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第1140号(平成21年3月5日) |
21年度介護報酬改定について
平成二十年十二月二十六日に開催された第六十三回社会保障審議会介護給付費分科会において,次期介護報酬改定についての諮問答申が行われ,改定率三%の引き上げが正式に決定した.
この三%の引き上げについては,介護従事者の処遇問題と人材確保難が社会問題化していることを背景として,同年五月に,「介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律」が議員立法で成立したことを受け,十月三十日には政府与党が緊急経済対策として打ち出していたものである.改定率の上げ幅が不十分なだけでなく,決定過程も不透明で不満が残るが,プラス改定であったことは,その後の経済状況から見ると,一定の評価は出来る.
しかし,このプラス三%分(二千三百億円)で,介護職員の給与が月額二万円程度上がるという政治家の発言がメディアに流れ,介護従事者に誤った期待を与え,現場に混乱を招いたことは極めて遺憾であった.
事業所運営における人件費以外の経費や,過去二回のマイナス改定時の処遇状況などを考慮すれば,プラス改定分のすべてが給与に反映するはずなどないことは明らかであり,このような軽率な発言は慎むべきであろう.
サービスごとの報酬の見直しについては,平成二十年に実施された介護事業経営実態調査を根拠に行われたが,定点調査ではなく,精度も疑問視されることから,調査方法の見直しが求められる.
地域区分の報酬単価の上乗せ率も,人件費調査の結果から一部の地域は大きく引き上げられたが,事業所の六割以上が存在するその他地域では見直しがなく,格差が広がった感もある.
また,夜間勤務や人員の加配,介護福祉士等専門職種の配置や勤続年数などが加算という形で評価され,基本サービス費は一部を除いてほとんど引き上げられなかった.
基本サービス費とは,本来,施設基準として義務付けられた配置人員の人件費を担保すべきものである.しかし,介護福祉士を始めとする介護職員の給与の目安は示されていないことから,どの程度まで処遇改善に反映されるか分かりにくい.分科会の下部組織として,「調査実施委員会(仮称)」が設置されることになり,処遇状況も含めた経営実態調査を行うことになっていることから,介護事業所経営の現場の実態をより正確に反映した調査が行われることを期待したい.
一方,報酬改定と同時に行われた要介護認定の一次判定は,ロジックの変更が十分な検討なしに強引に行われていることは大きな問題であり,早期の検証が必要である.
これ以外にも,決定過程に手続き上の瑕疵(かし)があると思われる介護サービス情報の公表制度や補足給付の問題もあり,解決すべき課題は多い.
(常任理事・三上裕司)
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