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第1211号(平成24年2月20日) |
誰のための「看護師特定能力認証制度」か
いわゆる「特定看護師(仮称)」問題について,昨年十一月,厚生労働省が「看護師特定能力認証制度骨子案」を示した.「特定行為」を法令上に定め,一定の教育を修了し,大臣の認証を受けた看護師は,医師の包括的指示での実施が可能で,認証がない看護師は安全体制を整えた上で具体的な指示を受けて実施するというものである.
日医が実態調査を基に,「現場では既に多くの医行為が,医師の指示の下に診療の補助として実施されており,新たな業務独占資格を創設すれば,一般の看護師の業務縮小につながり,地域医療が成り立たない」と主張してきたことを受けて,厚労省は業務独占も名称独占もない「認証制度」とし,一般の看護師も具体的指示があれば,実施出来るという案を出してきた.しかし,ますます制度創設の意味が不明瞭である.
業務独占でなければいいという問題ではない.看護師自身は,認証がなければ実施を躊躇(ちゅうちょ)するだろう.また,患者は,「認証のない看護師にはやって欲しくない」と思うだろう.現場で事実上実施出来ない事態が生じ得る.
また,「特定行為」が「診療の補助」を超えて医師が行うべき医行為に及ぶ懸念もある.一月二十四日の看護業務検討WGに厚労省が示したたたき台では,「非感染創の縫合」や「腹腔穿刺(一時的なカテーテル挿入を含む)」なども含まれている.これが患者のためのチーム医療の推進に必要なことなのか.医療安全の危機を禁じ得ないのは,会員諸兄も同様であろう.国民は,リスクの高い行為を看護師が行うことは決して望んでいない.
看護界も意見が割れており,現場の看護師からは,「看護師がすべきことはもっと他にある」「そんな看護師を養成するよりも看護師の数を増やして欲しい」「訪問看護の現場では,具体的指示でなければ出来なくなると困る」という声が出ている.
医療現場や患者の不安をよそに,厚労省は今通常国会への法案提出を目指している.国民の生命に関わる重大な問題であり,関係者や国民の合意なきままに,社会保障・税一体改革ありきで法制化を急ぐことは認められない.
今すべきことは,看護師が診療の補助として実施出来る行為を整理し,必要に応じて通知等で示すことである.安全に実施出来るよう,看護師が研修等を受けて自己研鑽を積み,看護の道を究めることは大事である.既に,日本看護協会の認定看護師や専門看護師は現場で役割を果たしている.
看護師という国家資格の上に,業務経験五年後に八カ月あるいは二年間の研修を受けた者を,更に国が認証する必要はない.
看護職員不足にあえぐ地域の現場が求めているのは,一般の看護職員の増員であって,「認証を受けた看護師」ではない.厚労省は,認証制度創設に多くのエネルギーと財源を浪費している場合ではない.
今後とも,医療安全の視点を第一に,現場が混乱することのないよう対応していきたい.
(常任理事・藤川謙二) |