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第1207号(平成23年12月20日) |
今こそ,予防医療の充実を
予防医療の重要性については,多くの方の認めるところであろう.
厚生労働省は,次期国民健康づくり運動プランの策定に向けて専門委員会を設置し,その検討を開始した.
厚労省健康局長は,「がん対策推進室,生活習慣病対策室,地域保健室,保健指導室を束ねて,がん・健康対策課の設置を検討している」と述べている.
これは,がんや生活習慣病などを非感染症(NCD)として一本化する世界的な流れに対応する目的もあると考えられているが,ともすれば縦割りで非効率であったわが国の保健政策を,一つの大きな流れの中で真に国民のために役立つ政策としていくための大きな手がかりとなるものと考えている.
健診・検診(以下,健診という)については,がん検診とその他の生活習慣病健診はリンクして行ってこそ,その意義があることは明らかである.
老人保健法で定められていた住民基本健診が,高齢者医療確保法で定められた特定健診に代わったことにより,さまざまな問題が生まれていることは皆様ご承知のとおりである.ここで健診の原点に戻り,真に国民にとって望ましい健診を求めて,新たな枠組みをつくる必要がある.
健診項目として何が必要であるか,多くの国民が健診を受けられるためにどのような仕組みがふさわしいか,など根本から検討し直すことが望まれる.
厚労省保険局が所管している「特定健診・特定保健指導」についても,現在,「保険者による健診・保健指導等に関する検討会」や健康局所管の「健診・保健指導の在り方に関する検討会」が立ち上げられ,医学的視点から健診,保健指導の在り方について議論が開始された.
わが国の健診の在り方を大きく変える可能性のある重大な時期を迎え,この機を逃がせば,今後,不毛の年月が続く可能性がある.
一方,予防接種については,厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会で予防接種法の改正の議論がなされてきた.Hib,肺炎球菌など,定期接種化されていない八つのワクチンのファクトシートを基に検討し,同部会として,これらワクチンの定期接種化を求めているが,財源がネックとなり,いまだ実現していない.
更に,同部会では定期接種化の問題以外にも,予防接種に係る評価・検討組織の設置等について提案されたが,その後大きな進展は見られない.
昨年,日医が署名活動を含めて予防接種キャンペーンを展開したことなどもあり,予防接種についての国民の関心が高まり,盛り上がりを見せている今をおいて,積年のわが国の予防接種行政の遅れを取り戻すチャンスはない.
不活化ポリオワクチンの導入の遅れによる混乱を見ても,今後このような事態を引き起こさないために,早急に新たな一歩を踏み出す必要がある.
予防医療の充実に向けて国の更なる前向きな対応を望んでやまない.
(常任理事・保坂シゲリ) |