日医ニュース
日医ニュース目次 第1218号(平成24年6月5日)

横倉会長,日本記者クラブで講演
国民と共に歩む専門家集団としての医師会を目指す

横倉会長,日本記者クラブで講演/国民と共に歩む専門家集団としての医師会を目指す(写真) 横倉義武会長は五月十六日,日本記者クラブ(一九六九年にわが国の主要な新聞,通信,放送各社が協力して設立したナショナル・プレスクラブ)の昼食会に招かれて講演し,日医の目指すべき方向性等について,おおむね次のように説明した.

二つのテーマが意味するもの

 今回の会長選挙に当たって,私は「継続と改革」「地域から国へ」という二つの大きなテーマを掲げて闘ってきました.
 「継続」とは,医師会設立の本筋である「医師会は国民の健康を守るためにある集団である」ということを実行する,つまり,現時点で言うならば,だれもが,いつでも,どこでも,医療を受けることの出来る日本の医療制度を維持していく,そして,その裏付けとなっている国民皆保険の崩壊を招くようなことに対しては断固反対の姿勢をとっていくという意味です.
 また,「改革」とは,非常に速いスピードで進行する医学の進歩によって得られる恩恵を適切に国民に享受してもらえるような仕組みに変えることを政府に求めていくということです.
 次に,「地域から国へ」ということですが,厚生行政においては,かなりの部分で,しかも細部にわたって国がその方針を決めています.しかし,地方に行けば,医師や看護師が不足している地域もあり,医療の安全に関する部分以外は地域の事情に応じた形にすべきということを意味しています.
 来年四月には,新しい地域医療計画がスタートしますが,それに向けて,現在,各都道府県においては計画策定作業が進められています.これらの計画の策定に当たっても,国が方針を決めるのではなく,各地域の状況に応じたものに出来るよう,国に働き掛けていきたいと思います.

医療・介護の連携強化が不可欠

 日本医師会の目指すべき方向性についてですが,まず,地域医療の再興があります.
 地方において医療が崩壊しているということはよく報道されていますが,東京のような大都市においても,診療所の経営を継続することが今は難しくなっています.
 そういった意味で,地域の医療において何が必要で,何が不要なのかということを各地域で検証してもらい,それをきちんと手当てするよう国に要望していくことも,われわれに課された大きな仕事であると思います.
 次に,地域医療の再興を図る上で重要な医療・介護の提供体制についてですが,日本においてはこれまで,急性期から慢性期,回復期,地域の身近な通院先,在宅医療と切れ目のない医療が提供され,国民の健康と安心を支えてきました.
 しかし,超高齢社会に突入していく中では,「医療・介護の連携」という視点が欠かせないものになっており,その視点に立って,全体的な機能強化を進めていく必要があります.
 そのような状況において,医師会に期待される役割としては,「医療現場の意見を集約して,国・都道府県行政へのカウンターパートナーとして,審議会等,医療計画作成への参画,行政との折衝を行うこと」,また,医療にはさまざまな職種がありますが,そのような「各職種団体,病院団体との連携・協力の確保」,更には,「住民・患者への啓発,医師に対する生涯教育等,かかりつけ医機能を促進していくこと」があると考えています.
 地域における医療・介護の連携に関しては,広島県の尾道市のように,先進的な取り組みを行っている所もありますので,そのような取り組みをモデルとしながら,各地域においても,地域に合った連携体制の構築が出来るよう,今後も協力していきたいと思います.

医療事故調査制度の早期の創設を

 医師不足・偏在の問題ですが,医師不足に関しては,既に既存の医学部定員数は二〇一二年度までに千三百六十六人増えており,この問題は少しずつではありますが解決していくと思われます.医師不足解消のために医学部を新設するという話もありますが,今後も明確に反対していく所存です.
 また,地域偏在の問題についても,現在,各大学が地域枠を設けており,その地域枠で入学した人たちが,ある程度その地域に残ってくれることが期待出来ますので,この問題も解決していくと考えています.
 もう一つ診療科の偏在の問題がありますが,どうしても産婦人科,小児科といった診療科では医師が少ないという状況にあります.
 医療はヒトがヒトに行う行為であり,結果が一〇〇%安全であるということはあり得ません.万が一事故が起こってしまった場合に,すぐに医師が刑事罰に問われるようなことがあれば,その診療科に進む人が少なくなるのは当然のことであり,その問題の解消のためにも,日医では医療事故調査制度を早期につくることを主張しており,その創設に向けて,現在各方面に働き掛けを行っているところです.
 将来を担う若手医師の育成に関しては,今後もさまざまな取り組みを行っていく必要がありますが,その方策の一環として,本年四月には医学部学生向けの情報誌『ドクタラーゼ』を刊行しました別記事参照
 年間に四回程度発行することにしておりますので,学生の皆さんには,ぜひご覧頂き,日本の医療制度をめぐる各種の問題に対する関心を高めてもらいたいと思います.
 医師養成の問題に関連して言えば,臨床研修制度の問題があります.プライマリケア能力を全ての医師が身に着けることは大変重要なことであり,そういった面では制度創設の意義は大きかったと言えますが,臨床研修を受けるに当たってフリーマッチングとしたため,どうしても研修医が大都市に集まり,その他の地域の医師不足につながってしまったということがあります.
 制度自体を否定するものではありませんが,今後はマッチングのあり方や研修の仕組みづくりについて,もう少し検討が必要と考えています.
 また,現在,わが国には,どこの学会にも所属していない医師が多数いるといった問題もあります.
 これらの医師たちは,いわゆる医師の紹介業者に登録して医療機関で働いていますが,本来であれば,臨床研修を終えた後でしっかりとした研修をどこかで行い,その成果を国民に還元すべきであり,日医では,その問題の解決のために各大学に「臨床研修センター」を設置し,卒業生の進路決定を支援することを提案しています.
 最後になりますが,日本医師会は,今後も「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」を目指し,世界に冠たる国民皆保険の堅持を主軸として,国民の視点に立った多角的な事業を展開するとともに,真に国民に求められる医療提供体制の実現に向けて努力してまいりますので,何卒ご支援・ご協力のほどお願いいたします.

質疑応答

 その後の質疑応答では,参加者からTPPや後期高齢者医療制度の問題等,さまざまな問題に対する日医の見解を問う質問が出された.
 TPPについて,横倉会長はアメリカからのこれまでの要望等を考えれば,国民皆保険が維持出来なくなることは明らかだとして,改めてTPP交渉参加に対して反対の意向を表明.また,後期高齢者医療制度の問題については,「この問題は国民健康保険をどうするかということとセットで考えていかなければならない」とした上で,負担と供給を考えれば,ある程度大きなブロック単位で国民健康保険制度をつくり,その中に後期高齢者医療制度を包括していくのが良いとの考えを示した.
 なお,本講演の模様は,日本記者クラブのホームページ(http://www.jnpc.or.jp/)を参照されたい.

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