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第1143号(平成21年4月20日) |
第120回日本医師会定例代議員会
すべての国民に受け入れられる真の福祉国家の実現を
第百二十回日本医師会定例代議員会が,三月二十九日に日医会館大講堂で開催された.全国から三百五十三名(定数三百五十四名)の代議員が出席し,平成二十一年度事業計画,一般会計予算などが審議され,可決成立した.
午前九時三十分,石川育成代議員会議長の開会宣言・あいさつの後,定足数の確認,議事録署名人の指名など,所定の手続きが行われ,唐澤人会長が所信を表明した(別記事参照).つづいて,過去一年間に物故された会員千四百五十七名(二月末日現在)の霊に対し,全員起立して黙祷を捧げた後に,竹嶋康弘副会長が,平成二十年度の会務概要を報告.その後,議事に入った.
初めに,第一号議案「平成二十年度日本医師会会費減免申請の件」が上程され,宝住与一副会長の説明の後,賛成多数で可決.次に,第二号議案「平成二十一年度日本医師会事業計画の件」,第三号議案「平成二十一年度日本医師会一般会計予算の件」,第四号議案「平成二十一年度医賠責特約保険事業特別会計予算の件」,第五号議案「平成二十一年度治験促進センター事業特別会計予算の件」,第六号議案「平成二十一年度女性医師支援センター事業特別会計予算の件」,第七号議案「日本医師会会費賦課徴収の件」を一括上程.竹嶋・宝住両副会長からの提案理由説明の後,詳細な審議を行うため,六議案は予算委員会(二十五名で構成)に付託された.さらに,第八号議案「核兵器廃絶に関する決議の件」が上程され,羽生田俊常任理事・碓井静照理事の説明の後,全会一致で可決.その後,代表質問と個人質問に移った.
代表質問
(一)中嶋代議員(中部ブロック)のレセプトオンライン請求に関しての質問には,岩砂和雄副会長がこれまでの経緯を報告.完全義務化の緩和が確実となるよう,さらに全力で取り組んでいきたいとの意向を示した.
中川俊男常任理事は,適応外使用の事例や検討が進んでいること,ORCAプロジェクトによる『傷病名ガイドブック』の発行,レセプトの点検リストの作成など,医師の裁量権の確保に努めていることを説明.さらに,医療のIT化は最善の医療を提供するためのものであり,IT産業や医療の市場化,医療費を抑制するためのIT化にしてはいけないと改めて主張し,その理念の下でこれまで以上にIT化の主導権を取っていきたいと強調した.
(二)森藤忠夫代議員(中国四国ブロック)からの保険医療機関指導の質問には,宝住副会長が,指導や監査の権限が地方厚生局に移管されたことに伴う苦情や全国的に統一するとの情報について,厚生労働省保険局医療課から地方厚生局宛本年一月三十日付文書に,「地元医師会との調整に当たっては,これまでの経緯にも十分留意しつつ,懇切丁寧な説明と柔軟な対応を要請」と明示されていること,さらに,移管の際には保険局医療課長に,「厚生局に移管されたとしても,従来の運用は今後も尊重される」ことを確認したとし,理解と協力を求めた.また,指導・監査の均質性,平等性,選考基準の透明性の確保については,あくまでも『指導大綱』が基本であるが,ブロックにおいて医師会と厚生局が相談のうえ,柔軟に運用していくことがよいとの考えを示した.
(三)大澤英一代議員(近畿ブロック)は,日医の政策提言のあり方について質問した.竹嶋副会長は,医療はすべての国民の生命と健康を守るための普遍的社会共通資本であり,その意味でも医療政策は政権与党に限らず,野党を含めて共通の認識に立つべきだとし,『グランドデザイン二〇〇九』を,衆参すべての与野党の国会議員に配布し,日医の医療政策への理解を求めているとした.
また,政策実現のために,会員一人ひとりが「医政」に対して自覚を持つべきとの指摘には,「地域医療が崩壊の危機にある状況だからこそ,多くの会員に積極的な姿勢を示していただき,国民のための医療政策の実現に向け,団結していくことが必要」とし,「医師の団結を目指す委員会」の答申「医師の団結に向けた具体的方策」の提案を早急に検討し,具体的に行動していきたいと述べた.
(四)玉城信光代議員(九州ブロック)の,(1)社会保障財源としての消費税(2)消費税が引き上げられた際の医療機関における控除対象外消費税の解消問題─については,(1)では宝住副会長が,「消費税」は予算総則で使途が規定されており,これを「目的税」にすると社会保障費の国庫負担分を消費税のみで賄わなければならず,他の財源によるスキマの手当てが困難になる危険性があり,社会保障費の抑制につながりかねないとし,当面は現行の「社会保障目的化」を維持し,負担と給付について国民の理解を得,検討すべきと考えているとした.
(2)では今村聡常任理事が,非課税を要望した経緯を改めて説明したうえで,診療報酬への消費税分の上乗せが不十分であることが問題であると述べ,医療機関が消費税の最終消費者にならないために,税制改正においては,「ゼロ税率ないし軽減税率による課税制度に改めること」を第一に要望し,平成二十一年度の税制改正で検討課題にのぼるなど,一歩の前進を見たと考えていると述べた.今後も働きかけを行っていくとし,理解と協力を求めた.
(五)「医療崩壊の今こそ,医師会が医療の対価を決めるべきである」という吉原忠男代議員(関東甲信越ブロック)の質問について,竹嶋副会長が回答した.
現行点数の不合理項目の是正については,厚労省に強く是正措置を働きかけており,今後も行っていくとした.また,診療報酬は,長年にわたる医療費抑制政策により,「はじめに総枠ありき」という逆転した流れができてしまったとし,現状を打破するため,『グランドデザイン二〇〇九』で示すように,公的医療保険を支える安定的な財源の確保を図ることに専心していきたいとした.
そのうえで,医療提供コストを反映した説明可能な診療報酬体系を講じる必要性を述べ,あるべき診療報酬の基本体系を検討したいとの考えを示した.そして,,実現化には政治の舞台での理解や,社会保障審議会医療部会,医療保険部会のあり方を見直し,そのなかでの議論を活性化させながら対応していきたいとし,協力を求めた.
(六)三宅直樹代議員(北海道ブロック)の次期診療報酬改定についての質問には,竹嶋副会長が回答した.
平成二十年度診療報酬改定では,八年ぶりに診療報酬本体が〇・三八%引き上げになったものの,勤務医対策を始めとする大病院対策が中心であったため,次回改定では,地域医療を支えている中小医療機関への財源確保に努めることを明言.そのためには,社会保障費の伸びを毎年二千二百億円抑制する政府方針の撤回が必要であることを強調した.
さらに,「社会保険診療報酬検討委員会」がまとめた「平成二十年度診療報酬改定の評価」に関する答申および「次回改定の要望書」を十分に活用し,国民に良質で安全な医療を提供するためのあるべき医療費財源の確保に向け,精力的に活動していくとの決意を示した.
個人質問
(一)杉本壽代議員(大阪府)の,日医の活動に勤務医会員の声を反映させる方策についての質問に対し,羽生田常任理事は,日医代議員に占める勤務医の割合は,平成十九年度五・七%,平成二十年度九・六%と上昇しているが,十分ではないとし,各地域の医師会において勤務医が医師会活動に参画しやすい環境作りの整備が不可欠と考えているとした.
また,「日医代議員数を,開業医,勤務医の会員数によって決定する」という提案に対し,開業医・勤務医別のほか,会員種別,性別,年齢階級別,診療科別等,多様な提案があり議論してきたが,意見の一致にまで至っていないと説明.勤務医には,医師会・医師会活動を知っていただくことが重要であり,併せて情報提供をお願いしたい.また,日医としても,勤務医の意見を取り入れる努力をしていくとした.
(二)江畑浩之代議員(鹿児島県)の「医師会共同利用施設の行方」についての質問に対して,今村(聡)常任理事は,共同利用施設の役割は変わらないものだと思うが,医師会本体の運営に影響を及ぼす場合は,苦渋の選択として事業中止という判断もあり得るとした.債務保証問題については,医師会共同利用施設検討委員会により,各地域の実情調査を実施し,その結果を見て対応を検討したいと述べた.また,新たな公益社団に移行した場合は従来通り非課税,非営利型一般社団に移行した場合は,事業内容と収入割合の一定の要件を満たせば非課税であるが,現在法人税非課税になっている共同利用施設を有する医師会では,クリアーする要件であると解説した.さらに,共同利用施設を有する医師会が,公益,一般どちらの法人形態をとっても,従来の法人税制と変化がないとの考えを示した.
(三)宮良春代議員(福岡県)の,新型インフルエンザに対する医療体制についての質問に対して,飯沼雅朗常任理事は,まず,国の「行動計画」や「ガイドライン」に,パンデミックが「自然災害」とした記述はないこと,生命保険は,現時点で保険金が支払われないことはまずないが,各生命保険会社や契約内容によって異なることを説明した.二次感染への補償と損失補填については,厚労省は,「国として制度化は困難」としているが,引き続き強力に要望していくとした.まん延期の医療従事者の感染対策については,厚労省は研修会等を通じて知識の普及を進めていきたいとしている.ワクチンの先行接種の対象者における「感染症指定病院以外の医療従事者」とは,「医療機関の機能に必要な全ての者を想定」とされていると説明した.また,プレパンデミックワクチンの安全性と有効性については,四月上旬に研究班の報告書が公表される予定であるとした.
(四)大和田恒夫代議員(栃木県)の「診療関連死の死因究明制度第三次試案」についての質問には,木下勝之常任理事が,医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案は,刑事司法に代わり,医療界が自ら死因究明を行う仕組みとして国が認めた現実的に考えられる絶妙な仕組みであり,「故意の殺人の犯罪捜査」と「善意の医療行為の結果である死亡の調査を同格に扱う」方向性は,今回の制度設計には全く含まれていないとし,『日医ニュース』三月二十日号別刷り「刑事訴追からの不安を取り除くための取り組み─まとめ─」を再度確認して欲しいと述べた.
今後は,法制化のタイミングを慎重に計らねばならないとして,一月に立ち上げた「医療事故における責任問題検討委員会」で,調査委員会から捜査機関への具体的な通知事例に関して,過去の起訴事例を調査,検討中とし,今後,刑事罰に代わる行政処分や医療ADRのあり方について議論する予定であるとした.また,本件に関するアンケート調査を都道府県医師会に対し,四月中に実施予定だとして協力を求めた.
(五)松村誠代議員(広島県)からの「日本医師会館を敷地内禁煙に!」という要望に対して,内田健夫常任理事は,まず,日医が実施した喫煙意識調査によれば,喫煙率は男性医師,女性医師ともに過去二回の調査と比べ減少していると説明.一方で,代議員や講習会等の参加者など来館者の中にも喫煙者がいるのも事実であるとし,敷地内禁煙の実施に当たっては,喫煙者が日医会館前の路上や隣接施設等で喫煙することも想定され,敷地内禁煙を実施するための環境整備について,検討する必要があるとの考えを示した.そのうえで,代議員会,公衆衛生委員会等での議論も踏まえながら,今後も引き続き禁煙推進活動に積極的に取り組んでいきたいと述べた.
(六)鈴木紀元代議員(兵庫県)からは,母体保護法指定医師の指定更新のための要件に関する質問が出された.
今村定臣常任理事は,指導者講習会について,母体保護法に限らず産婦人科医療が抱えている諸問題について幅広く取り上げた内容になっており,これまでどおり一年に一回ずつ開催していく考えを示した.また,伝達講習会への出席を指定更新の要件に含めることに関しては,各都道府県医師会の実情に応じた対応となっているが,要件でなくても,講習会にはぜひ参加して欲しいと述べた.そのほか,都道府県における母体保護法指定医師の指定更新のための要件などに関する調査については,「現時点では予定していないが,必要に応じて,会内の『母体保護法等に関する検討委員会』でも検討したい」と回答した.
(七)福田孜代議員(富山県)からの在宅医療推進に対する日医の考えを問う質問には,藤原淳常任理事が,在宅医療を推進する上でのキーワードは「二十四時間対応」「看取り」「緊急時の病床確保」であり,そのためには,地域での在宅診療や施設での医療・看取りなどを担当する連携の仕組みがシームレスに稼働することが必要とした.さらに,「在宅医療に必要な技術の習得」「医学教育の見直し」「医療情報センターの設置」「経済的動機付け」が欠かせないと指摘.日医でも関係機関に働きかけていくが,地域医師会でも一層の多職種間協働の在宅医療連携システムの構築に尽力して欲しいと呼びかけるとともに,その際に扇の要となるのは,医師であることを強調した.
(八)後期高齢者医療制度に関する畑俊一代議員(北海道)からの質問には,中川常任理事が,日医は高齢者を保障の理念の下,独立保険方式で運営することを当初から主張してきたとしたうえで,「保険料を極力小さくすることを提案しており,そういった意味では大胆な政策転換を求めている」と述べた.
また,医療に年齢による格差があってはならないことを前提に,制度として考えた場合,医療のリスク,健康不安が高まる年齢を客観的に分析し,七十五歳以上という結論に達したことを説明.財源については方針の変換はなく,消費税などの新たな財源の検討,特別会計などの支出の見直し,公的医療保険の保険料の見直しを同時進行で進めるべきとし,消費税については,医療,介護,年金を同じ土俵で議論すべきとしてきたと説明.
さらに,安心して医療を受けられるためには,日医の提案の実現が必要だとし,各都道府県医師会に対して,地元国会議員への働きかけなどの協力を求めた.
(九)大中正光代議員(福井県)からは,医療保険の動向についての質問があり,藤原常任理事は,日医がかねてから「負担の公平と給付の平等」の観点から,保険者の再編・統合を主張してきたと経緯を述べたうえで,近年の医療制度改革における協会けんぽ,健保組合,国保の動向を説明し,「国の医療保険一元化の真の狙いは,保険者を細分化して都道府県ごとに医療費を点検・削減することだ」と指摘.さらに,都道府県別の診療報酬が導入されると,同じ医療行為でも都道府県によって費用が異なるようになるため,地域医療に支障が起こるとの懸念を示した.そして,地域医療が崩壊するなかで,改革の凍結と公的医療費の増加が喫緊の課題だとした.
(十)橋本省代議員(宮城県)からは,日医の勤務医対策に関する方針について質問があり,三上裕司常任理事が回答.勤務医の多くが求めているのは,労働環境(過重労働)の改善,安心して診療に打ち込める環境の整備の二点にかなりの部分が集約出来ると認識しているとし,「勤務医の労働環境を改善するためには,医療費抑制政策から一刻も早く脱却し,勤務医を増加させるための施策やインセンティブが必要である」と強調.
政策的な予算のみならず,まず診療報酬で手当てされるべきであるとし,今まで勤務医への評価が十分なされてこなかったことが今日の問題をもたらしたとの認識を示した.また,入院医療のあり方については,主治医制が過重労働の大きな要因だとして,複数主治医による交代制勤務を普及させるべきだとし,実現のため何が必要であるか検討をしていくとした.そして,勤務医の意見を反映出来るよう,さらに努力していくとの姿勢を示した.
(十一)小松満代議員(茨城県)の,有床診療所入院基本料の引き上げに尽力して欲しいとの要望には,今村(定)常任理事が回答.
同常任理事は,有床診療所は,地域医療・介護の重要な担い手であるとの認識を強調するとともに,「その機能を維持,向上させるためには,病床の活用についての柔軟な施策と財源的手当てが必要である」と述べた.
そのうえで,この問題に対処するため,全国有床診療所連絡協議会との懇談や,厚労省担当部署・国会議員との折衝などを間断なく行っているとした.
また,行政などの関係者に理解を深めてもらうため,現地視察等を行う予定であるとし,「診療報酬上の評価を適正なものとするよう,引きつづき最大限の努力をしていく」と述べた.
(十二)宮川政久代議員(神奈川県)より,医師不足対策に関する質問に,内田常任理事が回答.同常任理事は,「勤務医の劣悪な労働環境を改善し,労働に見合う報酬,手当てを確保することは,退職の引き留め策にとって不可欠な条件であり,休日夜間も通常と同様に業務に従事している医師に対しても,手当の充実が必要である.さらに,日医が昨年十月に実施した,『医師確保のための実態調査』の結果を踏まえ,各地で行われている医師確保対策の充実を図るとともに,次期診療報酬の改定に向け,病院・診療所の医療全体の底上げに取り組んでいきたい.また,地域医療再生のため基金設置の動きがあるが,十分な財源の確保に向け,対応していく」と述べた.
(十三)江頭啓介代議員(福岡県)より,地域を支える中小病院支援に関する質問に,中川常任理事が回答.同常任理事は,「中小規模の病院を支援するための手段は,地域の病院機能と存在自体の重要性の評価,それに基づく診療報酬上の評価であるとし,地域医療を守るためには,医療費の底上げが必要とした.『四疾病五事業』の地域医療連携は,地域の実情にあった計画にすべきであり,各都道府県医師会は,医療連携体制構築に主導的な役割を果たして欲しい」と述べた.また,診療報酬上の評価については,社会保障費の自然増に対する年二千二百億円の機械的抑制の撤回を引き続き求め,全体の底上げを図るべきとした.さらに,三月二十一日に総理官邸で開催された「経済危機克服のための有識者会合」において,唐澤会長が「原材料価格高騰対応等緊急保証制度」の対象に医療機関を含めることを要望しており,現在交渉中であることを報告した.
(十四)濱本史明代議員(山口県)より,がん検診受診率低下に対する日医の今後の対応に関する質問に,内田常任理事が回答.同常任理事は,「日医では『がん対策推進委員会』を平成二十年度から常設とし,検討を行うとともに,郡市区医師会でのがん検診の受託に関する調査を検討している.がん検診については,平成二十年三月の公衆衛生委員会の答申で,保険制度の中で運用する疾病予防保険の創設に言及しており,特定健診と一体で実施するモデル事業を,実績のある都道府県で取り組むことで,厚労省と折衝中である.また,『がん登録法』の制定に関しては,がん登録の必要性,意義等を医療関係者や国民に理解してもらうこと,がん登録制度推進の十分な財源確保等が課題である」と述べた.
なお,予算委員会に付託された議案の審議結果については,予算委員長(蒔本恭代議員・長崎県)から報告があり,第二〜七号議案は賛成多数で可決された.
引きつづき,第六十七回日本医師会定例総会が開催され,(一)庶務及び会計の概況,(二)事業の概況,(三)代議員会において議決した主要な決議─に関する事項について,唐澤会長が報告を行い閉会した.
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