日医ニュース
日医ニュース目次 第1192号(平成23年5月5日)

視点

国際交流について

 震災の前には環太平洋経済連携協定(TPP)のニュースが日夜報道されていた.
 TPPは,二〇〇六年にシンガポール,ブルネイ,チリ,ニュージーランドの四カ国で締結された自由貿易協定を広く太平洋地域全体に適応する構想である.これまでオーストラリア,ペルー,アメリカ,ベトナム,コロンビア,カナダ等が参加を表明し,台湾,フィリピンが参加の意向を表明している.
 我が国でも昨年十月に菅直人首相の指示により検討が始められ,本年二月から全国で公開討論会「開国フォーラム」が開催されている.各地のフォーラムでは参加者の多くからTPPに関する情報の不足と政府の拙速な対応に批判が出されていると報道されている.
 この問題は当初農業だけの問題と受け止められていたが,実はほとんどの産業に関係することが分かってきた.医療に関することでは,医師を始めとする医療職専門資格者の国境を越えた移動やメディカルツーリズムのような,医療本体への影響が大きい医療サービスの自由化などが危惧される.
 日医では国民医療に影響を及ぼさないよう,「日本の医療を守る国民運動」の展開を各医師会にお願いし,各地で集会を開催していただいている.国民の安全な医療の確保にTPPがどのような影響をもたらすのか,不明な点が多いなか,「いつでも,どこでも,誰でも安心出来る医療」を受けることが出来る我が国の国民皆保険制度が揺らいではいけないとの思いからである.
 三月初旬にアジア大洋州医師会連合(CMAAO)の特別委員会が日医会館で開催された.
 参加国の多くはTPP参加を表明している国であるにもかかわらず,医療専門職の国境を越えた移動を懸念する声が多く出された.
 自国で育てた医師を含む医療専門職が国外に流出することで,自国内の医療を行うのに不足が起きているという話があり,なかでも医師資格を持っている人が,看護師として経済的に豊かな国に移動するとの話には,経済の自由と医療との関係につき,私どもは日頃から十分注視しておかなければならないとの思いを強くした.
 我が国が安定した公的医療保険制度を確立していることの重要さを政府のみならず,国民一人ひとりが認識しなければならない.
 また,医療の安全と質の高いケアのため,政府が医療者の就労環境の改善を図る財源をいかに確保するかが,「人にやさしい政治」の姿であろう.

(副会長・横倉義武)

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