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第1147号(平成21年6月20日) |
社会保障の充実とそれを支える経済活性化を
<わが国の国民の貯蓄率が諸外国に比べて極端に高いことは周知の事実である.日銀の集計発表(二〇〇〇年)によると,一九九九年末の個人金融資産(現金・預金・株式への出資金・債券・年金等)の総額は千三百六十五兆円を超え,しかもその内訳で最も多いのが現金と預金で,七百五十一兆八千億円に上っている.
そのうえ,不況の真っただ中にあるにもかかわらず,一九九九年の一年間に,個人金融資産は,実に七十三兆円も増えている.貯金が好きだという国民性もあるのかも知れない.苦しい苦しいと言いながら,せっせと貯金を行っている背景には,これもよく指摘されていることだが,国民の将来に対する不安への自己防衛的本能がある.つまり,健康を損ない疾病に罹患する場合等に備えて,あるいは老後の生活不安や職を失った時の生活資金の貯えとして,さらには子どもの将来の教育費のためなど,わが国のあまりにも脆弱(ぜいじゃく)な社会保障基盤に対する国民の不安の表れと言えよう.
わが国の社会保障の将来について,国民の信頼に応え得る,どっしりとしたグランドデザインを国が描いていれば,為替や株の動きに一喜一憂し,経済至上主義を唱える政治家や経済学者,企業家等の専ら私利を肥やす言動に翻弄されないで,社会資本への投資を国民は必ず行っていくはずである>.
これは,十年前,ある地方医師会の会報に投稿した一文である.それから十年を経た今,この景気低迷のなかにあって,政府や財務省,一部の新自由主義経済学者が,「わが国の国債・地方債は,八百四十兆円,あるいは八百五十兆円を超えた」と悲痛な叫びをあげるなか,個人の金融資産は実に百三十兆円増し,ほぼ千五百兆円となっている.
そのようななか,特に,二十代の若者に貯蓄熱が高く,がっちり財布の紐を締めているのが気掛かりである.堅実なのはいいけれど,将来の生活不安に対して,びくびくとしているのであれば,それこそ,日本の将来も不安である.
アメリカのサブプライムローンの破綻に端を発した世界大不況の真っただ中,麻生総理大臣が,景気回復に全力を注いでいることは承知している.しかし,ここ十年来の小泉改革の謳(うた)い文句であった「構造改革で強い経済を取り戻そう.それまでは辛い思いも辛抱しよう」の結果,医療や教育環境をここまで崩壊させた現実を経験しているからこそ,今,「国民が真に望んでいるのは,景気よりも子育てや教育,医療や介護,そして環境の改善である」ということを喚起したい.
社会保障の充実による安心社会の構築と,それを支える経済活性化の視点を決して忘れてはならない.
(副会長・竹嶋康弘)
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