日医ニュース
日医ニュース目次 第1197号(平成23年7月20日)

視点

医師不足と偏在の解消に向けて

 文部科学省の「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」は,既存の医学部定員にとどまらず,あるべき医師数等も含めて幅広い議論を展開している.
 医師不足の原因が,絶対数の不足と,医師の地域的,診療科別偏在にあることについて,委員からの異論はない.医師不足については,直近四年間で,既存医学部の定員を約千三百人増員する対策がとられた.これにより人口千人当たり医師数は,今後の人口減少を勘案すると,二〇一五年には一・〇六倍,二〇二〇年には一・一五倍,二〇二五年には一・二七倍になると予測される.今後は,医師過剰にならないように医学部定員の継続的な見直しが大切だ.
 一方で,医学部を新設すべきとの意見も根強い.地方の医師不足を何とかしたいという痛切な思いもあろう.しかし,日医としては,将来の医療に責任をもつためにも,医学部新設には反対である.
 歯科では,歯科医師数の過剰により,大都市を中心に低収入にあえぐ歯科医師が少なくない.二〇一〇年度は十一大学の歯学部で定員割れを起こしている.このままでは,高度な水準の歯科医療を維持することが困難になるのではないだろうか.しかし,医学部新設賛成派から,このような懸念に対する明確な回答はいまだにない.
 喫緊の課題は,医師の偏在解消である.日医は,今年一月,医学部教育と臨床研修制度の見直し案を発表した.基本骨格は,「医学部の所在する当該都道府県で八年かけて地域で医師を育てる」というものであり,医師偏在解消の第一歩にしたいという思いを込めた.この提案に対して,四十七都道府県医師会,病院団体,全国医学部長病院長会議など,幅広く関係者からご意見を頂いた.日医は,さまざまな評価,ご意見を真摯に受け止め,再考を重ねた.そして,この四月に発表したのが,「第二版」である(日医ホームページ掲載).
 第二版では,医学部教育において,六年間一貫したリベラルアーツ教育の必要性を強調した.臨床研修制度については,新医師臨床研修の基本三原則を堅持する立場を明確にし,「根無し草のような医師」が生じないシステムを提示した.また,研修先を「原則として医学部所在の当該都道府県」にするという限定は外したが,研修予定者数と全国の募集定員数をおおむね一致させることで,地域的な偏在解消に寄与することを目指している.日医は,今後も,地域医療を代表する立場から医師養成の在り方の検討を深め,医師の養成を支えていきたいと考える.

(副会長・中川俊男)

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