日医ニュース
日医ニュース目次 第1214号(平成24年4月5日)

平成23年度医療政策シンポジウム
「災害医療と医師会」をテーマに

 平成23年度医療政策シンポジウムが,「災害医療と医師会」をテーマに,3月11日,日医会館大講堂に363名の参加者を集めて開催された.当日は,9つの講演とパネルディスカッションが行われた他,東北地方太平洋沖地震発生から1年となることから,発生時刻に出席者全員で黙が捧げられた.

平成23年度医療政策シンポジウム/「災害医療と医師会」をテーマに(写真) 高杉敬久常任理事の総合司会で開会.冒頭のあいさつで,原中勝征会長(横倉義武副会長代読)は,「東日本大震災発災から一年を迎え,地域の医療体制の再構築には,今も多くの課題が山積している.医療に携わる者として,医療という社会的インフラを再構築することで,地域コミュニティの復活に貢献していかなければならない.今回のシンポジウムが実現したことは誠に意義深く,尊い犠牲の上に得られた貴重な経験を生かして,大災害に対してより万全の準備を整えるための一助となるように願ってやまない」と述べた.

災害医療に関する講演

震災の犠牲者に黙を捧げる参加者

 講演に移り,初めに,「東日本大震災とJMATの活動」と題して,石井正三常任理事が講演.同常任理事は,日本医師会災害医療チーム(JMAT)の概要を説明し,一日で最大百チームが同時に支援活動をし,本年三月七日までに,JMAT,JMATIIを合わせて,延べ千八百四十五チーム,七千三百五十九名が支援を行ってきたと報告.今後の課題として,「情報共有手段の確立」「チーム間や被災地の医療機関とのスムーズな引き継ぎ」「行政との防災協定の見直し」が重要であるとした.
 続いて,石井常任理事が座長を務め,「東日本大震災 日医総研の研究・対応」として,畑仲卓司日本医師会総合政策研究機構(日医総研)研究部統括部長・主席研究員が講演.日医総研では,発災に対応して研究テーマを設定して,震災に関連する諸問題について研究を行ってきたと説明.福島県医師会をサポートし,東京電力への原子力災害賠償について,被害者に不利な合意書の文言削除と簡便な請求方式が実現出来たことなどを報告した.
 「災害医療と医師会」では,ホセ・ルイス・ゴメス・ド・アマラール世界医師会長・前ブラジル医師会長が世界各地で起きた自然災害,戦争やテロなどを示し,「世界に安全な場所など存在しない」と強調.これらの問題への世界医師会の対応として,医師が専門領域を超えて災害に対する訓練を受ける必要性を考慮し,昨年十月に「災害対策と医療の対応に関するモンテビデオ宣言」を採択したことを説明した.
 「人道支援活動のための国際基準」では,ステファニー・ケイデンハーバード大学医学部国際救急医学フェローシップ部長が,今回の災害は,多くの住民の避難により公衆衛生の緊急事態に陥る危機もあったとして,人道支援活動の重要性を訴えた他,人道支援の現場で支援者が守るべき最低基準として,スフィア スタンダードを紹介.基本的な健康ニーズ(避難所,水,衛生,食料,医療)を満たすとともに,被災者のプライバシーの保護等,支援の提供方法も重要となると述べた.
 「東日本大震災後の復旧はどうあるべきか―公衆衛生の立場から」として講演したマイケル・ライシュハーバード大学公衆衛生大学院教授は,今回の震災は,「地震」「津波」「原発」の複合的な災害が影響し,非常に複雑な結果を生み出していると指摘.更に,災害発生後の防災対策については,「ケア」「補償」「クリーンアップ(除染)」が重要な要素であるが,今回は社会的政治的問題,心理的問題も含むことから,長期的な対応が必要になるとした.
 「災害支援における医師会の役割」では,ジェームス・J・ジェームスアメリカ医師会救急医療担当役員が,災害が起きた際には,ボランティアとして多くの人が支援を申し出るが,支援を行うための訓練等の準備が必要であるため,「医師であっても実際には二割程度しか十分に対応出来ないだろう」と述べた.また,アメリカ医師会の訓練カリキュラムを紹介し,「全ての医療従事者は第二専門分野として,災害医療と公衆衛生を身に付けるべきだ」と主張した.
 休憩を挟み,座長を中川俊男副会長に交替した後,「『平時の戦争』としての医療」として,小川和久軍事アナリスト・国際変動研究所理事長が講演.小川氏は,災害に対する平時からの危機管理の重要性を説くとともに,危機管理の基盤は「民心の安定」とした上で,日本の活力を取り戻すため,「医療が先頭に立ち,政府に立ち居振る舞いを教えるべき」と主張.また,「ドクターヘリによる『一点突破全面展開』」として,ドクターヘリを利用した地域活性化のグランドデザインを提案した.
 「福島第一原発事故と放射線被ばくについて」では,明石真言放射線医学総合研究所理事が,放射性物質の大量放出による被害は,目で見られず,感じることが出来ない特殊な災害であると説明.平成二十二年度に改訂された,文部科学省の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」には,日医救急災害対策委員会からの後押しにより,「放射線等と生体」に関する項目が加えられたことを紹介し,「医師も正しい知識を持ちながら対応することが重要」と述べた.
 「災害医療における救急医の使命」として講演した坂本哲也帝京大学医学部救急医学講座主任教授・同附属病院救命救急センター長は,震災時のDMAT(災害派遣医療チーム)の活動を紹介.災害医療に関わる医師は,超急性期のDMATの活動時期を過ぎても多大な災害医療ニーズに応える必要があるとした他,災害医療を担う人材の育成のためには,日常における災害医療の普及啓発活動と医学部等での災害医学教育が不可欠であるとした.

パネルディスカッション

 横倉副会長と小林國男帝京平成大学健康メディカル学部教授・日医救急災害医療対策委員会委員長が座長となり,「災害医療と医師会」をテーマとしたパネルディスカッションが開かれた.
 世界での災害対応について,アマラール氏は,「世界でも災害対応を行う組織は多くあるが,JMATに相当するものは初めてである」と指摘.日本での災害対応については,ケイデン氏が,「JMATの対応は,おおむね成功したと考える.しかし,仮設住宅やケアの課題が残る部分もあり,将来への準備をすることが重要」と述べた.
 また,福島県でのケアについては,ライシュ氏が,「政府の活動のみでは諸問題の解決には至らず,医師会からも支えることが重要」とした他,石井常任理事は,「福島県民の不安は日本中に広がっている.福島にナショナルセンターを設立し,安心・安全を目で見える形で示すことが必要」と述べた.小川氏は,「被災者ケアは医療の問題だけでなく,被災者が明日への生きる希望を失わないケアが必要」として,被災者への定額の現金支給などを提案した.
 更に,日本における放射線教育については,明石氏が,「今までは,原子力発電所がある地域のみで行われていたが,それ以外の地域でも教育が必要であることが明らかになった.どこでも,誰でも講習を受けられる環境を作っていきたいと考え,国に提案している」と述べた.
 救急医教育に関しては坂本氏が,「救急医による災害医療の講義では,トリアージ等の話になりがちであるが,本来はスフィアプログラムのような避難所の公衆衛生的な基準を学ぶことが大切」とした.
 また,ジェームス氏が災害教育には,(1)生涯教育という視点(2)フォローアップ(3)ハイリスク分野での想定―が必要と訴えたことに対して,小林座長は,「JMATはまさに生涯教育の一環として考えており,われわれは正しい道を歩んでいることを再確認し,気を強くした」と述べた.
 その他会場からは,武見敬三日医総研特別研究員より,「本日の講演により,国境を越えて人間性に基づく連帯意識を持つことで,国連や他国と連携し,さまざまな脅威に対応するという時代に入ったことを認識した」との発言もあり,最後に,羽生田俊副会長のあいさつによって,シンポジウムは盛会裏に閉会した.
 本シンポジウムの詳細は,記録集(『日医雑誌』七月号に同封予定)を参照.

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