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第1151号(平成21年8月20日) |
第5回男女共同参画フォーラム
「今,医師の働き方を考える─ともに仕事を継続するために─」をテーマに
第5回男女共同参画フォーラム(日医主催,北海道医師会担当)が7月25日,全国から252名の参加者を集めて,札幌市内で開催された.日医からは,唐澤人会長,宝住与一副会長,羽生田俊・今村定臣両常任理事が出席した.
冒頭,唐澤人会長は,「本フォーラムも五回目を迎え,テーマも女性医師を対象としたものから,すべての医師の勤務環境の改善を考える内容へと変化している」として,五年間にわたるフォーラムの成果を述べたあと,「今回のテーマである『医師の働き方』について考え,議論を深化させていくことは,男女共同参画を推進していくうえでも非常に有意義である」とあいさつし,フォーラムへの期待を語った.
引き続き長瀬清北海道医師会長より歓迎のあいさつが行われた.
基調講演
野尻知里テルモ株式会社上席執行役員・テルモハート社取締役会長兼CMOが,「私の50+(プラス)年史:ある心臓外科医の生き方」と題する講演を行った.
講演では,人工心臓開発の背景や歴史等の紹介があったあと,同氏の結婚・妊娠・出産・子育て,人工心臓開発に係る苦労などの人生の軌跡や,モチベーションの維持,リーダーシップ,人生観・価値観などが語られ,最後に,「プロフェッションとは,まず,何にパッションを覚えるか探すことが大事であり,それを見つけたら,粘り強く,あきらめずにやり続けること.障害や挫折があったら,それをバネにすることだと思う」とし,「山は高いほど登りがいがある」と締めくくった.
報告
春木宥子男女共同参画委員会委員は,「日本医師会男女共同参画委員会─女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告─」として,女性医師の勤務実態や職場環境,さらには出産・育児中の働き方などについて,調査結果の概要を報告.(一)実働勤務時間,宿日直回数,休日日数などから,多くの女性医師が過酷な勤務環境にあること,(二)休職・離職理由は出産・育児が多く,身分保障等を含めた制度の充実が求められること,(三)女性医師の悩みとしては,家事と仕事との両立が最も多く,就業環境や規則などの勤務環境の改善,保育所などの施設の整備・柔軟なサービスをさらに充実させることが必要であること─などを指摘した.
保坂シゲリ日医女性医師支援センターマネジャーは,「日本医師会女性医師支援センター事業」について,厚生労働省の委託を受けて開始した医師再就業支援事業の事業名が本年四月より変更になったものであると説明.また,平成二十年度に医師再就業支援事業として実施された各講習会や,女性医師支援の広報活動などの概要や成果が紹介されたあと,平成二十一年度に女性医師支援センター事業で実施された「日本医師会女性医師支援センター・シンポジウム」や,同事業の中核となる女性医師バンクの運用状況などについて解説した.また,都道府県医師会(地域医師会)の開催する講習会等の託児サービスの併設に対する補助など,今後の取り組みも紹介された.
シンポジウム
「今,医師の働き方を考える─ともに仕事を継続するために─」をテーマに,四名の演者が講演を行った.
香月きょう子福岡県医師会男女共同参画部会委員会副委員長は,「医師の働き方を変える」をテーマに講演を行い,将来展望を持った取り組み推進の必要性を訴えた.
また,医師の働き方を変えるには,女性医師の働き方のみならず,男性医師の働き方も変えなければならないとして,(一)労働時間の大幅な短縮,(二)残業時間の削減,(三)有給休暇の取得促進,(四)フレックスタイム制の普及促進─を提案するとともに,長時間労働などを美徳とする労働観を変えるべきであると指摘.働き方の方向性は,ワーク・ライフ・バランスであるとした.
また,臨床医としての働き方の問題として,主治医制の問題等を挙げ,その対策として,複数主治医制や交代制勤務の導入等を示した.
正木智之札幌医科大学耳鼻咽喉科学講座院生は,「医師の働き方を考える─育児支援中の男性医師の視点を通して」をテーマに講演を行い,子育て中の家庭の状況や同大保育所の紹介につづいて,夫婦とも医師である男性勤務医に対するアンケート結果を紹介した.
調査結果によると,勤務先の保育園への要望としては,保育時間の延長と予期せぬ事態時の保育機関が求められ,また,勤務先の病院への希望を問う質問からは,子どもがいる医師の定時勤務と育児休暇の普及が求められていることが明らかとなった.また,「出産後の女性医師が働きやすくなるためには,育児休暇の取得や男性の意識改革等が必須であり,現場で実行可能なシステム構築が必要な時期に来ている」と述べた.
つづいて,社会に貢献する医療人育成が男女共同参画社会の礎になるという観点から,二つの大学の取り組みが報告された.
大澤真木子東京女子医科大学医学部長・小児科主任教授・男女共同参画推進局副局長は,「女性医師に対するキャリア教育」をテーマに講演を行った.
大澤教授は,女性医師は,医療や研究を通じた自己実現を求めて入学するものの,育児等を理由に医療の現場を離れることを余儀なくされることが多いと指摘.女性医師に就業継続してもらうためにも,院内保育所等の整備や多様な労働形態の提供等のほか,休職中の医師の再研修,再就職問題の改善が必要になるとした.
また,離職しない積極的自己実現のための教育が求められているとして,(一)出来るだけ努力をする,(二)強い意志を持つ,(三)心身の健康を鍛え,保つ,(四)あきらめずに相談する─といった姿勢を持つ医師を育てる教育を実践していることなど,同大の試みが語られた.
今井浩三札幌医科大学学長は,「地域医療連携の中での医師の働き方─地域医療と人間教育:医科大学の試み」をテーマに講演を行い,同大が取り組んでいる地域医療に対する教育等を紹介した.
そのなかでは,四学科合同(医学・看護学・理学療法学・作業療法学)による「地域密着型チーム医療実習」を実施することにより,パートナーシップ力と地域医療マインドを醸成し,確固とした地域医療に対する使命感を持った医師を養成していると説明.
また,地域医療への貢献を目指した異分野大学との連携教育を開始し,医療を含めた幅広い教育を受けた人材を輩出することにより,地域医療・先端研究の高度化,地域の活性化に教育を通じて貢献していきたいと述べた.
引き続き,フロアを交えた総合討論が行われたあと,清水美津子男女共同参画委員会委員から,「日本医師会第五回男女共同参画フォーラム宣言」(別掲)の提案があり,満場一致で採択された.
その後,次期担当医師会の米盛學鹿児島県医師会長のあいさつ,今村(定)常任理事の閉会のあいさつがあり,フォーラムは終了した.
なお,来年度のフォーラムは,平成二十二年七月二十四日(土)に鹿児島市内で開催される予定.
宣言
女性医師が勤務を継続するための環境の整備,制度の充実,施策の実践は重要である.女性医師,男性医師を問わず,安心して勤務できる環境があってこそ,初めて医師は自信と誇りを持ってその使命を果たすことができる.
すべての医師がその個性と能力を十分に発揮していくためには,社会全体の理解および医師,患者を含めたすべての人々の意識改革が求められる.
女性医師の働き方を変え,男性医師の働き方を変え,社会の意識を変えてこそ,医療崩壊から再生への道が開けるのであり,その実現のために真摯な努力を続けていくことを,このフォーラムに参集した皆の総意のもとに宣言する.
平成21年7月25日
日本医師会第5回男女共同参画フォーラム
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