日医ニュース
日医ニュース目次 第1146号(平成21年6月5日)

中川常任理事/財政制度等審議会 財政制度分科会財政構造改革部会
「医療崩壊から脱出するための緊急提言」を説明

 財政制度等審議会財政制度分科会財政構造改革部会が,五月十八日,財務省で開催され,中川俊男常任理事が有識者からのヒアリングに日医として初めて招かれ,出席した.
 同常任理事は,冒頭,「日医は,身近な医療機関が健全に存続し,国民が経済的負担におびえることなく,いつでも医療機関にかかることが出来る社会を目指していく」と述べ,「医療崩壊から脱出するための緊急提言」と題する資料別記事参照をもとに,日医の見解を以下のように説明した.

行き過ぎた社会保障費削減政策の撤回を

 まず,社会保障費が毎年二千二百億円の削減(図1)を強いられていることにより,二〇〇二〜二〇〇六年度までの五年間に一・一兆円削減され,このうち医療分野では六千八百七億円(六五%分)が削減されたことになる.累計額で見ると,社会保障費全体でマイナス三・三兆円,そのうち医療分野はマイナス二・一兆円であり,医療費ベースでは約八兆円が失われたことになる.医療費抑制の結果として,(1)医師不足による外来の休止・病棟の閉鎖(2)救急医療における「受け入れ困難」(3)平均在院日数短縮化がもたらす無理な退院の増加等の負の側面(4)医療療養病床削減計画による医療難民,介護難民の不安─などが顕在化してきたと指摘.また,現在の経済状況下における雇用・生活環境の悪化による受診抑制も懸念されるとした(図2)
 次に,財務省が,診療科別医師数の増減を示し,偏在是正に規制的手法(四月二十一日財政審資料)を示唆していることに対しては,まずは医師不足の解消が最優先課題であり,同時に勤務医の負担軽減,地域の事情や社会的背景も考慮されなければならないとした.さらに,産婦人科・外科で訴訟リスクの高いことも偏在の一因と考えられるとして,医師が安心して働ける環境づくりも重要だとした(図3).医師数増加については,「財源の確保」「医学部教育から臨床研修制度までの一貫した教育制度の確立」「医師養成数の継続的な見直し」を前提条件として,中長期的には一・一倍〜一・二倍にすることが妥当であるとの考えを示した.同常任理事は,以上を論拠として,国民の健康と安心を取り戻すために,行き過ぎた社会保障費削減政策の撤回を強く求めた.
 次に,二〇〇八年度の診療報酬改定の検証として,(1)病院に手厚い財源配分が行われたものの,基本給が増えた医師は六・八%にとどまり,勤務状況が悪化したという医師が三割以上に上っている(2)診療所の損益分岐点比率は平均で九六・二%から九八・九%に悪化し,わずかな事業環境の変化にも耐えられなくなっている─ことを示した.
 また,医療機関経営の影響として未収金問題では,一病院当たり千六百二十万円(四病院団体協議会調べ)に上り,医療機関の大きな負担になっていることを指摘するとともに,未収の主な理由として,「生活に困っており支払い能力がない」が,「支払い意思がない」を大きく上回っている.また,国民の六割超が「窓口負担が高すぎる」と感じている─ことを示した.控除対象外消費税については,医療機関が社会保険診療のための医薬品などの仕入れにかかる消費税に関し多額の負担を強いられていることを指摘した.
 そして,同常任理事は,このような制度改正を含め,国民皆保険を守るための三本柱として,「消費税などの新たな財源の検討」「国の支出の見直しの継続」「公的医療保険料の見直し」の三つを同時並行で進め,財源を確保することを提案した.

国民皆保険を守るための 二つの緊急提言

 以上の見解を示したうえで,同常任理事は,国民皆保険を守るための緊急提言として,国民の経済的困窮から来る受診抑制,重症化の懸念に対しては,「提言一:外来における患者一部負担割合の引き下げ」,医療資源の大幅な不足・偏在による地域医療の崩壊に対しては,「提言二:診療報酬の大幅な引き上げ」─の二点を挙げた(図4)
 提言一では,二〇〇八年五月〜〇九年二月まで,家計消費支出全体の伸びもマイナスであるが,保健医療サービス支出の伸びはさらにマイナス(総務省「家計調査」調べ)(図5)であり,医療のための支出を削らざるを得ないほどの経済状況の悪化,その結果としての受診抑制,重症化についての懸念を指摘し,外来患者一部負担割合の引き下げを提案.給付費は保険料と公費から構成されるが,追加で必要になる給付費については,保険料を引き上げるのではなく,公費により支援されることを求めるとしている(図6)
 提言二では,地域医療再生のための財源が確保されたことは評価出来るが,現在すでに医療機能を強化出来ているところ,人材を確保出来ているところに資源が集中する可能性があるとして,今,望まれることは,地域の医療現場全体の底上げであり,大幅な診療報酬の引き上げを強く求めるとした(図7)
 さらに,医療,介護にそれぞれ税金(公費)一兆円を投入するとした場合,保険料・患者負担等を加え,医療では三・〇兆円,介護では二・三兆円の新規需要が創出され,百万人以上の雇用創出効果が期待出来る.また,税金を投入するだけで,保険料・患者負担を求めない場合(例えば補助金方式)でも五十万人近くの雇用が創出されるなど,医療・介護が経済成長をもたらすとしている.
 最後に同常任理事は,「医療からの日本再生」として一部負担割合の引き下げは,受診抑制の回避,早期発見,早期治療に通じ,国民の健康な就労につながる.また診療報酬の引き上げを始めとする医療への財源投入は,雇用を誘発する.これらの結果,経済成長・税収増がもたらされ,さらに医療への財源投入,国民・患者への還元が可能になるという好循環を創出することが期待されるとのビジョンを訴えた(図8)
 出席の委員からは,保険免責制,混合診療,レセプトオンライン請求義務化等についての意見が出されたが,同常任理事は,それぞれについて日医の考え方を強く主張し理解を求めた.

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