日医ニュース
日医ニュース目次 第1158号(平成21年12月5日)

日医定例記者会見

11月18日
TKC医業経営指標に基づく動態分析結果を公表

 中川常任理事は,二〇〇八年四月〜二〇〇九年三月期決算の『TKC医業経営指標(M─BAST)』のデータを基に日医が分析を行った結果を公表した.
 TKC医業経営指標の特徴として,一つ目に定点観測であること,二つ目に客対数が多いこと,三つ目に月次監査を実施している医療機関を対象としているため信頼性が高いことが挙げられる.調査対象医療機関数は,民間病院の約一一%(八百二十三施設),診療所の約七%(六千四百九十四施設)をカバーしている.
 同常任理事は,今回の分析結果を受けて,以下の四点を述べた.
 (一)二〇〇八年度の保険診療収益の前年比は,病院プラス一・五%,診療所プラス〇・三%であった.これまで医療費は年三%伸びるとされてきたが,診療報酬プラス改定分が重点投入された病院ですら一・五%の伸びにとどまった.
 これは,厚生労働省「メディアス(最近の医療費の動向)」等の分析を通じて,受診日数が減少しているためであることが明らかになってきており,受療行動の変化を踏まえた診療報酬の見直しが求められる.
 (二)小児科の診療所は,保険診療収益が減少しており,小児科は損益分岐点比率から見ても危機的状態にある.二〇〇八年四月改定では,小児の外来医療が評価されたが,少子化の影響などで受診日数が減少していることもあり,収益増に寄与していない.引き続き診療報酬改定上の重点課題とするとともに,補助金などの政策的な支援も必要である.
 (三)損益分岐点比率は,病院九四・九%,診療所九五・〇%である.医業収益が五%超減少すれば赤字に転落するが,患者数が五%程度減少することは十分あり得る.病院も,診療所も,事業環境の変化にきわめて弱い経営実態になっており,全体的な底上げが必要である.
 (四)中医協の医療経済実態調査は,一部の医療施設を対象にした非定点調査であり,経年比較に耐えられないものである.
 さらに,個人の診療所の客対数が少ないため,診療科間の比較を行うことにも問題がある.
 そのうえで,同常任理事は,(三)に関連して,十一月十三日の中医協の議論で,損益分岐点比率の悪化について,医療機関の固定費を見直すべきとの発言があったことに対して,「医療機関では,固定費の大部分を給与費が占めるが,役員報酬はほとんど伸びていない.その一方で,従事者給与賞与の前年比は,病院でプラス二・五%,診療所でもプラス二・五%であった.医師不足,看護師不足等により,給与費を上げざるを得ない実態がある」と推察した.
 また,(四)について,十一月十一日に行われた行政刷新会議ワーキンググループの「事業仕分け」に,財務省は「眼科・耳鼻科(*耳鼻咽喉科は平均以下であり,整形外科の間違いと推察される)等は診療所の平均よりも二割以上高い収支差額(=医師の給与)」との資料を提示したことに対して,「個人診療所の損益差額は,そのまま院長給与に相当するものではない」として,医療経済実態調査は,経年比較,診療科間比較のいずれにも適切とは言いがたく,取り扱いには注意が必要であると述べた.

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