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第1160号(平成22年1月5日) |
平成21年度家族計画・母体保護法指導者講習会
「産婦人科医療をめぐる諸問題〜母体保護法を中心に」をテーマに
平成二十一年度家族計画・母体保護法指導者講習会が,昨年十二月五日,日医会館大講堂で開催された.
冒頭,唐澤人会長は,「現在の医療を取り巻く環境は非常に厳しいものがある.長年の医療費抑制政策により,医師不足は地域医療の現場に混乱を招いており,大きな社会問題になっている.特に産科医,小児科医不足により,地域の周産期医療の確保や安全の確保が十分出来ない状況に追い込まれている.産科医療に関しては,国によるさまざまな手当てがなされてきているが,いまだ十分ではない.地域の実情に応じた医療提供体制の構築を図り,国民の医療不信につながることがないよう,引き続き尽力をお願いしたい」とあいさつした.
引き続き,唐澤会長による講演「二十一世紀の国民医療を求めて─超少子高齢社会の地域医療─」が行われた.
唐澤会長は,まず,九月に民主党政権が発足した際の,鳩山由紀夫新総理の所信表明は,「社会保障重視の国づくり」を目指して努力するとの内容であったと理解していると述べ,その実現に期待を寄せた.
また,医療崩壊の危機のなか,今こそ,世界に冠たる国民皆保険制度の大切さを,改めて声を大にして訴えていきたいと強調.国民医療の再生が日医の最大の目標であるとして,今後も,エビデンスに基づいた医療政策を提言し,その実現に向け積極的に取り組むことで国民福祉の向上に貢献したいとの考えを示した.
つづいて,シンポジウム「産婦人科医療をめぐる諸問題〜母体保護法を中心に」が行われた.
大橋克洋東京都医師会理事は,社会の変化により,妊娠をめぐる状況は複雑になっており,予想外の対応に苦慮することも少なくないとして,人工妊娠中絶の同意書をめぐって,医療の現場で発生している問題を事例として示し,問題提起を行った.そのうえで,社会の変化に対応するための法的な対策が望まれるとした.
安達知子愛育病院産婦人科部長は,十代の人工妊娠中絶の実態や性教育の問題点について説明した.
特に,反復人工妊娠中絶は絶対に防がなくてはならないと強調し,自身が行った研究のなかから,その防止策として,特に若い世代に行われるべき低用量OC(ピル)を中心とした,避妊指導のあり方とその効果について述べ,さらに小冊子『中絶を繰り返さないための避妊指導の実践書─確実な避妊のためのQ&A』を紹介した.
白須和裕小田原市立病院副院長は,出産育児一時金の増額に伴い,中期人工妊娠中絶におけるその支給のあり方が問題視されていることについて,分娩費には「母体保護」の視点があることや,過去の増額の時期と中期中絶件数に明確な関連は認められないことを挙げた.そのうえで,拙速な対応は避けるべきとの考えを示し,まずは,中期中絶のリスクの啓発活動が求められるとした.
今村定臣常任理事は,公益法人制度改革に伴う母体保護法指定医師認定問題について,現段階では,すべての都道府県医師会が公益社団法人に移行することは事実上困難であり,都道府県医師会が一般社団法人となった地域は,母体保護法指定医師の空白地帯となってしまい,極めて憂慮すべき事態になると説明.各都道府県で適切に指定が行われるよう,今後とも法改正を含め,行政と交渉を続けていくとの考えを示した.
指定発言を行った宮嵜雅則厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長は,人工妊娠中絶は,実数・実施率ともに年々減少しているが,都道府県別に見ると実施率にばらつきがあること,十代についても,近年は減少傾向にあるものの,やはり都道府県でばらつきがあることを説明.
また,公益法人制度改革に関しては,「母体保護法指定医の空白地帯が出来てしまうのは重大な問題であると認識しており,日医,産婦人科医会などと相談のうえ,良い解決策を早急に考えていきたい」とした.
その後の討議では,シンポジストと参加者との間で活発な質疑応答が行われた.参加者は百八十一名.
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