日医ニュース
日医ニュース目次 第1203号(平成23年10月20日)

中川副会長に聞く
受診時定額負担は国民皆保険制度を揺るがす大問題

 政府は,高額療養費負担軽減の財源として,受診時定額負担の導入を検討している.今号では,医療政策担当の中川俊男副会長にその問題点等を指摘してもらった.

中川副会長に聞く/受診時定額負担は国民皆保険制度を揺るがす大問題(写真) 政府は,高額療養費の負担軽減策のひとつとして,かかった医療費とは別に医療機関を受診するごとに,一定の金額(現状では百円を想定)を患者さんから徴収する受診時定額負担を提案しました.本年七月一日に閣議報告された「社会保障・税一体改革成案」の中にその導入が明記されており,現在は,社会保障審議会医療保険部会を中心として,その導入の是非についての検討が進められています.
 厚生労働省は,受診時定額負担の導入による効果を約千三百億円と試算していますが,これは給付割合を下げることによって受診抑制が生じ,医療費が減少するという,いわゆる「長瀬効果」も見込んだ試算だと考えられます.つまり厚労省は,受診時定額負担の導入により,その負担金と受診抑制による給付費の削減の両方を狙っているのです.

患者の自己負担は三割が限界

 日医は,高額療養費のあり方を見直し,患者負担を軽減することには賛成です.
 しかし,そのために病気などで通院しておられる患者さんに更なる負担を求めることには強く反対しています.
 別掲の図1をご覧ください.この制度が導入された場合の負担額を,若者,高齢者ごとに示してみました.
 若者では,保険給付の対象となる医療費は現在,一回当たり七千三百十円ですが,月二回受診したとすると,自己負担額は四千五百八十円になります.若者の場合,自己負担割合は三割ですが,その割合を超える三一・三%を負担することになるのです.
 また,高齢者の場合,保険給付の対象となる医療費は,一回当たり八千二百円ですが,月四回受診したとすると,自己負担額は三千六百八十円で,負担は一割を超える一一・二%になるのです.
 そもそも,わが国の患者自己負担の割合は,諸外国に比べて,かなり高くなっています.わが国の一般開業医を受診した時の患者一部負担を諸外国と比較した概要を図2に示しましたが,フランスは実質無料,イギリス,イタリアなどでは無料となっています.日本の患者負担は限界にきており,これ以上の負担を強いるべきではありません.
 また,受診時定額負担の考え方は,二〇〇六年六月の「健康保険法等の一部を改正する法律案」が参議院厚生労働委員会で採決された際の附帯決議にも抵触しています.附帯決議には,「現行の公的医療保険の範囲の堅持に努めること」との文言が明記されており,公的医療保険がカバーする範囲を縮少する受診時定額負担は,この点から言っても問題があるのです.
 徴収額が百円と少額であるので,導入しても問題はないのではないかと思う方もおられるかも知れません.しかし,いったん導入されてしまえば,その水準が引き上げられていくことは,過去に患者一部負担割合が引き上げられたことを見ても明らかです.
 受診回数の多い高齢者や病気がちの方などは,負担が大きくなるわけで,その中には受診を差し控え,かえって病気を重篤化させてしまうケースも生じかねません.
 このように受診時定額負担は,国民皆保険制度の根幹を揺るがす大きな問題を抱えており,その導入は絶対に認めるわけにはいきません.
 それでは,高額療養費制度を見直すための財源はどこに求めていけば良いのでしょうか.日医では,その方策として,(1)被用者保険の保険料率を,最も保険料率の高い協会けんぽの水準に引き上げ,公平化を図ること(2)国民健康保険の賦課限度額,被用者保険の標準報酬月額の上限を引き上げ,高額所得者に応分の負担を求めること―等を提案しています.これらを実施することで,約一・八兆円の保険料増収効果が得られますので,十分に財源は捻出出来ると考えます.

中川副会長に聞く/受診時定額負担は国民皆保険制度を揺るがす大問題(図)

中川副会長に聞く/受診時定額負担は国民皆保険制度を揺るがす大問題(図)

日本の医療を守るための国民運動に協力を

 九月二十三日には,第七回国民医療推進協議会総会を開催し,日医を始め,参加団体四十一団体(十月十一日現在,四十団体)の総意として,「受診時定額負担の導入」「医療への株式会社の参入」に反対するため,「日本の医療を守るための国民運動」を展開していくことを確認しました.
 運動の具体的な内容は,(一)国民集会「日本の医療を守るための総決起大会」を十二月九日に日医会館で開催し,決議を採択,(二)都道府県医療推進協議会に対して,以下の三つの事項((1)都道府県医療推進協議会主催の地域集会の開催・決議の採択(2)地方議会会期中の都道府県においては,地方議員・議会に対し,地方自治法第九十九条に則った意見書を国会等に提出するよう要望(3)国民集会への参加)を依頼,(三)全国各地からの決議文並びに国民集会の決議文をもって,政府関係各方面へ上申,(四)署名運動の実施―等です.
 今後は,本活動に執行部一丸となって取り組んでいく所存ですが,会員の先生方にも,ぜひ,日医の主張をご理解いただき,運動にご協力下さいますよう,お願いいたします.

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