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第1184号(平成23年1月5日) |
平成22年度家族計画・母体保護法指導者講習会
「母体保護法の理念とその運用」をテーマに
平成二十二年度家族計画・母体保護法指導者講習会が昨年十二月四日,日医会館大講堂で開催された.
今村定臣常任理事の司会で開会.
冒頭,原中勝征会長は,「子育ては,社会全体の責任であり,安心して子育てが出来る環境を整備することは,国の喫緊の課題である.この世に生を受ける時の担い手は,先生方であり,そこから,親からの子どもへの愛情,育て方,家庭の楽しみをご指導願いたい」とあいさつした.
引き続き,原中会長による講演「医療の明日のために,今,できること」が行われた.
原中会長は,「今の時代,我々の最大の望みは,公的医療保険制度が持続的に運営されることであり,その実現のため,医療を取り巻く状況について,政府へ提言している」と述べ,その一例として,日医が公表した,『日本医師会 国民の安心を約束する医療保険制度』を紹介した.
さらに,今後必要なこととして,国民皆保険を堅持するために雇用を創出すること,超高齢社会を見据えた長期的なビジョン,医療費抑制政策を止めさせること,市場原理主義の医療への参入を阻止すること―などがあるとした.
つづいて,「母体保護法の理念とその運用」をテーマにシンポジウムが行われた.
公益法人制度改革による母体保護法指定権の行方
寺尾俊彦日本産婦人科医会長は,昭和二十三年の優生保護法の成立を受け,翌年に「日本母性保護医協会」(現,日本産婦人科医会)が発足したことや,男女雇用機会均等法の制定を受けて,国際人口開発会議や世界女性会議において「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康/権利)が提唱されたことを説明した.
また,公益法人制度改革に関連して,母体保護法指定医師を「公益社団法人たる医師会」が指定する旨が明記された問題を取り上げ,「公益法人制度改革によって変えられることは問題であり,指定の許可や更新には,指定を受けようとする医師の専門的知識,技術,倫理性が求められ,審査には,医師によるピア・レビューが適している」と述べた.
母体保護法の指定権について,日医の取るべき対応
今村(定)常任理事は,母体保護法の指定権について,日医のとるべき対応をまとめる必要があると判断し,指定権問題に特化した,「母体保護法指定医師の指定権に関する検討小委員会」を立ち上げ,現在,議論していると説明したうえで,「法人の形態にかかわらず,従来どおり都道府県医師会が母体保護法指定医師の指定権限を保持するべき」と述べ,指定医師の空白地帯が生じないよう働き掛けを行う考えを示した.
迫田朋子NHKチーフディレクターは,リプロダクティブ・ヘルスについて,NHKが過去に特集した番組を取り上げながら解説した.
そのなかでは,メディアでは人工妊娠中絶について,ほとんど真正面から取り上げられることがないこと,リプロダクティブ・ヘルス/ライツが国際的に広められた一九九四年ごろは活発であった議論も,現在では減少しており,人工妊娠中絶を行った女性たちの心の葛藤を語る場がないことなどが述べられた.
指定発言を行った,泉陽子厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長は,母体保護法の概要を説明.
その後,「指定権については,今の公益法人制度との関係で,すべての都道府県医師会が公益法人に移行すると見込んだ記述となっている.我々としても,指定権者がいなくなることへの懸念を持っており,その点では日医と考えは一致している」とした.具体的な制度のあり方については,「この法律が優生保護法の制定時から議員立法として法制化された経緯もあり,今後の自由な議論を妨げることのないよう,私からのこれ以上のコメントは控えたい」と述べた.
その他,泉課長からは,人工妊娠中絶の実施件数や実施率が年々減少してきている現状の説明がなされた.
その後の討議では,シンポジストと参加者との間で活発な質疑応答が行われた.参加者は百七十九名.
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