日医ニュース
日医ニュース目次 第1219号(平成24年6月20日)

中川副会長に聞く
医師不足の解消には地域偏在と診療科間の偏在解消が急務

 喫緊に解決すべき課題の一つとなっている「医師不足・偏在の問題」について,今号では中川俊男副会長に,日医の考えや今後の対応等について,説明してもらった.

中川副会長に聞く/医師不足の解消には地域偏在と診療科間の偏在解消が急務(写真) 政府が一九八二年に「医師については,全体として過剰を招かないように配置し,適正な水準となるよう合理的な養成計画の確立について検討を進めること」を閣議決定して以降,わが国では最近まで,医師数の抑制政策が続けられてきました.
 しかし,医師数抑制政策以前に養成された医師が多かったことなどから,抑制政策が採られてきた間も,実際には,人口当たりの医師数は年平均で一・四%増加していたため,医師不足が今日のように顕著に浮上することはありませんでした.
 その後,医師の名義貸しの問題や新医師臨床研修制度の導入により,地域によっては新たな医師を確保することが出来ず,外来を中止したり,病棟を閉鎖する医療機関が出るなど,医師不足が顕在化したため,政府はようやく二〇〇八年に医師養成数増加に方針を転換しました.
 これにより,二〇〇八から二〇一二年度までの既存医学部での累計増員数は千三百三十六人となり,医師養成数は二〇〇七年度に比べて,一・二倍に増えることになりました.
 それでは,今後の医師数の見通しはどのようになっているのでしょうか.
 二〇〇八年以降の医学部定員数増加分を加味して今後の医師数を推計して見ますと,二〇二五年の医師数は二〇一〇年比で約一・三倍の三六・二万人になります.
 また,人口千人当たりで見ても,わが国では人口が減少するため,現状の一・四倍の三・〇人になると見通されています.
 日医や厚生労働省の調査によれば,現状の必要医師数は実態の約一・一倍,患者の受療率から見た推計においても将来の必要医師数は一・二倍前後と考えられますので,一・四倍という数字は,医療の高度化,勤務医の負担軽減など,今後の環境変化に十分対応可能な数字と言えます.

医学部の新設は,かえって地域医療を崩壊させる

 医師不足を理由として,昨年十二月には,一部の県知事から,医学部新設を求める要望書が文部科学大臣宛てに提出されました.
 しかし,前述したように,千三百三十六人,つまりは新設医学部の定員数を仮に百人とした場合,約十三大学分に相当する数の医師が既に増えているわけですから,その必要性はありません.
 また,医学部を新設するには,地元の理解と協力が不可欠ですが,東北では宮城県医師会が今年四月に理事会の総意として,医学部新設に反対する旨の決議を全会一致で採択していますし,福島県立医科大学,東北大学,岩手医科大学からは,医学部新設に慎重な対応を求める文書が文科大臣宛てに提出されています.
 このように今回の医学部新設の動きが,地域の意見を反映したものにはなっていないことは明らかです.
 その他,医学部を新設した場合には,以下のような懸念もあります.
 まず,教員数確保の問題です.
 学校設置基準では,一学年が八十〜百二十人の場合,必要専任教員数は百四十人とされていますが,実際には各大学には,それ以上の教員が配置されています.
 医学部新設のため,その教員数を確保しようとすれば,医療現場から医師を引き揚げる動きが必ず出てきます.そうなれば,基幹病院,公的病院を含む地域の医療機関の医師不足はますます加速し,地域医療の崩壊が決定的となるのは明らかです.
 その上,教員が各地に分散してしまうことになれば,医学教育の水準,ひいてはわが国全体の医療の質の低下を招きかねません.
 また,いったん医学部を新設してしまうと,人口減少を始めとする,社会の変化に対応した医師養成数の柔軟な見直しが行いにくくなるといった問題もあります.
 このようなことから考えても,今,医学部を新設する必要は全くありません.これまでどおり既存の医学部定員を増やしていけば十分対応は可能であり,今後も医学部新設には強く反対していきたいと思います.

地域偏在・診療科偏在の解消策を早急にまとめる

 これまで述べてきたように,わが国の医師の絶対数は徐々に充足してくると考えられますが,「地域偏在」「診療科偏在」という二つの大きな課題が残っています.
 まず,「地域偏在」の問題ですが,医師不足が顕著な地域のひとつである北海道・東北を例に病院医師数の増減を二〇〇八年と二〇一〇年とで比較して見ますと,北海道全体では百十五人増加していますが,その内訳を見ると,札幌市で百十五人,旭川市で二十七人が増加している反面,その他の地域では二十七人減少しています.
 岩手県でも盛岡市では三十一人増加していますが,その他の地域では十四人減となっており,増加しているのは大学附属病院の所在地のみです.
 一方,診療所医師では,二〇〇八から二〇一〇年にかけて全国で千八百三十四人増加していますが,北海道・東北では一部の都市を除き,減少しています.
 都市部以外では人口が減少しているため,医師の絶対数が減少しても,人口千人当たりの医師数は増加しますが,もともと医師数が非常に少ない地域においては,絶対数の減少は深刻な問題となっています.
 こうした問題に対して,日医では二〇一一年四月に「医師養成についての日本医師会の提案―医学部教育と臨床研修制度の見直し―(第二版)」をまとめ,公表しました.
 この中では,(1)都道府県ごとに「医師研修機構」を設置し,その機構を束ねる「全国医師研修機構連絡協議会」が地域の実情を踏まえ,研修希望者数と全国の臨床研修医の募集定員数がおおむね一致するよう,都道府県ごとの臨床研修医募集定員数を設定する(2)研修希望者は,原則として各大学に設置する「臨床研修センター」に登録してもらう―ことなどを提案しています(図)
 今後は,これに加えて,「地域医療の経験を医師のキャリアアップの要件とすること」なども検討していく必要があると考えています.
 次に,「診療科偏在」の問題ですが,外科や産婦人科など,外科系の医師の数は確かに少なくなっています.
 これらの要因としては,「訴訟件数が外科系で極めて高くなっていること」,また,「呼吸器外科や心臓血管外科など,より専門に特化した診療科の医師が増加し,いわゆる一般外科の医師が減少していること」等が考えられます.
 「診療科偏在」の問題は,医師養成上の課題,生涯教育における課題,制度面での課題等,さまざまな問題が絡み合っているため,より難しい問題となっています.
 日医としては,まずは医療訴訟につながるケースを減らすとともに,医療事故を刑事訴追の対象にしないよう,医療事故調査制度の創設を強く求めていきます.また,医師,特に急増している女性医師が勤務しやすい環境整備にも努めていきたいと思います.
 いずれにしましても,この二つの問題は早急に解決しなければならない問題です.そのため,日医では,その解決策の検討を執行部内で開始しました.出来るだけ早く取りまとめを行い,政府に提言していきたいと考えておりますので,会員の先生方には,その実現に向けた支援と協力をお願いいたします.

中川副会長に聞く/医師不足の解消には地域偏在と診療科間の偏在解消が急務(図)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.