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第1152号(平成21年9月5日) |
平成21年度都道府県医師会 有床診療所担当理事連絡協議会
入院基本料の引き上げと地域医療における位置付けの明確化を
平成21年度都道府県医師会有床診療所担当理事連絡協議会が8月19日,日医会館小講堂で開催された.
本協議会は,昨今の医療崩壊と言われる状況において,地域医療の再生に有床診療所という医療資源の活用が必要不可欠であるとの認識の下,実情の共有や意見交換をすることを目的として,初めて行われたものである.
協議会は,今村定臣常任理事の司会で開会.
冒頭,あいさつに立った唐澤人会長は,「休日・夜間に医師や看護職員がいる有床診療所が地域の救急医療を支えてきた.また,分娩の約半数も診療所が担っている.在宅医療においても,在宅での療養を支える一方,実際に在宅では看られない患者さんの入院をも引き受けている」と,有床診療所の意義を強調.
そのうえで,年々有床診療所の無床化が進んでいることに危機感を示し,「有床診療所が減少すれば,地域の医療提供体制がますます混乱することは明らかである.日医としては,有床診療所が適正な評価を受け,今後もその機能を継続して発揮できる体制づくりが急務であると考えている」と述べた.
有床診療所を巡る状況について
議事では,まず,今村(定)常任理事が,「有床診療所を巡る動向について」と題して説明を行った.同常任理事は,有床診の機能について,(一)専門医療を担って病院の負荷を軽減し,地域医療の崩壊を防ぐ,(二)地域の病院からの早期退院患者を含めた患者の受け皿として機能,(三)地域の在宅医療の拠点診療所として在宅医療の後方支援に病床を活用,(四)終末期医療などのニーズが高まる分野への取り組みを行う,(五)特にへき地・離島では唯一の入院施設として機能─という五つに大別出来るとし,それぞれの有床診は一つに限らず複数の機能を有することが多いとした.
しかし,毎年約千施設がやむを得ず病床の運用を断念していることから,次期診療報酬改定に向け,有床診への理解を深めてもらうべく,厚生労働省と共に有床診の視察とヒアリングを行ったことを紹介.今回対象となった,「福岡県」「和歌山県」「広島県」「北海道」の計十四カ所の有床診では,外来収入による入院部門の赤字の補填,夜勤看護職員の不足,介護施設よりも診療報酬が低いために,患者・家族が入院の継続を希望し,なかなか退院しない,などの問題がみられたことを報告した.
有床診療所に関する検討委員会での検討状況
つづいて,「有床診療所に関する検討委員会」の大道久委員長がの検討経過について説明を行った.
本委員会は,平成十四年にプロジェクト委員会として設置され,四十八時間規制の撤廃に向け論議.平成十八年からは常設委員会とされ,入院機能の評価について病院との整合性を求めた「平成二十年度医療費改定に向けての緊急要望」を提出した.今期は,会長諮問「有床診療所の適正な評価に向けた方策─発展と安定運営に向けて─」を受け,有床診の入院基本料のあり方等について検討を行っている.
同委員長は,一連の経過を解説したうえで,入院基本料について,「適切な論議と根拠に基づいて引き上げる必要がある.機能類型により種別化し,加算するという手法もあるが,現段階では,底上げが第一であると委員会としては意見が集約されている」と述べ,人の配置の多寡によって算定するのでなく,有床診の固有の機能に着目し,地域や社会のニーズを踏まえた評価をすべきだとの意見も出ていることを紹介した.
また,看護配置基準と入院基本料の逓減制の見直しも主要課題とし,今後,同委員会では,看護配置基準の「一〜四人」「五人以上」の区分の見直しや,入院基本料において入院初期期間を二週間とし,三十日までを重点的に評価することなどを求めていく方向で議論するとした.
有床診療所の現状について
引きつづき,視察・ヒアリングの対象となった有床診のうち,福岡県古賀市の大岩外科医院と,広島県安芸高田市の徳永医院より,現状についての報告が行われた.
大岩外科医院の大岩俊夫院長は,入院部門での収入が低すぎて,毎年の赤字を他で補填出来ず,医師は夜間・休日もオンコール状態で過酷を極めていると窮状を訴え,入院基本料や複数医師加算の引き上げなどを求めた.
徳永医院の徳永彰院長は,急性期・慢性期医療どちらの入院基本料も引き上げる重要性を強調するとともに,介護施設との関連を踏まえて有床診の位置づけを確立し,医療計画に組み入れて活用を図ることや,有床診の一般病床を短期入所療養介護(ショートステイ)として利用出来ることの周知などを要請した.
諸問題に関する協議
協議に先立ち,都道府県医師会より事前に寄せられた質問に対し,今村(定)常任理事が回答.
同常任理事は,入院基本料について,「いずれの医師会からも,低さについて指摘があった.これは関係者の総意であると理解しているので,日医としても十分考慮して対応していきたい」と述べた.
有床診の位置付けについては,「診療報酬上の評価を得るためにも,地域医療における位置付けの明確化が必要である」と強調.勤務医の支援機能という観点も含め,病院,有床診療所,無床診療所,介護施設といった全体の提供体制のなかで,地域の特性に応じて考えていくべきだとし,「日医としても,今後さらに理解を求めていくが,各地域においても医療審議会等で有床診の果たしている機能,役割の重要性について発言いただき,医療計画に書き込むなど,積極的な対応をお願いしたい」と呼び掛けた.
その後,フロアからの質問に,日医執行部,有床診に関する検討委員会委員,厚労省の担当官が回答した.
有床診の新規参入・再開を増やすために,許可制から届出制に戻して欲しいとの意見や地域医療再生基金についての発言が多く出されたほか,入院機能を持つことにより人件費などがかさむ有床診が,診療報酬改定に際しては,「診療所」と一括(ひとくく)りにされることへの危機感などが示された.また,厚労省からは有床診の重要性に対する認識が示された.
最後に,竹嶋康弘副会長が総括し,「次期診療報酬改定では,医療費の底上げを求め,地域の医療体制全体が成り立つようにしなければならない.地域医療の再生には,これまで地域の医療を綿々と担ってきた有床診という医療資源の活用が必要不可欠であることを,国民にも提言していきたい.日医として社会保障審議会医療部会・医療保険部会等で,しっかりと理解を求めていく.執行部を挙げて対応したい」と述べた.
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