であれば可能です.その場合,ご本人は裁判員の任を解かれ,補充裁判員が代わりに務めます.
Q5 院長,あるいは診療科の長といった立場では,裁判員制度の実施に向けてどのような点に気をつける必要がありますか. 
A5 制度の意義をご理解いただき,医師や職員の方が安心して裁判員を務められるような環境作りをお願いします.辞退の判断については,患者さんや地域医療を担われている医師や医療従事者の方々の事情に十分配慮して行われますが,もし,医師や職員の方が辞退なさられずに裁判員となった場合には,裁判員の仕事に必要な休みをとることは法律で認められ,裁判員として仕事を休んだことを理由に解雇などの不利益な取り扱いをすることは法律で禁じられていますので,ご留意下さい.

 詳細は,法務省の裁判員制度に関するWEBサイト(http://www.moj.go.jp/SAIBANIN/index.html)をご覧下さい.

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