日医ニュース
日医ニュース目次 第1193号(平成23年5月20日)

第124回 日本医師会定例代議員会
会長あいさつ

原中勝征 会長

 第百二十四回日本医師会定例代議員会に,早朝からご出席賜り,ありがとうございます.また日頃の会務の執行に当たりまして,ご指導,ご鞭撻をいただき,厚く御礼を申し上げます.
 三月十一日に東日本大震災が発生し,一カ月半が過ぎました.今なお,行方不明の方が大勢おられます.医師会員では岩手,宮城両県で十一名が亡くなられ,現在も四名が行方不明です.ご家族,ご友人の方は,どんなにかご心配でありましょう.自宅を離れ,過酷な環境の中で避難されている方もいらっしゃいます.心から,お見舞いを申し上げます.
 被災地の医師,医療関係者は,わが身,家族を顧みず,献身的に必死の活動をしておられます.日医が派遣をお願いしましたJMAT(日本医師会災害医療チーム)の先生方も,混乱のなか,今なお懸命の医療を行っていただいております.改めてお礼申し上げます.
 大震災直後,急性期の入院患者さんが多く,大変厳しい状況に置かれました.そして,今,避難生活が長引き,多くの方々が,心身の不安,不調を訴えておられます.しかし,医療は行き届いてはおりません.
 国民皆保険の日本において,医療を受けられない方々がおられるのであります.医療者として,これほど辛く,哀しいことはありません.
 被災地に一刻も早く,医療を取り戻さなければなりません.そして,日本の医療を大震災以前にも増して安全で安心な姿に再生していかなければなりません.このことを,私は強い決意をもって,国民の皆さまにお約束いたします.

この一年を振り返って

 さて,私たち新執行部が発足してから,一年が過ぎました.当初,「ねじれ執行部」とのご指摘を受けましたが,私は,代議員の先生方に選ばれた役員の方々が,国民を思うこと,会員を思うことで心一致し,必ず立派な執行部が出来るものと確信しておりました.そして,今回の東日本大震災による未曾有と言われる危機にあっても,これまでに培った結束力で,役員の方々が全力で医療再生に邁進しておられる姿を見て,私は自分の考え方が間違っていなかったということを確信しているところでございます.
 いくつかの経過をお話ししますが,まず,医療政策面では,昨年十一月に「国民の安心を約束する医療保険制度」を発表しました.国民皆保険は,優れた保険制度でありますが,国民健康保険制度内に多くの無保険状態の人が存在し,被用者保険との保険料格差があるなど,問題を抱えています.そこで,私たちは,公的医療保険制度の一本化を提言しました.保険料が安くて済んでいる被用者保険に,平均的な保険料の捻出をお願いするというのは簡単なことではないと思いますが,国民皆保険を守るに当たっては,この問題を避けて通ることは出来ないと思っております.
 地域医療に関しては,日医が,地域医療再生計画を評価する厚生労働省の有識者会議に参画し,都道府県医師会の代表者からのヒアリングを実現することが出来ました.また,地域医療再生計画作成指針には,都道府県は地元医師会の意見を聞いて計画を作成するようにという文面も入れていただきました.先生方のご協力が必要になりますが,医療連携を中心とした地域医療を構築するために,今度の地域医療再生基金を十分に活用していただきたいと思います.
 介護保険においては,介護療養病床が平成二十三年度末で廃止される予定でした.私たちは,現状の調査を行い,介護療養病床から他に移ることが出来る患者さんがほとんどいないという事実を,データとして政府に届けました.その結果,廃止は六年間延期になりました.今回の大震災からも,現場での介護と医療は決して分かれているものではなく,一つの線上にあるものであると確信いたしました.この経験を活かし,今後,政府にこの問題を真剣に考えていただこうと思っております.

東日本大震災への対応

 JMATにつきましては,委員会での論議が尽くされ,計画としてはつくられていました.しかし,実行する機会がいつになるかと考えていた矢先に,この大震災が起こりました.
 三月十五日に,日医の災害対策本部から,全国の先生方に大至急チームをつくっていただくようにお願いしました.同時に,現場の先生方にどの地域にどれだけのチームが入ればいいのか,どういう医療が必要かということをお聞きし,マッチングをしながら,地域別に担当していただきました.その結果,私たちが考える以上に全国の先生方からお申し出がありました.初めは,一カ月程度で落ち着くと見込んでおりましたが,現在も百数十チームが現場におられ,今までに,派遣済みを含み約六百六十チームが現場に入られました.
 政府のDMATは四十八時間で終わってしまいますが,その後は私たちのJMATがずっと活動しております.今までは各医療団体が別々な行動をとっておりましたが,今回はJMATとして一つになって行動を起こすことになり,大変な進歩だと感じております.予想以上の悲惨な現場に行かれた先生方には,JMATの今後の対策に関する大きな示唆を与えていただけるものと思っております.
 また,議長の石川育成岩手県医師会長から,検視等による死体検案書を書ける医師を派遣して欲しいという要望があり,警察医を中心とした検視経験のある先生方を現場に派遣いたしました.
 これから,被災県の医師に少しずつ代わってもらわなければいけませんが,どうしても医師が足りないところには,改めてJMATの派遣をお願いすることもあると思いますので,その時はよろしくお願い申し上げます.

現政権に対して

 それから,新執行部が,現政権にどのようなスタンスで臨んでいくかということを申し上げます.
 執行部が発足した当初,行政事業仕分けにおいて,福祉医療関連の貸付事業を行う福祉医療機構を仕分けの対象とするとの方向性が打ち出されましたが,私たちは継続を強く要望しました.結果的には現状維持となり,これが,今度の大震災からの復興に活用されることを期待しております.
 震災後,私が日医会長として現場に行くとなると,被災県の先生方にご迷惑が掛かると思い,一人で現場の視察に参りました.私が生まれた福島県・浪江町は,福島第一原子力発電所から十キロメートル圏内であり,二度と私の生まれた故郷は再興されることはないと思いました.それから,高等学校のありました町は,まさに原発のある町であり,こちらも決して再興されることはなく,私は自分の故郷を失ってしまいました.
 また,宮城県の浜辺も見て参りました.震災の発生から三週間を過ぎた頃でありましたが,道路の端々には,がれきからご遺体の手足が見える状態がまだ残っておりました.しかも,そこには二万二千人の避難された方々がおり,壊れた家で食べ物もなく過ごされている方もいる.食事は朝と夕方二回だけで,自衛隊の炊き出しも足りず,トイレもありません.その地域に入った時の,あのにおいは今でも忘れません.
 いったい政府は何をしているのか,こんな日本の政府でいいのかと,私は大変な憤りを感じまして,早速政府に厳重な抗議をいたしました.
 その結果,その地域にすぐに官僚が視察に行き,同じような報告をしました.それまで政府は原発のことしか頭にありませんでしたが,仙谷由人氏を復興担当として官房副長官に任命し,「被災者生活支援特別対策本部」を立ち上げました.本当にいったい今の政府は国民をどう思っているのか,心から憤りを感じております.
 各県の先生方から,毎日さまざまなメールを受けましたが,そのなかで,最も皆さんが苦労していたのは,あの寒さのなかで,ガソリンもなければ灯油・軽油もないということでした.五つのガソリンスタンドがあるとすると,二つくらいしか開いていない.そういう状態では,医療従事者が人を助けることも出来ないということをつくづく感じました.
 私は,まず,自分の出来るところからということで,茨城県で特別の通行許可証をもらい,高速道路を走ってみました.ほんのわずかだけ直せば走れる状態だったので,大畠章宏国土交通大臣に直接電話をし,高速道路を開通していただきました.タンクローリーが走るようになり,茨城県は,二日後にはガソリンスタンドで並ばないで済むようになりました.
 一方,東北地方の被災地では,雪も降っているのに燃料がありません.大畠国交大臣とお話しした結果,東日本や日本海を通る鉄道を通すということが最良の策だということで,岩手県は青森からUターンをし,宮城県は仙山線を使い,福島県は磐越西線を通れるようにしてオイルの運搬を実現させていただきました.
 現場からの声が,医師会の先生方の声だけでなく,県の声ですら全く政府に届いていないという日本政府の在り方は,慣れていないということで許せることではないと思っております.

日本の医療再生に向けて

 医療に関しては,被災された方々を支援する「被災者健康支援連絡協議会」を立ち上げることになりました.
 初めて,日本医師会,日本歯科医師会,日本薬剤師会,日本看護協会,全国医学部長病院長会議,日本病院会,全日本病院協会が一つとなり,政府に提言するという組織が出来ました.私が代表に,横倉義武副会長が事務局長になりました.これから国民の皆様のために,誠心誠意,一日も早く以前の医療環境をつくることが出来るように努力したいと思っております.
 自分の家が残っていても放射能汚染で帰れない方々,津波によって町全体が破壊されてしまった方々の,これからの生活をどう維持していくか,また,そこに,誰もが,いつでも,どこでも受けられる医療をいかに構築していくかということを,私たちは政府に提言して参ります.今後とも先生方のご指導をいただきながら,国民のための日本医師会になっていきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします.

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