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第1194号(平成23年6月5日) |
JMATの活動と今後の課題
五年前に,国際担当として世界医師会 (WMA)アジア─大洋州地域会議を東京で主催した.この時,救急・災害担当でもあり,当時から国際的に関心の高かった,感染症パンデミックと地震・津波など自然災害に対する備え(Disaster Preparedness)の二つをメインテーマに選定し,アジア大洋州医師会連合 (CMAAO)のメンバーと都道府県医師会の参加を得て集中的な議論を行い,会議録を日本医師会英文誌『JMAジャーナル (JMAJ)』特別記念号に特集として収載して出版した.
一方,会内に常設の「救急災害医療対策委員会」では,災害医療に関する討議も行った.兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災),能登半島地震,新潟県中越沖地震などの実際的な検討を加えるうち,阪神・淡路大震災以降創設されたDMAT(Disaster Medical Asistance Team)が四十八時間で撤収した後に,地域の医療ネットワークの担い手である被災した医師会員の活動が自立するまでのサポート体制づくりが,極めて重要であるという点が認識された.そこで,DMATが撤収に入る四十八時間以降,被災した地元医師会が復興するまでをサポートするJMAT(Japan Medical Association Team)の創設が提言され,報告書にまとめて昨年三月十日の記者会見で公表した.
災害は予期せぬ時にやってくるものであり,災害医療ではいつでも対応出来る状態(preparedness)が大切とされる.今回の大震災において,初動のDMATは数的には十分過ぎる対応であったが,残念ながら道路と鉄道など地上のラインの寸断もひどく,多くの搬送業務に至らなかったと考えられる.加えて,現場のレスキューのためには,地元消防や警察の対応能力をはるかに超える津波被害に対して,空や海からマルチの対応が必須だったと推察される.
JMATの活動は,日医の采配と傷害保険の傘の下,基本的にはプロフェッショナル・オートノミーに基づく手挙げ方式の参加による.この枠組みの中で,今般,JMAT活動の派遣が千チームを超えるという結集力をもって実現したことは,ヒューマニズム団体としての医師会の底力を示していただいたものと考えており,深く感謝したい.また,JMATに参加いただいた病院団体や日本薬剤師会など,多くの医療関連団体にもこの場を借りて感謝申し上げる.
JMAT活動に対しては,都道府県医師会長が地方指定公共機関の長として副本部長入りしている都道府県災害対策本部で,災害救助法の適応の下に費用が取りまとめられ,実費支弁されることになる.今後は,今回の活動に事後検証を加えながら,研修体制や円滑な運用などについて検討したいと考えている.
(常任理事・石井正三)
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