日医ニュース
日医ニュース目次 第1216号(平成24年5月5日)

横倉会長
今後の会務に対する所信を改めて説明

横倉会長/今後の会務に対する所信を改めて説明(写真) 横倉義武会長は四月四日,羽生田俊・中川俊男・今村聡各副会長と共に記者会見を行い,今後の会務運営に対する所信を改めて次のように説明した.
 今期の日医の会務については,政権交代直後という厳しい状況の中での原中勝征前会長の実績を尊重しつつ,継続すべきところは継続し,発展させるべきところは発展させながら,よりスピード感をもって取り組んでいきたいと考えています.
 会長選挙の間,私が一貫してお話ししてきたことは地域医療の充実ということでした.二〇〇〇年頃から,診療報酬の厳しい抑制等で,地域の医療は崩壊の危機に瀕してきましたが,そんな中で,二〇一〇年と二〇一二年の改定において若干ではありますが本体プラスの改定となり,崩壊しつつあった地域医療は少しずつではありますが回復の兆しが見えてきました.しかしながら,個々の地域を見てみますと,山村部を中心に医療資源が不足している地域が拡大しており,大都市においても,町の再開発によって,診療所が移転した場合に,移転先で開業しようとすると,長年地域医療に従事してきた先生方が保険指導の対象者となってしまうといった問題も残っています.このようなことを考えますと,まだまだ地域医療をより充実させる方向に努めていかなければなりません.
 また,その際には,各地域の意見をくみ取ることが大事になると考えています.そのため,現在年に二〜三回開催している都道府県医師会長協議会を出来るだけ多く開催したいと考えておりますし,各都道府県医師会には,それぞれの地域の特性を分析してもらうだけではなく,市民教育や地域ケアを考えるような地域医療のシンクタンク機能を果たしてもらえるようにお願いしていきたいと思います.

医療の本質を理解してもらうため,日医の綱領を策定へ

 超高齢社会への対応についてですが,わが国では,二〇二五年から二〇三〇年にかけて,超高齢社会を迎えることになり,特に大都市周辺部においては急速に高齢化が進むため,お亡くなりになる方も当然増えてくるでしょう.そういう方々にどういう終末期を迎えてもらうことが出来るか,更にはどのような医療を提供出来るかということは日本社会全体の課題になると思われます.そのような状況において,われわれ医療提供者側から,高齢社会における医療のあり方に関する考えを提示することが大事であり,そのための検討を開始したいと考えています.
 また,国民に医療の本質について理解してもらうための取り組みも行っていきたいと思います.医療は,さまざまな医療職,医療機関,それと国民,患者との共同作業で行われているものであり,決して医療提供者側や患者の希望のみで成り立つものではありません.そういう医療の本来の姿を国民の皆さんに理解してもらうという努力が,われわれの側に今までは少なかったように感じています.医療の本質に対する国民の皆様の理解を得るためにも,日医としての行動目標というか,理念目標,いわゆる綱領のようなものが必要と考えており,そのための検討の場を立ち上げたいと考えています.
 医師会の組織率に関してですが,日医の会員数は約十六万人ですので,日医の組織率は約六〇%となっています.多くの医療機関では実際に運営を行っている先生方のみが医師会員で,そこで働いている勤務医の先生方は会員でないという状況が見られます.勤務医の先生方にも,医師会の活動をご理解頂き,入会してもらうことで,仲間意識を持ってもらえれば,地域医療をよりスムーズに進めていくことが出来ると考えており,今後も勤務医の先生方の入会促進に取り組んでいきたいと思います.
 勤務医の問題に関しては,三月に勤務医委員会から日医の理事に勤務医枠を設けるべきとの要望書が提出されました.現在,理事は各ブロックの推薦の下に代議員会の承認を得て決められていますが,今期の執行部の理事に偶然ではありますが一名勤務医の先生がおられます.今回のケースは極めて珍しいケースでありますので,今後も何らかの形で日医の活動や意思決定の場に勤務医の先生方が参画してもらえるような方策を考えていきたいと思っています.

診療科偏在の解消には刑事罰に問われない仕組みづくりが重要

 医師不足・偏在についてですが,医師は現在,毎年約千二百人ずつ増えてきており,将来絶対数が不足してくるということはありません.医師を増やすために,医学部を新設するという話もありますが,安易に認めるべきではないと考えています.
 今解決すべき問題は,医師の地域偏在,診療科偏在の問題です.地域偏在の問題は,各大学が地域枠を設けて対応しておりますので,今後充足してくると思われますが,いわゆる,きつい,汚い,危険といった診療科や,訴訟リスクの高い診療科では,確かに医師が不足しています.やはり,訴訟リスクの高い診療科には,それをしっかりとバックアップするシステムが必要であり,刑事罰に問われないような仕組みづくりにも取り組んでいきます.
 わが国の医療費についてですが,年々増えてきており,その抑制のため,混合診療を全面解禁してはどうかとの意見も聞かれます.しかし,混合診療の全面解禁を認めてしまえば,将来的には公的保険の給付範囲を狭めることになり,医療に経済格差が生じることは明らかです.そのため,われわれは安易にそれを認めるべきでないと主張しています.
 もちろん無駄な医療というものがあるのであれば解消すべきですが,医療費の使われ方にも偏在があり,現在大学病院の医療費は急増しています.その背景には,文部科学省からの大学病院に対する補助金が減らされたということもあるのですが,そういった背景の分析とともに,医薬分業によって医療費がどれだけ伸びたかということの検証も必要だと考えています.
 また,昨年三月に発災した東日本大震災への対応についてですが,全国の会員の先生方のご協力を得ながら,発災直後より,JMATという形で対応したわけですが,その後も被災地の地域医療支援という形で活動を継続しております.今後も医療を必要とされるところに関しては,協力していきたいと思います.

現在の国民医療が継続出来ないTPPには強く反対

 次に,国全体の問題に関してですが,ご存知のようにTPPという問題があります.この問題のベースには,一九九〇年代の後半からアメリカより出されている,規制改革や株式会社の医療経営への参入といった要望があると思われますが,こういった要望に対して,日医は,「国民の医療のためには,わが国の国民皆保険を継続しなければならない.それが国民の幸せにつながる」という固い信念の下に,反対してきました.
 当然のことですが,新しい医療技術が,安全で国民のためにつながるものであれば早急に保険導入すべきでありますが,それ以外の営利を目的とした要望に対してはこれからも強く反対していきます.現在の国民医療を継続出来なければTPPには絶対反対ということを三月末の記者会見でも公表しましたが,その考えに今も変わりはありません.
 現在国会で議論がなされている消費税の問題ですが,われわれは適正なる社会保障財源の確保という意味では,ある程度国民の皆様にご負担してもらわざるを得ないと考えており,政府の考えには理解を示しています.
 ただ,医療については,現在,非課税の取り扱いとなっており,控除対象外消費税の問題が依然として残っているわけで,その改善に向けた努力は引き続き行ってまいります.
 このように,われわれの目の前にはさまざまな問題が山積しておりますが,執行部一丸となって,その解決に努めてまいりますので,引き続きご支援ご協力のほど,お願いいたします.

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