日医ニュース
日医ニュース目次 第1214号(平成24年4月5日)

日本医師会「JMATに関する災害医療研修会」
医療支援活動に必要な知識と技術の習得を目指して

日本医師会「JMATに関する災害医療研修会」/医療支援活動に必要な知識と技術の習得を目指して(写真) 日本医師会「JMATに関する災害医療研修会」が三月十日,日医会館大講堂で開催された.本研修会は,わが国で起こり得るさまざまな災害に対して,JMATによる医療支援活動を行うために必要な知識と技術を学ぶことを目的とし,生涯教育の一環として,初めて実施されたものである.
 冒頭あいさつした原中勝征会長は,JMAT活動に対する協力に改めて感謝の意を示した上で,「本日の研修会で得た知識を基に,将来起こり得る災害に備えた対策を各地で考えてもらいたい」と述べた.
 引き続き,JMATの総論について解説した石井正三常任理事は,来るべき災害に備えて,JMATの環境整備が必要だとし,その具体例として,(1)医師会・行政等間,医師会間の災害時医療救護協定の締結(2)防災計画や「五疾病五事業」へのJMATの位置付け(3)医療機関の災害対応能力の向上―等を挙げた.また,JMATの活動内容,チーム編成,コーディネイト機能などの説明を行った.
 ハーバード大学人道支援イニシアチブ(HHI)のケイデン氏は,今回の東日本大震災における人道危機は,大量の避難民に加えて公衆衛生的危機が生じたものであったとした上で,国連が中心となって行われている人道危機への対応を説明.更に,「伝染病の蔓延(まんえん)は防ぐことが出来ない」「誰でもいいから,外国から医療者が必要」といった災害にまつわる迷信を紹介し,「人道支援に当たってはそのような迷信に惑わされるべきではない」とした.
 HHIのアグラワル氏は,公衆衛生活動の国際標準「スフィアスタンダード」に示された四分野(水と衛生,食料と栄養,シェルター,保健医療)の最低基準について解説.人道危機に対応するためには,被災者だけではなく,支援者に対しても心理的なサポートが必要だと強調した.
 HHIの有井麻矢氏は,人道支援や災害援助を効果的に行うために必要とされる初期迅速調査の項目や方法等について説明.得られた情報をさまざまな角度から確認するとともに,現地の自治体や医療従事者,支援団体と共有することが大事になるとした.
 DMATとJMATの役割等について解説した小林國男帝京平成大学大学院健康科学研究科長は,DMATとJMATの役割分担と円滑な引き継ぎが出来れば,シームレスな医療支援が可能になると指摘.「その実現のためにも,各地域の医師会は,医療をコーディネイトする際の中心的な役割を担うべきだ」と述べた.
 郡山一明原子力安全研究協会放射線災害医療研究所長は,放射線に対するリスクが高まっている中で,その準備が遅れている日本の現状を危惧するするとともに,医師に対しては,「放射線に対する知識を国民に知らせるだけではなく,国民が何に対して不安に思っているのかを国に伝える役割が期待されている」と述べた.
 東日本大震災における自身の検死・検案活動を紹介した大木實福岡県医常任理事は,検死の際に必要なこととして,(1)歯科医師の立会(2)床上ではなく,適当な高さの検死台を使用する(3)検死場と死体安置所は隔離する―等が挙げられると説明.また,日本警察医会の活動にも触れ,「新しい死因究明制度の構築に向けて,今後も日医と協力していきたい」と述べた.
 箱崎幸也自衛隊中央病院第一内科部長は,地下鉄サリン事件等を例に,日本でも特殊災害は身近なところで起こり得ると指摘.原因不明のショック,意識障害,神経障害などを診察した場合には,生物・化学テロ(特にICD:意図的な化学災害)を含む特殊災害を疑うことも必要だとした.
 山本太郎長崎大学熱帯医学研究所国際保健学分野教授は,新型インフルエンザによるパンデミック対応について解説.公衆衛生学的感染症対策と医学的対策を組み合わせて流行を遅らせることがその対策の基本になるとした他,今後は,流行が連続して起きた場合や大規模な地震と同時に起きた場合の対応についても検証する必要があるとした.
 その後は,演者と約二百名の出席者との間で活発な意見交換があり,最後に確認テストが行われ,研修会は終了となった.

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