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第1167号(平成22年4月20日) |
第122回日本医師会定例代議員会
新会長に原中勝征氏が当選
第百二十二回日本医師会定例代議員会が,四月一,二の両日,日医会館大講堂で開催された.第一日目には役員および裁定委員の選挙が行われ,原中勝征氏(茨城県医師会長)が初当選を果たした.
役員選挙
四月一日午前九時三十分,滝澤秀次郎事務局長の司会で,森下立昭氏(香川県)を仮議長に選出し,森下仮議長が開会宣言を行った.従来の氏名点呼に代わり,事務局による出席の受付によって,定数三百五十七人のうち三百五十七人全員の出席を確認.
議事録署名人には,鶴谷嘉武(群馬県),福田稠(熊本件)の両氏が指名され,代議員会議長・副議長選挙に入った.
議長・副議長ともに立候補者は一人であったため,無投票で,議長に石川育成氏(岩手県),副議長に藤森宗徳氏(千葉県)の当選が確定した.
つづいて,石川議長より,八人の議事運営委員会委員の指名があり,議事運営委員会が開かれた.選挙立会人には清水美津子(東京都),齋藤浩(茨城県),安達秀樹(京都府)の三氏,開票管理人には栗谷義樹(山形県),森藤忠夫(岡山県),近藤稔(大分県)の三氏が指名され,会長選挙(定数一人に対して四名が立候補)に入った.
予備代議員の扱いをめぐり,議事運営委員会が開かれ,定数三百五十七人のうち三百五十六人(欠員一名)の出席と変更されたため,投票総数三百五十六票(無効票〇票,白票〇票,有効票三百五十六票)で,開票の結果,原中勝征氏(茨城県)百三十一票,森洋一氏(京都府)百十八票,唐澤人氏(東京都)百七票,金丸昌弘氏(京都府)〇票で,原中氏が初当選を果たした.
午後は,役員選挙(副会長・理事・常任理事・監事)および裁定委員選挙が予定されていたが,理事,監事,裁定委員は定数内のため,立候補者全員の当選が確定.副会長,常任理事については定数を超える立候補者があったため,投票による選挙となった.
副会長選挙(定数三人に対して八人が立候補)の投票総数は千六十五票〔代議員三百五十五人(選挙時出席代議員数),無効票〇票,白票五十九票,有効票千六票〕で,開票結果は,中川俊男氏(北海道)百七十四票,横倉義武氏(福岡県)百七十三票,羽生田俊氏(群馬県)百六十五票,松原謙二氏(大阪府)百五十一票,吉原忠男氏(埼玉県)百二十二票,内田健夫氏(神奈川県)九十七票,多田羅浩三氏(大阪府)八十三票,中嶋氏(三重県)四十一票で,上位三人の当選が確定した.
常任理事選挙(定数十人に対して十九人が立候補)は,二名の辞退届けが提出され,立候補者は十七名となった.投票総数は,三千五百四十票〔代議員三百五十四人(選挙時出席代議員数),無効票四十票,白票四百六十一票,有効票三千三十九票〕,開票結果は,今村聡氏(東京都)二百九十四票,高杉敬久氏(広島県)二百五十八票,藤川謙二氏(佐賀県)二百五十票,石井正三氏(福島県)二百四十七票,三上裕司氏(大阪府)二百二十五票,今村定臣氏(長崎県)百九十四票,保坂シゲリ氏(神奈川県)百八十一票,鈴木邦彦氏(茨城県)百七十一票,石川広己氏(千葉県)百五十九票,葉梨之紀氏(神奈川県)百五十八票,前田美穂氏(東京都)百五十六票,川出靖彦氏(岐阜県)百三十九票,石渡勇氏(茨城県)百三十八票,青木重孝氏(三重県)百三十票,千葉潜氏(青森県)百二十四票,新田國夫氏(東京都)百十四票,樋口正士氏(福岡県)百一票で,上位十人の当選が確定した.
選挙後,裁定委員を除く当選者全員が登壇.原中勝征会長が当選者を代表してあいさつに立ち,謝辞とともに,国民に開かれた医師会となり,良い医療制度によって国民が生涯安心出来る国となるよう努力したいと述べ,第一日目の日程を終了した.
議案審議
第二日目は,午前九時三十分,石川議長の開会宣言・あいさつの後,原中会長があいさつ(別記事参照)し,今後の日医の運営方針に対する考えを明らかにした.つづいて,久史麿日本医学会長のあいさつの後,昨年度中に物故された会員の霊に,全員で黙とうを捧げた.
その後,横倉義武副会長が会務報告を行い,議事に入った.まず,第一号議案「平成二十一年度日本医師会会費減免申請の件」が上程され,羽生田俊副会長の提案理由説明の後,可決.次いで,第二号議案「平成二十二年度日本医師会事業計画の件」,第三号議案「平成二十二年度日本医師会予算の件」が一括上程され,横倉・羽生田両副会長から,それぞれ提案理由が説明され,その審議は,財務委員会に付託(別記事参照)された.
さらに,羽生田副会長から,追加議案として,第四号議案「日本医師会役員功労金支給の件」(該当者八名)が上程され,賛成多数で可決.その後,代表質問と個人質問に移った.
代表質問
(一)地域医療再生へ向けての日医の考え・行動について
尾形直三郎代議員(関東甲信越ブロック)の地域医療再生へ向けての日医の考え・行動についての質問に対して,横倉副会長は,地域医療再生基金により実行される地域医療再生計画には,地域主導による医療のあるべき姿が描かれることを期待したが,出来上がった各地の計画には,医師会の位置付けが不十分なケースが多々あったと指摘.
そのうえで,同副会長は,今年度,厚生労働省内に医療計画に関する検討会が設けられるほか,政務三役から,医療圏の考え方を抜本的に見直すとの発言もあることに触れ,今後は,これらの検討・見直しに対し,地域主導による医療体制の確立が果たされること,さらには,地域の医療提供者を代表する都道府県医師会の積極的関与が保障されるシステムの設計こそが,地域医療の再生の礎となることを強く主張していきたいと述べた.
また,地域医療再生のための最優先課題は,「何と言っても医療崩壊を食い止める財源の確保にほかならない」と主張.そのためにも,診療報酬の大幅かつ全体的な引き上げを粘り強く求めていくとした.
さらに,地域には地域独自の医療のあり方があるとし,今後も地域における医療再生の取り組みを支援していく意向を示した.
(二)医療が健全に発展するための財源について
加藤智栄代議員(中国四国ブロック)の「医療が健全に発展するための財源」についての質問に中川俊男副会長は,まず,医療機関経営の健全化と再生が必要と指摘.次に,勤務医の疲弊の根源的要因は医師不足であり,二次的要因は新医師臨床研修制度の導入,医師の年齢構成の変化,女性医師の勤務環境の整備の遅れ,医療安全意識の高まり,診療以外の業務の増加にあるとし,その改善のためには,診療報酬上の手当て等,さらなる充実が必要であると強調した.
また,医療,介護には大きな経済波及効果があるとして,それぞれに税金一兆円を投入した場合の生産誘発額は五兆円,他の産業の生産に波及して誘発される雇用者数は,約五十万人が期待出来るとの日医総研の試算を紹介.医療,介護こそ日本の内需拡大を支え,日本を再生させるものであるとした.
さらに,消費税の戻し税創設の提案については,従前より日医は社会保険診療報酬等に対する消費税の非課税制度をゼロ税率ないし軽減税率による課税制度に改善するよう要望をしていることを説明したうえで,これまで以上にその実現に向けて働きかけを強めていきたいとした.
(三)ナースプラクティショナーと特定看護師について
嶋田丞代議員(大分県)からのナースプラクティショナー(以下NP)と特定看護師についての質問に対して,羽生田副会長は,NPについては定義が不明確で,新たな医療関係職種の創設には反対であると主張.特に,医行為は,高度な医学的判断および技術を担保する資格の保有者,すなわち,医師が行うべきであるとの考えを示した.
次に,特定看護師については,厚労省の「チーム医療の推進に関する検討会」において唐突にその法制化が提示されたと説明.これに対して,日医は,(1)看護師の役割拡大こそ最優先すべきである(2)「法制化ありき」の議論には賛成出来ない(3)国民の意見を十分に聞くとともに地域の医療関係者の意見を尊重する必要がある─旨の意見書を提出し,検討会の報告書は日医の主張に沿った形に変えられたとした.
そのうえで,同副会長は,看護師の役割を拡大することには異論はないが,チーム医療の推進のために医療現場が望んでいることは,新職種の創設ではなく,いわゆる「グレー」の領域のなかから,看護師が実施可能な範囲を明らかにすることであると主張した.
また,外科系四学会等とも,引き続き協議を続けていく意向を示した.
(四)日医が真に全医師の意見を代表するために
谷澤義弘代議員(兵庫県)からの日医が真に全医師の意見を代表するために,勤務医が入会しやすい制度を創設してはとの提案には,原中会長が,日本で活躍する勤務医二十万人の声は,日医の中に十分に届いてこなければならないと主張.
その一方で,都道府県医師会・郡市区医師会は住民と密着した医療政策,診療,社会活動を担っており,勤務医の意見を入れるために,医師会の三層構造を崩すことが必要とは思っていないとした.そのうえで,まずは勤務医の委員会などに管理者だけが出ているような状態を改善し,若い勤務医の意見をじかに聞く場を設けないといけないと述べた.
また,代議員の比率の問題については,代議員のほとんどが開業医であるというレッテルをはられているが,どのように実行すれば効果的かを大至急検討するとし,代議員の問題についても,討議する場を設けたいと説明.「とにかく勤務医が医師会に加入するメリットは何かと質問されるような環境は打開しなければならない」とした.
(五)公益法人制度改革に伴う日医医賠責事業および日医年金事業への対応について
篠原彰代議員(中部ブロック)の,公益法人制度改革に伴う日医医賠責事業および日医年金事業への対応についての質問には,まず横倉副会長が「公益法人制度改革は,日医や各医師会にとって大変大きな問題」との認識を示した.
詳細について回答した今村聡常任理事は,公益社団法人,一般社団法人のどちらに移行するかについては,最終的には代議員会に諮るべきことだとしたうえで,現時点ではこの二つの事業を除けば,公益法人認定のための要件はすべてクリアしていると述べた.
医賠責事業については,内閣府担当官から「保険料相当の会費が預かり金とみなされるような契約方式を検討すべし」との助言を得ており,会計処理の対応等に技術的な工夫をすることで,公益目的事業比率の計算から除外出来ると説明するとともに,具体的なことは決まり次第報告するとした.
日医年金については,亀井静香金融担当大臣を訪問したり,調査やヒアリングへの協力等により,保険業法の適用除外を強く要望していると説明.また,条件クリアが難しい公益目的事業比率の問題に関しては,「公益法人制度改革のガイドラインの見直し」や「新法人移行経過措置の延長」が現実的な解決策であるとして,政権に対する働き掛けを行うと述べた.
(六)日本の全医師を代表する団体であるために
橋本省代議員(東北ブロック)からの,日本の全医師を代表する団体としての勤務医問題への対応方針を問う質問に対しては,原中会長が回答した.
勤務医が積極的に日医の会務に参画しなければならないという考え方は非常に重要であるとして,フランスのように,医師免許を取得した人は必ず医師会に入るという制度が実現出来ないか考えていきたいとの抱負を述べた.
その一方で,勤務医が,「自分が会合などに頻繁に出席していては,その穴を埋めるために仲間が疲弊してしまう」と考えているのも確かであり,解決は難しいとしながらも,一〜二カ月に一度でも,都道府県医師会レベルの理事会や会合に,勤務医会員にも参考人として参加してもらい,直接意見を聴く機会を設けることが望ましいとの考えを示した.
また,日医においても,勤務医会員には開催頻度が比較的少ない委員会等に参画してもらい,そこでの意見を日医として確実に吸い上げる方策を考えなければならないとした.
さらに,女性医師の割合が年々増えてきているにも関わらず,その意見を医師会に取り入れるパイプがないことも,同様に医師会全体の基本的問題であるとして,必ず解決したいとの決意を示した.
(七)日医役員選挙等のあり方について
江本秀斗代議員(東京ブロック)の日医役員選挙等のあり方の質問には,羽生田副会長が回答した.
同副会長は,「医師の団結を目指す委員会」の提言について触れ,「公益法人制度における役員の選出方法に関しては,現在の日医代議員制度をなるべく変えずに行う方法を考え,公益法人制度改革に取り組んだ」と説明.
公益法人制度への対応の問題点として,約十六万五千人の日医会員すべてを社員として扱うことになることを挙げ,日医でどのような形式が取れるか,「定款・諸規程改定検討委員会」で議論したいと述べた.
また,今回の日医役員選挙については,候補者のあいさつ等をインターネットへ掲載したり,冊子の配布を行う仕組みも提案されていたことから,二年後の選挙までに,立候補者を公表した形で選挙を行うべきと考えており,検討を続けたいと述べた.
さらに,代議員制度自体を認めていなかった当初の内閣府の考えが変わってきており,全会員による予備選挙を行う等を定款に書いた公益法人も誕生している現状を説明.十分な情報を得ながら公益法人制度改革に対して,協議していきたいと述べた.
(八)会長選挙のあり方について
宮本慎一代議員(北海道ブロック)の会長選挙のあり方についての質問には,中川副会長が回答.
同副会長は,今の日医に求められることは,「医師の総力を結集して,国民の負託に応えるたくましい日医を構築し,その総力のもとで,安心で安全な日本の医療を再生させることに他ならない」と述べた.
また,診療報酬について,十年ぶりのプラス改定になったが,財政当局は,医療費抑制の手をゆるめておらず,その戦術として,勤務医と開業医の対立構造に持ち込んできている状況を説明.日医は,決して翻弄されてはならず,強固な団結を持って立ち向かわなければならないと強調した.
さらに,平成十八・十九年度「定款・諸規程検討委員会」の報告書では,会長の直接選挙について両論併記されているが,意見に共通することは,医師会組織をよりよいものにしたいとの思いだと述べ,医師会組織の強化につながるような選挙制度を実現していくために,今期も委員会を設置し,会長の直接選挙をはじめ新公益法人制度下での選挙制度のあり方について,特化した議論を行い,会員の総意といえる形で結論を得たいと述べた.
個人質問
(一)公益法人制度改革に伴う法人移行の際の日医の支援について
山隆夫代議員(東京都)の公益法人制度改革に伴う法人移行への日医の支援についての質問には,今村(聡)常任理事が回答した.
同常任理事は,各医師会が行っている業務は,千差万別であり,現在,医師会からの相談に日医として回答しているが,その内容の確実性を担保出来ないため,大変苦慮しているとの現状を説明.
日医からの支援としては,書面,ホームページ等を通じた情報提供,連絡協議会等の開催や,担当役員や協力監査法人による各都道府県医師会での説明会を相当数開催したこと,さらに,「定款・諸規程改定検討委員会」で,日医の定款変更案,郡市区等医師会用のモデル定款を作成,日医総研のモデル研究事業として,三医師会で法人移行を実施し,先行事例として公表しているとした.
加えて,今後の新たな取り組みとして,担当役員や担当事務局による制度の詳細な解説を収めたDVD等を作成し,医師会関係者に提供する考えを示した.
また,同常任理事は,「新制度施行以後,制度自体が抱える多くの問題点が出てきており,制度自体にも問題があるのではないか」と述べ,全国の医師会のさまざまな問題点を受け,政権に対して各医師会が移行しやすい制度にするように要望を続けていきたいと述べた.
(二)医師会における治験事業運営の今後について
医師会が行う治験事業運営の今後の方向性について,日医の見解を問う松田峻一良代議員(福岡県)の質問には,石井正三常任理事が回答した.
同常任理事は,まず,日医の治験促進センター事業の一つである企業治験の紹介について,従来,企業からの治験依頼が,直接依頼,SMO経由依頼というルートのみであったため,新たなルートとして用意したものであると説明.そのほか,各医師会の治験事業の紹介を行うとともに,多くの製薬企業と直接対話する機会として,治験ネットワークフォーラムを開催していることなど,治験促進センターが実施している取り組みを報告し,これらの事業について,引き続き実施していくとした.
各医師会の治験事業については,それぞれの強みを出していくことが必要だと指摘.国の取り組みや製薬企業の要望は,被験者の集積性の向上,効率的な実施ということにあることから,今後,医師会のネットワークは,これらの強化を進めていくことが求められているとした.
そのうえで,同常任理事は,「治験の問題は,世界医師会のプラセボ会議でも議論されており,それらの議論も参考としながら,引き続き各医師会の治験事業に協力していきたい」と述べた.
(三)日医は「学術団体」から「学術を基礎とした医療政策提言団体」へ脱皮を
佐藤和宏代議員(宮城県)の「日医は『学術団体』から『学術を基礎とした医療政策提言団体』へ脱皮を」の質問に対して,葉梨之紀常任理事は,「現在,公益法人制度改革に対応した定款の見直しを行っているところであるが,本会の目的は,医学を基礎とすることが信念であり,軸足が学術団体にあることは変わらない」との考えを示し,理解を求めた.
また,政策とは,国民的合意が得られて初めて実行されるものであるとし,会員の先生方が,地域住民と共有して世論を構築出来る医療政策を提言していきたいとした.
日本医師会医学賞および医学研究助成費を半額程度に,との提案については,財政的理由で減額が必要であれば,対象者を絞ることの方が有効との見方を示した.
日医雑誌は,学術論文を極力少なくし,医療に関するさまざまな問題を中心に論じて欲しいとの要望については,『日本医師会生涯教育カリキュラム〈二○○九〉』の目標を達成するための重要な素材としての『日本医師会雑誌』の位置付けに理解を求めたうえで,内容およびサイズ(A4判化)については,今後の検討課題にしたいと述べた.
(四)受診抑制への対応について
松家治道代議員(北海道)からは,「受診抑制への対応」として,自己負担軽減についての質問がなされた.これに対し,鈴木邦彦常任理事は,「最高自己負担を三割から二割に,低所得者と高所得者は自己負担限度額を現在の二分の一にする施策」は,日医もこれまで提言としてまとめ,主張してきたと説明.
また,外来患者一部負担割合を引き下げるための財源については,国民生活の厳しい実態を踏まえ,保険料の引き上げではなく,公費での対応を求めているとした.
さらに,国民皆保険制度を守るための財源として,(1)国の支出の見直しの継続(2)消費税などの新たな財源の検討(3)一般医療保険における保険料格差の是正─を同時に検討する必要があるとの考えを示した.
同常任理事は,こうした主張は,昨年,政権与党に向けて提言としてまとめ,厚労省政務三役,財務大臣宛に提出し,与野党衆参国会議員宛に配付していることを報告し,今後は,本会の『グランドデザイン』の内容を進化させたうえで,政権与党,関係団体等と協議を進め,提言をしていくとした.
(五)外因死の警察届出について
原晶代議員(長崎県)の「外因死の警察届出について」の質問に対して,今村定臣常任理事は,医師法第二十一条には,「外因」という文言が記されておらず,法文上,「異状」が何を指すかについては明らかではないが,厚労省作成の死亡診断書記入マニュアルには,日本法医学会が平成六年に定めた『異状死ガイドライン』を参考とするよう記載されていると説明.その内容については,さまざまな意見があるが,異状死に関する判断基準としては,現在のところ唯一のものだとして,患者が死亡し,医師が外因による死亡を疑うのであれば,現行法上は,所轄警察署に異状死体の届出を行うことになるとの見解を示した.
しかし,異状死体の届出を受けた警察が,最初から関係者を犯罪者扱いして事情聴取するということが事実とすれば,警察の対応として疑問を抱かざるを得ないと述べた.
さらに,そのような事態を回避するための根本的な解決法としては,現在の医師法二十一条を改正し,警察に代わり死因究明を専門的に行う中立的な第三者機関の設置も有効な手段と考えられることから,日医として一層の議論を進めていきたいとした.
(六)ワクチンの無料化と広報のあり方について
小笠原真澄代議員(秋田県)からのWHO推奨ワクチンの接種の無料化を求める要望ならびに,ワクチン無料化の提言を新聞・テレビ等で広報すべきとの提案に対しては,保坂シゲリ常任理事が回答した.
同常任理事は,まず,ワクチン接種の無料化に関して,厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会において,平成二十三年の国会提出を目標として,予防接種法の大幅な改正が徹底的に議論される予定になっていることに言及.これらの議論の場で,各ワクチンの定期接種化や米国のACIPのように国民にワクチンの安全性や有効性について分かりやすい情報を提供し,国のワクチン政策に対するアドバイザリー機能を持つような仕組みの導入を強く主張していく意向を示した.
また,子どもに対する予防接種の経済格差をなくすために,子ども手当ての一部を予防接種の費用の一部に使えるような提案もしていきたいとした.
新聞・テレビ等で広報すべきとの提案に関しては,テーマを含め,「適宜適切な時期に」という点を十分考慮したうえで,今後の広報活動を行っていかなければならないとした.
(七)日医に若手勤務医のための広域会員制度の創設を
清水信義代議員(岡山県)から,若手勤務医のために,広域会員制度の創設を求める要望が出され,三上裕司常任理事が回答した.
同常任理事は,まず,日医の組織率が六〇%程度であることに触れ,多くの勤務医に加入してもらい,組織力を強化していかなければ,日医の発言力,活力は低下してしまうとの認識を示すとともに,「勤務医の目を日医に向けてもらうために,勤務医の健康支援などの事業を進めているが,今後とも積極的に勤務医向けの事業を行い,勤務医の入会促進につなげていきたい」と述べた.
医師会が三層構造であるために入退会・異動手続き等の煩雑さが勤務医の入会を阻害しているとの指摘に対しては,「そのことが要因の一つになっていることは認識している」としたうえで,「各医師会が独立した法人であるため,難しい面もあるが,手続きの簡素化に取り組んでいきたい」と述べた.
さらに,広域会員制度創設の要望については,医師会組織の三層構造に関わる問題であるため,新公益法人制度の移行に向けて,諸規程を検討していくなかで,慎重に検討していきたいとした.
(八)在宅医療の推進について
小鳥輝男代議員(滋賀県)からの,「在宅医療の推進」に関する日医の見解を問う質問には,三上常任理事が答弁した.
日医は,在宅医療の方向性を,「在宅における医療・介護の提供体制─『かかりつけ医機能』の充実─指針(二〇〇七)」で示し,また,平成二十・二十一年度の介護保険委員会答申「生活を支える医療を目指して」でも,指針の実現に向けた提案が行われていると説明.
また,最近の厚労省による在宅医療推進の方針は,医療費削減策の一つとして病床数を減らすことが主な目的だと指摘.今後は,急性期医療や在宅医療を補完する病床の整備と,能力に応じて日常生活が営めるよう,適切な医療・介護サービス等の一体的な提供が必要であり,国民,高齢者のニーズに応じたサービスの提供と,地域の特性に応じた基盤整備が重要だとした.
さらに,在宅療養支援においては,医療・介護・福祉サービスなどのフォーマルな制度と,地域のお付き合いといったインフォーマルな社会資源が,各地域の特性に合わせて連携し,システムとして機能していくことの重要性を指摘した.
そのうえで,各地域・都道府県医師会に,地域のシステムづくりにおけるリーダーシップの発揮と,各地域での具体的事例等の報告を要請.日医としては,取り組みをバックアップし,医療・介護に係る,国の各種審議会等で,地域づくりの理念を主張していきたいとした.
(九)日医による外来診療のための診療支援データベースの構築について
川出靖彦代議員(岐阜県)からの,日医による外来診療のための診療支援データベースの構築についての質問には,石川広己常任理事が,以下のように回答した.
日医ではORCAプロジェクトなど,さまざまな医療のIT化に取り組んでいるが,診療支援および学術分野におけるIT化にも多くの期待がかけられている.
日医としては,医師の知識の集積として,分かりやすく,きちんとしたデータベースの必要性を認識しており,多くの科の先生や生涯教育分野と協力して構築する方向を考えている.また,経験豊な実地医家による使いやすさの検証も必要である.
すでに学術分野では,「生涯教育on-line」などのIT化を行っており,会員の利用も進んでいるようだが,一層の工夫も必要である.ただ,診察中に検索や,電子書籍の治療・診断部分を参照するには,レスポンスの問題や利便性を追求しなければ,IT化は難しいと考えている.
また,診療ガイドラインについては,医師の裁量権や患者の個別性を守り,医療の標準として一人歩きすることのないよう,あくまでも診療支援や参考でなければならない.
さらに,外来診療だけでなく,入院時のクリニカルパスや地域連携パス等も含めて医師会主導で取りまとめていく必要があり,今後の検討課題としたい.
(十)厚生局による社会保険指導について
柵木充明代議員(愛知県)からの,厚生局による社会保険指導についての質問については,高杉敬久常任理事が回答.
同常任理事は,新規保険指定医療機関への個別指導や診療報酬の改定時における集団指導などの取扱いは,平成七年十二月の『指導大綱』に明記されているもので,当時,日医も了承したとしたうえで,「『指導大綱』の内容については納得出来ない部分もたくさんある」と述べ,その具体例として,高点数の取り扱いを挙げた.
集団的個別指導等は,レセプト一件当たりの平均点数が高い医療機関が選定されるため,「高点数=悪」ではないと,当時の厚生省に改善を求め,折衝した結果,平成十年三月の医療課長通知「保険医療機関等に対する指導及び監査の取扱いについて」が発出され,「個別指導は実施しなくてもよくなっている」と解説.
現在の『指導大綱』のさまざまな問題点についても,厚労省と相談したうえで,柔軟な運用となるよう働きかけていきたいとの考えを示し,「指導はあくまでも教育的なもので,指導によって萎縮診療を引き起こしてはならないし,医療費削減が目的なら,それは本末転倒である」と述べた.
また,現在の『指導大綱』ができた際に,「指導大綱,監査要綱は五年経過後を目途に見直しを行い,集団的個別指導は,今後,日医主催のピア・レヴューとすることを検討する」ことを当時の厚生省と日医で確認していることから,集団的個別指導を医師会主催のピア・レヴューとすることで,高点数の問題は解決出来るとの見方を示し,国民の信頼を得られる透明で公正なピア・レヴューにする必要性を強調.
適正な保険診療を実施していくためには,行政と地区医師会が協同して進める必要があるとして,厚労省に働き掛けていくとの姿勢を示した.
(十一)日医執行部は総括を
塩見俊次代議員(奈良県)からの,日医執行部の総括を求める要望に対しては,藤川謙二常任理事が回答.
日医はこれまでも,『日医ニュース』やホームページを通じて,会務状況を適宜報告するとともに,『日医FAXニュース』や『理事会速報』によりタイムリーな情報の提供にも努めていることを強調.また,定例記者会見を開催し,提出資料を,即日,ホームページに掲載するなど迅速に情報提供しているとし,「執行部が,自ら行った事業を総括し,会務を次の執行部へと引き継いでいくことは,法人という有機的組織が円滑に活動し続けるためにも必要不可欠である」と代議員の意見に同調した.
また,役員選挙に関する情報提供に触れ,「すべての立候補者の今までの実績や専門分野,履歴,今後の会務運営の考え方などを,日医のホームページを通じて,一般会員や代議員が知ることが出来るようにしたい.それによって会長が優秀な人材を,適材適所に配置し,素晴らしい日医執行部を構成出来ればと考えている」と意欲を示した.
その他,原中会長のあいさつならびに会務報告に対する質問が三題出され,原中会長および各担当役員から回答を行った.
午後三時十二分,審議を再開し,三宅直樹財務委員会委員長(北海道)が,付託された議案は委員会で承認された旨報告.議長が第二,第三号議案の採択を行い,賛成多数で可決した.
第68回定例総会
代議員会終了後,第六十八回日本医師会定例総会が開催された.
原中会長が議長となって,(一)庶務及び会計の概況に関する事項,(二)事業の概況に関する事項,(三)代議員会において議決した主要な決議に関する事項─を報告し,終了した.
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