日医ニュース
日医ニュース目次 第1152号(平成21年9月5日)

視点

新型インフルエンザが国内確認後3カ月経って

 七月下旬,WHOは新型インフルエンザの発生が,世界中の国で認められ,死者は千百人を超し,感染者は十六万人を超したとした.しかし,WHOはすでに感染者数の把握をやめており,死者,感染者数はこの数字にとどまらない.
 国内での感染状況は,五月十六日に関西地方でヒトヒト感染が確認されて以降多数出現し,いわゆるパンデミックが始まったわけで,すでに全都道府県で発生を見ている.
 一時的に収まったかのように見えた感染者数は,湿度の高い季節に入っても減らず,さらに増加傾向にあり,圧倒的に学生,生徒,児童,保育園児らが占めている.
 ウイルスの特性は,徐々に解明され,感染力は低いが,重症度が高い「H5N1鳥インフルエンザ」よりは感染力が高く,重症度が低いことが分かり,「季節性インフルエンザ」と比較すれば,感染力が高いこと,致死率が高いことも分かってきた.幸い日本では重症化は少ないと言われるが,急性脳炎(インフルエンザ脳症)を呈した患者も数例みられた.当初,六十歳以上の高齢者の抗体保有率は三〇〜四〇%としていたが,東大医科研河岡チームは,六十歳から八十歳代は,抗体はなく安心出来ないとしている.今,冬季を迎えている南半球で猛威をふるっている現状を見れば,この秋冬の第二波に対する対策は予断を許さない.果たしてワクチンが間に合うかも心配である.
 前述のように,ウイルスの解明は手がつけられたばかりで,今後,感染ルート,病原性,病態の解明を急がなくてはならないのは当然である.
 国内確認後,三カ月が経ち,当初の厚生労働省の対応「空港での水際作戦」や「行動計画」,マスコミの大騒動に対する批判的な見解もみられるようになり,自治体ごとに設置されていた「新型インフルエンザ対策室」や「発熱相談センター」「発熱外来」が縮小・廃止され,「季節性インフルエンザ」と同様な診療,対応がなされるようになった.
 今回の,いわゆる「水際作戦」や「発熱外来」に対する批判的な論調も多くみられるが,ウイルスの状況が把握出来る前に,甘い,ゆるい対策は何とも危ない.状況を把握し,フレキシブルに対応出来る方策を考える良い礎とすべきで,やみくもに国の対応を批判するだけでは心もとない.決して無駄なことではなかったと考える.
 わが国は,本年二月に「新型インフルエンザ対策行動計画」を改定し,WHOのフェーズ分類とは異なる五段階に分けた発生段階と方針を定めており,今後は,今回の対応を検証し,この分類に従った,より現実的な対応を図ることが出来ると考える.
 われわれ診療する側は,すでに試みられている仙台方式,神戸の方法等,各自治体,医師会の状況にあった診療形式を打ち出さなければならない.いずれにしても,日医は確実な情報を集め,各医師会とその情報を共有する場を求めなければならないと考えている.

(常任理事・飯沼雅朗)

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