日医ニュース
日医ニュース目次 第1213号(平成24年3月20日)

第XII次生命倫理懇談会
「移植医療をめぐる生命倫理」についての答申まとまる

 第XII次生命倫理懇談会は,このほど,原中勝征会長からの諮問「移植医療をめぐる生命倫理」に対する答申を取りまとめ,2月22日に久史麿座長から原中会長に提出した(答申の全文は日医ホームページ参照).

第XII次生命倫理懇談会/「移植医療をめぐる生命倫理」についての答申まとまる(写真) 本答申は,二年間にわたり本会議七回,作業部会一回を開催し,鋭意検討した結果を取りまとめたものであり,(一)脳死と臓器移植,(二)組織移植,(三)生体臓器移植―の三分野について,それぞれの現状や問題点を分析し,その解決策等を提言している.
 (一)では,二〇〇九年に改正された臓器移植法について,提供者に提供意思能力のない場合でも遺族の意思で臓器提供を可能としたことにより,「小児脳死臓器移植」の途(みち)が開かれたこと等を評価する一方で,(1)知的障害者等は,その年齢にかかわらず,臓器摘出を行わないとしている(2)臓器提供の場合に限って,児童虐待の疑いを打ち消すために履行すべき特別な義務を導入し,それを履行しなければ小児の臓器提供を行わないとしている―こと等,さまざまな問題もあるとして,その改善を求めている.
 また,臓器提供・移植の際には,患者及びその家族のプライバシーの保護と社会からの情報公開の要請とが衝突することも少なくないとし,その場合にはあくまでも患者の権利保護の立場に立つことが原則であるとしている.
 (二)では,各組織の個々の専門医や施設の取り組みをベースに,学会レベルで全国的な整備と充実が図られてきたわが国の組織移植の現状を説明した上で,このような自主的努力には限界があるとして,財政面での公的支援の拡充を求めている.
 今後に関しては,各組織バンクが品質保証を高める取り組みを続けるだけではなく,組織移植も臓器移植法の対象に含める法改正を広い視野で検討するとともに,倫理面での適正さと透明性を一層高める努力が望まれるとしている.
 (三)では,生体臓器(主に肝・腎)移植,造血幹細胞移植について,それぞれの生命倫理問題をまとめている他,生体移植に関しては,経済格差が組織的な臓器取引につながりかねない恐れが現実化してきており,国内でも臓器売買の防止に厳正に対処する必要があるとしている.
 また,生体移植を受けるために日本への渡航,滞在を誘致する事業を始めることを意図した「神戸国際先端医療特区構想」の問題にも触れ,医療ツーリズムが世界的に進む中で,日本が生体移植や再生医療の規制の緩い,倫理の回避地として利用される危険性が高まってきているとして,日医に対して,関係各方面と連携して一層適切に取り組むことを求めている.
 なお,答申の巻末には,死後の人体の取り扱いという観点から,同懇談会で議論した「人体の不思議展」に関する見解も付記している.その中では,遺体の扱いにおいて人の尊厳に反する同展は倫理的に認められないとした上で,死後の人体の扱いについて,人の尊厳を侵すのはどのような場合か,社会に問題を提起し,議論を喚起して,明確なルールを定める新たな立法を考えていく必要があると指摘.日医に対しては,会員や医師,医学生などに対し,改めて死後の人体の尊厳のあり方について啓発や教育を進めていき,同展の営業等に関わらないよう,訴えていくべきとしている.

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