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第1189号(平成23年3月20日) |
平成22年度学校保健講習会
思春期の健康教育や高機能自閉症などをテーマに
平成二十二年度学校保健講習会が二月十九日,日医会館大講堂で開催された.
石川広己常任理事の司会で開会.冒頭,原中勝征会長が,「昔の学校保健は,内科・耳鼻科・眼科の三科で十分と思われていたが,生活習慣病の若年化を始め,性の問題,心身症の問題などが加わり,学校保健そのものが大きく変わってきている」とし,学校医の苦労をねぎらうとともに,「これからの日本を担っていく子どもたちの,精神的・肉体的に健全な育成を支援していただきたい」とあいさつした.
講演(一)「最近の学校健康教育行政の課題について」では,有賀玲子文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課学校保健対策専門官が,文科省が所管する学校保健の特徴について,集団としての健康を扱い,自らの健康保持増進能力を育むための教育的観点が重要視されることを説明.
学校におけるアレルギー疾患や新型インフルエンザ等感染症への取り組みについて報告したうえで,多様化・深刻化する子どもの健康課題に対応するために,学校と家庭だけでなく,学校と地域の医療機関等との連携が必要だとした.
講演(二)「思春期の健康教育―産婦人科の立場から―」では,山本宝日本産婦人科医会女性保健委員会委員長・福井愛育病院長が,思春期に起こる心身の変化を医学的に解説するとともに,その世代が性にまつわるさまざまな悩みを抱えていることを強調.福井愛育病院で,妊娠・出産・産後などをケアするために行われているカウンセリングに,多くの十代が訪れ,月経異常や妊娠・避妊などについて相談している様子を紹介した.
また,思春期のダイエット,人工妊娠中絶,性感染症などの問題を取り上げ,子どもの目線に立った性教育の大切さを訴えるとともに,自立期という保護者に訴えが届きにくい背景があることも配慮し,関係者で注意深く見守っていくことを求めた.
講演(三)「子宮頸ガンにおけるHPVワクチンの意義」では,安達知子日本産婦人科医会常務理事が,日本の子宮頸がんの状況について,がん全体の死亡率を見ると六位であるものの,二十〜三十代では発症率・死亡率ともに一番高いことや,百種類近くのHPV(ヒトパピローマウイルス)のうち,十六,十八型などのハイリスクHPVに感染すると発がんしやすいことを説明.原因が分からないがんが多いなかで,子宮頸がんは,原因が分かり予防が出来る稀有ながんだとして,ワクチンの有用性を強調するとともに,発がんには数年〜十数年かかることから,がん検診の啓発や広報を呼び掛けた.
高機能自閉症児への対応例を紹介
引き続き,「普通学校における高機能自閉症の子どもをどのように考えるか」をテーマにシンポジウムが行われた.
平岩幹男Rabbit Developmental Research代表は,医師の立場から,高機能自閉症について,よく見られる障害でありながら,知的能力が劣っていないため,きちんとした診断や治療が受けられないケースが多いことを指摘.早期に社会生活訓練を始め,才能や適性を生かした具体的な将来設計を描き,社会で生きていけるよう育てるべきだとした.
大河内修愛知江南短期大現代幼児学科教授は,臨床心理士の立場から,高機能自閉症児に,(1)知能の発達に大きなばらつきが見られる(2)興味の偏りが強い(3)感覚の過敏性がある(4)多面的な情報の統合が困難―などの特徴があることを解説.作文を利用し,言語化作業による感情・思考の開放を行っていることなどを紹介した.
中込美惠子静岡県長泉町立南小学校養護教諭は,養護教諭の立場から,ある生徒との四年間のかかわりを通して,高機能自閉症児が落ち着いた学校生活を送るために保健室が出来る取り組みの考察を述べ,学校医や専門医療機関との連携強化を要望した.
佐藤優美子愛知県自閉症協会副会長は,保護者の立場から,親は子どもの障害を受け入れるのに時間がかかることや,相談先がなく悩んでいることなどを訴え,まず学校医に相談を聞いてもらいたいとした.治療に際しては,方法や時間など具体的な説明があると,高機能自閉症児が安心することを説明.また,愛知県自閉症協会「つぼみの会」が行っているさまざまな活動を紹介した.
その後,フロアとの質疑応答が活発に行われ,石川常任理事が,「日医では,学校保健を地域医療の一環として位置付けることを提唱していく.本日,研鑽された成果を地域医療の場で役立てていただきたい」と結び,閉会となった.
参加者は二百四十六名.
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